欧米先進国の健康変革国際比較研究

文献情報

文献番号
199700090A
報告書区分
総括
研究課題名
欧米先進国の健康変革国際比較研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今、世界中で保健医療界の財政改革、医療供給体制の改革、政府の役割の転換からなる健康変革(Health Sector Reform)が同時に進行している。欧米先進国の動向を系統的に比較研究することにより、日本の改革に資することを目的とする。
研究方法
1.現状の把握
1)保健医療供給体制の現状把握と改革方策分析
現状を踏まえた上で、1次、2次、3次供給システムの所有形態運営状態の分析、人材養成確保の実態把握し、各国の改革の方向性をレビューする。特に「薬剤政策」「人材養成」等の項目の財源や規制の方法につき各国の相違を比較する。
2.健康変革の諸政策の評価
各種統計データ、たとえばOECDヘルスデータ97やWHOのHitシリーズデータ等や文献を用いて「ビスマルク」「ビベレッジ」システムにわけ、各国の諸政策を効率、効果、公平の3つの観点から定性かつできれば定量的に評価する。この作業を通して健康変革の諸政策の一般類型と市場と政府の役割分担を浮き彫りにし、その欠点、利点を明らかにする。
結果と考察
1.健康変革の方策
1) 薬剤費の削減
欧州各国で、医療費抑制の一環として、薬剤費抑制・適正化の試みが行われている。それらは患者の自己負担の導入、ポジティブ/ネガティブリストの作成、発売医薬品数の制限、薬価統制政策、薬価凍結などの価格統制、医薬品メーカーに対する販売規制、参照価格制、などである。ビバレッジ型においては供給側への方策が多く用いられており、ビスマルク型の国は市場側の方策が中心である。需要側への方策である受益者負担についてはほとんどの国が導入している。
2)受益者負担
受益者負担は、需要マネジメントのツールとしては医療費抑制を目的とし、また財源制度としては歳入創出を目的としている。しかし需要抑制効果には限界があり、公平性を損なう危険性が伴ったり歳入創出効果も限られているなどの理由から、受益者負担については批判も多い。薬剤費の受益者負担はオランダ以外全ての国で導入されているものの、医療サービスに関しては特にビバレッジ型の国においては受益者負担は全くないか部分的な導入で押さえている国が多い。
3)医師・病院への支払い方式
支払い方式には支払い単位、支払い水準の決定者、支払い者、という3つの要素が存在し、また支払い単位によって、財務リスクの負担者とリスクの大きさや医療提供側へのインセンティブも異なる。欧州においては、人頭払い・給与などが中心のビバレッジ型と出来高払い中心のビスマルク型の両者の利点を合わせた混合型を採用する傾向があり、また、特に自由度の高いビスマルク型において、医療費抑制政策を導入する動きがあり、総枠予算やDRGなどによる包括予算制の導入も増加している。
4)病院マネジメント
病院中心医療からの脱却と、病院セクター内の資源利用の効率化は健康変革の大きな課題である。病床数などにみる欧州における医療資源配分はビバレッジ・ビスマルク型、あるいは公的・民間セクターなどによって異なっている。この既存の資本投資パターンを改革するために費用対効果が指標として使われるようになり、病院サービスより費用対効果が高いといわれる予防対策やPHCへの移行がおきている。また一方で、デイケースの導入、退院の促進などミクロレベルでの病院マネジメントの効率化の試みが行われている。
5)財源制度
財源制度の類型にはドイツなどに代表される社会保険主体の国、イギリス・北欧などに代表される財主体の国、そして社会保険から税主体への移行中の国々である南欧諸国、の主な3類型がある。いずれの類型においても財源の混合形態がその特性を決定しているが、社会保険主体の国では「競争」と「消費者の選択」を通じて、税主体の国では「分権化」を通じて効率性を向上させようという政策が多くとられている。しかし、負担の公平性の確保については効率性の向上との間にトレードオフが存在するため、非常に困難であるとされている。
2.各国
1) フランス  
1995年からのJuppeプランから、医療保険制度の一本化や地方分権化、総枠規制など様々な改革が計画されている。また1989年よりDRGをもちいた医療情報化計画(PMSI)による公的病院に対する予算分配の地域格差是正が始められ、医療計画が初めて実効性をもちつつある。このPMSIをもちいて病院毎の活動評価や包括支払い方式への応用も模索されている。 
2) イギリス
1991年より、準市場といわれる管理競争がNHSに導入され、GP Fundholder と呼ばれる一定の要件を満たしたGPが予算を与えられ、患者の代理人となって病院サービスを購入するという改革が行われていたが、医療の消費に不公平が生じたなどの理由から、1997年から、複数のGPと保健婦などで構成されるプライマリケアグループへの権限の委譲が計画されており、内部市場の段階的廃止が決定され、在宅ケア・一次医療重視の政策を打ち出している。
3)オランダ
1989-1995年の間、Dekker-Simmons Planとよばれる医療改革を実施し、複数の保険者を同じ市場の上で競わせ国民に保険者の選択権を与えることによって、「管理された競争」を導入したが、保険者による患者のクリームスキミングなどの問題が生じている。1995年からは、長期療養保険における競争原理の導入が中断され、事実上オランダの医療改革はとん挫した形となっている。
3.定量分析
日本を含む先進8ヶ国の医療費の変化に対する高齢化、薬剤費係数の変化の相関を見ると、各国で様々であったが、スウェーデンを除いて医師数が強い相関を示した。また公的医療費の変化と公的病院の病床数の変化の相関は、イギリス、スウェーデン等ビベレッジシステムにおいては共にその減少がみられたが、フランス、ドイツ、日本等ビスマルクシステムにおいては明らかな傾向はみられなかった。
結論
先進国では現在、保健医療界における総合的制度改革、健康変革が進行中で、様々な試みがなされている。日本とその条件が類似しているところがあり、日本の改革にも参考になると考えられる。

公開日・更新日

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