医療機器のEMC基準に関する研究

文献情報

文献番号
199700088A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機器のEMC基準に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
菊地 眞(防衛医科大学校医用電子工学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 井上政昭(泉工医科工業)
  • 小野哲章(神奈川県立衛生短期大学)
  • 内山明彦(早稲田大学理工学部)
  • 古幡博(東京慈恵会医科大学)
  • 坪田祥二(東芝・品質保証部)
  • 山口宣明(アイカメンテナンスサービス課)
  • 渡辺敏(北里大学医療衛生学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の医療施設では多数の医療機器が使用されており、その中には強力な電磁界を出力する治療機器と電磁界の影響を受けやすい検査・診断機器が含まれている。したがって、これらの機器が調和して動作し、誤動作や破壊を生じないような電磁環境対策を講じる必要がある。本研究では、これらの機器が最低限備えるべき機器基準と病院等の設備面で対応すべき設備基準、そして使用する際に注意すべき使用指針について検討する。
研究方法
平成9年度は昨年度に引き続いて最新情報に基づく調査・研究を行うことに重点をおいた。治療機器については昨年度残されたその他の機器の放射電磁界強度やイミュニテに関する定量データを把握した。また、一般的ガイドラインの検討に基づき医療機器のEMC管理のあり方とクラス分けについてさらに踏み込んだ提言をまとめた。
一方、機器側の基準だけでは実際の現場レベルではEMCが十分確保されないので、併せて設備基準と使用指針の考え方を提示し、トータルシステムとしてのEMC総合対策について研究した。
結果と考察
本年度は、以下の結果を得た。
1.医用電気機器に関する一般的ガイドラインについてまとめた。
2.治療機器のガイドラインについてまとめた。
3.植込機器のEMI管理についてまとめた。
4.在宅医療機器のガイドラインについてまとめた。
5.医療設備と使用指針の考え方についてまとめた。
6.医療機器のEMC管理の考え方についてまとめた。
7.医療施設におけるEMCの実態とその対策についてまとめた。
平成9年度においては、日医機協傘下の全工業会が各々の特殊性を勘案しながらもほぼIEC601-1-2(1993年版)で制定された要求事項を尊守することを表明しており、機器そのものに関するEMC対応は確実に実行に移されたものと判断された。さらには既に先行して実施されているEC圏におけるEMC規制の現況を鑑み、CEマーク取得の際の認証機関の相互承認などの現実的問題を勘案すると、現時点においても、むしろ日本工業規格(JIS)原案を作成して近い将来の制定に向けての作業に早急に入るべきとの気運が強い。
なお、平成9年度でほぼ改定作業が終了した新しい医用電気機器安全通則(旧JIS T1001及びT1002の改制版)においてもEMCに関する一般的要求事項が欠落しており、EMC基準のJIS化の意義が薬事法との関連でもきわめて重要な意味をもつことになる。
結論
本報告書の各章で述べられているように、相互干渉防止基準に盛り込むべき基本的考え方と最近生じた具体的事例については各班員が国内・外の本問題に関係する諸活動に深くかかわっていることからほぼ洗い出されたものと言えよう。平成9年の日医機協のガイドライン制定とその実施に見られるような一連の動きから、今後は医療機器として許・認可された大方の機器については、ある程度のEMC基準におさまるものになることが予想される反面、例えば日医機協のガイドラインでも、医用電気機器に接続されるパーソナルコンピュータやプリンタなどの周辺機器については検査対象外にしており、ガイドラインは医用電気機器の本体のみにその適用範囲が限定されている。したがって、各医療施設が購入した医用電気機器とパーソナルコンピュータやプリンタなどを現場で接続した場合や、その他の家電製品(電気毛布、マッサージ器、テレビジョン等)を患者が持ち込んで併用した場合などについては、医療施設内の電磁環境が担保されるか否かの疑問が残る。このような一般的電気製品と医療機器を組合せて使用する「システム使用」に関しては、電気的安全性の観点から平成9年度においてJIS原案「医用電気機器システムの安全通則」が検討されており、その内容はほぼ固まったものと言える。しかしながら、EMCにまつわる事項は、前記の安全通則と同様に欠落しており、これらについては今後更に検討すると伴に、本報告書の「医療設備と使用指針についてのガイドライン」及び「医療機器におけるEMC管理の考え方」で示されたような設備面や使用者側の適切な対応無しではEMCの確保は困難と思われる。
この他、医用機器として承認された機器についても、古い年代の医用機器については雑音を多く発生するものや、きわめて影響を受けやすい機器が比較的多く存在する。さらに、施設内にある各種電子機器の使用周波数が互いに干渉しやすいもの(例えば、ある種のナーシングコールとプログラマブルペースメーカとの干渉など)が存在する。これらの現象は医療施設内だけの問題にとどまらない。日常生活で使用されるおもちゃやゲーム機なども電子・通信化される傾向にあり、在宅医療などで家庭内や社会環境内に医療機器が持ち込まれて使用される場合には電磁干渉が大きな問題になろう。さらに最近では、家庭や高齢者用施設などにおいて電磁調理器などを具備させる傾向が強くなり、これらが心臓ペースメーカーに与える影響も懸念される。その他にも日常生活環境における電子化は著しく進行しており、携帯電話により通信衛星と直接通信するための携帯電話の高出力化、高速自動車道路料金所などにおける無人化(無線化)など電子化に伴う電磁的影響の可能性は枚挙にいとまがない。この他、今後の高齢化社会の中で電動車椅子などの普及に伴う電動用モータや制御回路から発信される電磁波の心臓ペースメーカーへの影響なども懸念される。或いは、携帯電話使用禁止を技術的に実行させるために新たに携帯電話妨害電波を区域内で発生させる、いわゆる「毒を持って毒を制す」的な方向も出しつつあり予断を許さない。
現状では機器規制に関しては、国内においても着実に進行しており、今後のJIS化の問題を含め既に現実化しつつある。したがって今後は、医療施設における設備規制や使用管理規制といった、いわば医療側に対する要求事項が論議されることになる。これらの課題については、機器規制とは異なる“医療側の都合"に基づく諸要因が別個に存在し、たんに理想論をかかげただけでは実践に結びつかない面があり、今後はいかにして現実的なガイドラインを検討するかに問題が絞られよう。いずれにしても、医療現場の中で一人でも多くのEMCに関する正確な知識をもった専門家が育つことが望まれる。さらには、EMCにまつわる事故事例がその軽重にかかわらず一つでも多く報告(または収集)されることが肝要であり、それらを実行させるための具体的システム作りを始める必要がある。また、機器規制については、輸入品の仕様が我国のEMC規格の内容と整合しない場合についても留意する必要があり、外国の製造業者が容易には国内規格適合製品に改造しない現状を配慮しなければならない。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)