新しいPCR法(LD-PCR法)の開発と臨床遺伝子診断への応用に関する研究

文献情報

文献番号
199700091A
報告書区分
総括
研究課題名
新しいPCR法(LD-PCR法)の開発と臨床遺伝子診断への応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 賢治(国立感染症研究所感染病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来のPCR法は、多数検体のスクリーニングには適さない。これは、手技の複雑さと、厳密な操作を必要とするからである。そこで、まずできるだけ簡便で、しかもPCR本来の高感度を保った新しいPCR法を開発し、その臨床遺伝子診断への応用を図ることを目的とする。その一手技としてLigation- Dependent PCR(LD-PCR)法を開発した。この方法を用いれば、単一試験管内で核酸抽出からPCR反応まで遠心操作を要せずに連続して一連の操作が可能である。この方法の有用性を探ると共にさらに改良を加えて発展させ、将来的にはPCRの自動化を図り、臨床検査医学の現場で汎用されているELISA法と同様の感覚でPCRによる遺伝子診断が行えるようにすることである。
研究方法
外科的に採取された肝癌患者由来のホルマリン固定パラフィン包埋組織を用いて、HCV RNAの検出法について検討した。その実際は、まず10μmの厚さに薄切片を作製し、キシレンにて脱パラフィン後、5MのGuSCN bufferを加えた状態で加熱処理(100℃,30分)した。次いでHCV RNAの5'側にビオチン標識したcapture-probeを用いてサンプル中のRNAを捕捉し、さらにPCR法のための塩基配列と分離されたRNAに相捕的な塩基配列を持つhemi-probeを加えてハイブリダイゼーションを行った後、ストレプトアビジンでコートしたマグネチックビーズを用いて回収した。次に、RNA上に隣り合わせでハイブリダイゼーションされたhemi-probe同志をT4DNAリガーゼを用いてライゲーション反応を行い、hemi-probe間を結合させた後、PCR法を用いてhemi-probe領域の増幅を行った。尚核酸抽出からPCR反応までの一連の操作は、単一試験管内で連続して行えるように設計した。また、対照法には定法に従ってnested RT-PCR法を施行した。増幅遺伝子の検出は、2%アガロースゲルおよび8%PAGE電気泳動を用いて行った。
結果と考察
細胞内RNA陽性コントロールとして用いたβ-actin RNAは、検索対象とした全検体でRT-PCR法にて陽性を示した。LD-PCR法にて、HCV抗体陽性患者から得られたホルマリン固定パラフィン包埋肝組織中におけるHCV RNAの有無を検索した結果、13例中12例(92%)で検出できた。これに対し通常のRT-PCR法によるHCV RNA検出率は、13例中8例(61.5%)であった。陰性コントロールとして用いたHCV非感染肝組織では、全例HCV RNAは検出できなかった。LD-PCR法によって検出されたampliconの特異性は、HCV cDNAに特異的なcapture probeを用いたPCR ELISA法により確認できた。肝組織内におけるHCV RNAの直接検出は、HCV感染と肝臓病態、特に肝発癌との関係解明や、インターフェロン治療効果の判定に際し重要である。今回、LD-PCR法にて凍結肝組織のみならず、ホルマリン固定パラフィン包埋組織においてもHCV RNAの検出が可能であった。この成績は、通常のRT-PCR法よりも安定していた。これは、ホルマリン固定により組織中の核酸と蛋白質のクロスリンキングが起こり、これが通常のRT-PCR法の場合逆転写反応を阻害するが、LD-PCRの場合逆転写反応を必要とせず、しかもハイブリダイゼショーンに基づく反応であることによると考える。この方法は今後臨床医学の現場に豊富に存在するホルマリン固定パラフィン包埋組織を用いたウイルス感染症の遺伝子診断に有用であると思われた。
結論
新しい遺伝子診断法として開発されたLD-PCR法の臨床検体における有用性について検討した。今年度は、ホルマリン固定パラフィン包埋組織からのHCV RNA検出への応用を試みた。その結果、血清と同様に核酸抽出からPCR反応まで単一試験管内で遠心操作を必用とせず、しかも逆転写反応なしで検出する方法を確立することができた。その成績は、HCV抗体陽性患者から得られたホルマリン固定パラフィン包埋肝
組織の場合、13例中12例(92%)と高率にHCV RNAが検出された。これは、通常のRT-PCRに比べ、安定してしかも高感度にHCV RNAを検出できる成績であった。LD-PCR法は、今後病理検体として多くの病院で過去長期間にわたり豊富に保有してあるパラフィン包埋組織からのウイルスゲノムの検出にも有用であることが分かった。

公開日・更新日

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