若年黄斑変性カニクイザルの病理学的および分子生物学的解析

文献情報

文献番号
200500889A
報告書区分
総括
研究課題名
若年黄斑変性カニクイザルの病理学的および分子生物学的解析
課題番号
H15-難治-008
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 岳(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 寺尾 恵治(医薬基盤研究所霊長類医科学研究センター)
  • 吉川 泰弘(東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • 溝田 淳(順天堂大学医学部)
  • 野田 徹(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
黄斑は角膜と水晶体によって収束した光が網膜上で結像する領域で、光を感じる視細胞が最も密に集中する。ここは視力を決定する重要な部位であり、障害されると著しい視力低下、ひいては失明に至る。代表的な疾患として難治性疾患、加齢黄斑変性がある。加齢黄斑変性は米国では65歳以上で失明率が最も高い眼疾患であるが、日本でも急速な高齢化と生活の欧米化によって患者数は急増しており、その原因解明と予防・治療法の開発が急がれている。
研究方法
(1)疾患サルの繁殖

(2)疾患サルの眼底検査

(3)若年黄斑変性カニクイザルのデータベースの構築

(4)疾患サルの病理学的解析

(5)ドルーゼンのプロテオーム解析

(6)黄斑部と網膜周辺部のプロテオーム解析

(7)候補遺伝子の遺伝子解析

(8)若年性黄斑変性カニクイザルの連鎖解析

(9)加齢黄斑変性カニクイザルの自己免疫抗原体の解明

(10)加齢黄斑変性患者の血液検体の収集と自己免疫抗体の探索、質量分析計による血漿解析による疾患マーカーの検索
結果と考察
 若年性黄斑変性を発症している雄ザルを種親として39頭の雌ザルと交配し、9頭の新生児を得た。黄斑変性と診断された雌雄を交配し、疾患遺伝子のホモ個体の作出を試みた。17年末の維持頭数は疾患個体29頭、未判定個体11頭の計40頭である。疾患は常染色体優勢遺伝しており、単一遺伝子の変異に疾患と予測される。
 眼底観察、網膜電図、蛍光眼底撮影、蛍光眼底造影などの結果、若年性黄斑変性カニクイザルは生後1年から2年で黄斑部からドルーゼンが現れ、加齢とともに周辺部もドルーゼンで覆われる。最高17歳の疾患サルを観察しているが、血管新生はまだ観察されていない。
 若年性黄斑変性カニクイザルのドルーゼンは生後間もなく現れるが、その組成については免疫染色の結果、加齢性黄斑変性カニクイザルやヒト加齢黄斑変性のドルーゼンと同じ組成であることが明らかとなり、補体因子活性化因子、補体因子、補体抑制因子などのタンパク質が同定された。加齢黄斑変性の初期の病態が生後2年で現れることが免疫染色によっても証明された。
結論
本研究によって世界で唯一の霊長類黄斑変性モデルとして確立することができた。特に早期における治療法も含めた予防・治療薬の開発には大きな貢献が期待される。疾患個体数がまだ十分とは言えないが、効率的な疾患個体の運用によって多くの薬剤に対する評価ができるようなシステムを確立したい。

公開日・更新日

公開日
2006-05-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200500889B
報告書区分
総合
研究課題名
若年黄斑変性カニクイザルの病理学的および分子生物学的解析
課題番号
H15-難治-008
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 岳(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 寺尾 恵治(医薬基盤研究所霊長類医科学研究センター)
  • 吉川 泰弘(東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • 溝田 淳(順天堂大学医学部)
  • 西村 俊秀(東京医科大学臨床プロテオームセンター)
  • 野田 徹(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 黄斑は角膜と水晶体によって収束した光が網膜上で結像する領域で、光を感じる視細胞が最も密に集中する。ここは視力を決定する重要な部位であり、障害されると著しい視力低下、ひいては失明に至る。その代表的な疾患として加齢黄斑変性がある。加齢黄斑変性は米国では65歳以上で失明率が最も高い眼疾患であるが、日本でも急速な高齢化と生活の欧米化によって患者数は急増している。黄斑は高解像度の視力を獲得した霊長類でのみ発達し、通常の実験に使用されるマウスやラットには存在しない。根本的な予防法や治療法が確立できない理由の1つとして、黄斑のある疾患動物が存在しなかったことが原因と考えられる。霊長類医科学研究センターの黄斑変性カニクイザルは生後2年でドルーゼンを発症する世界で唯一の動物モデルである。本研究ではこのモデル動物の詳細な解析により、原因の解明とこれまでの血管新生より早い時期における治療法の方向性を確立することを目的に行った。

研究方法
(1)疾患サルの繁殖
(2)疾患サルの眼底検査
(3)若年黄斑変性カニクイザルのデータベースの構築
(4)疾患サルの病理学的解析
(5)ドルーゼンのプロテオーム解析
(6)黄斑部と網膜周辺部のプロテオーム解析
(7)候補遺伝子の遺伝子解析
(8)若年性黄斑変性カニクイザルの連鎖解析
(9)加齢黄斑変性カニクイザルの自己免疫抗原体の解明
(10)加齢黄斑変性患者の血液検体の収集と自己免疫抗体の探索、質量分析計による血漿解析による疾患マーカーの検索
結果と考察
 若年性黄斑変性を発症している雄ザルを種親として39頭の雌ザルと交配し、9頭の新生児を得た。黄斑変性と診断された雌雄を交配し、疾患遺伝子のホモ個体の作出を試みた。17年末の維持頭数は疾患個体29頭、未判定個体11頭の計40頭である。疾患は常染色体優勢遺伝しており、単一遺伝子の変異に疾患と予測される。また、眼底観察、網膜電図、蛍光眼底撮影、蛍光眼底造影などの結果、若年性黄斑変性カニクイザルは生後1年から2年で黄斑部からドルーゼンが現れ、加齢とともに周辺部もドルーゼンで覆われる。ドルーゼンの組成については免疫染色の結果、補体因子活性化因子、補体因子、補体抑制因子などのタンパク質が同定された。加齢黄斑変性の初期の病態が生後2年で現れることが免疫染色によっても証明された。
結論
 本研究によって世界で唯一の霊長類黄斑変性モデルとして確立することができた。今後早期における予防・治療薬の開発に向けて、我々は大きな貢献ができると期待している。

公開日・更新日

公開日
2006-05-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500889C

成果

専門的・学術的観点からの成果
加齢黄斑変性が発症する黄斑部は霊長類(ヒト、サル)で発達しており、一般的に実験で使われるマウスやラットには存在しない。我々は加齢黄斑変性の初期に観察されるドルーゼンを発症するカニクイザルを発見し、ドルーゼンの組成や自己抗体の発見によって、発症機序の骨格が明らかとなってきた。
臨床的観点からの成果
現在行われている加齢黄斑変性の治療は、疾患末期に生じる血管新生を抑制することに重点がおかれている。しかしながら、血管新生が進行している網膜において、これを抑制するだけでは、視力の回復が見込めないことが多い。血管新生の前の段階である、ドルーゼンの蓄積画観察される霊長類モデルを使った研究成果は今後の臨床応用が期待できる。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
今回の実験によって加齢黄斑変性の初期において、網膜下において補体の活性化が生じているとことが明らかとなってきた。補体抑制剤は市販されておらず、その開発が求められる。補体の抑制はリウマチや臓器移植、一部の腎炎などにも効果があると考えられ、加齢黄斑変性の予防薬の開発は他の疾患への応用も期待される。
その他のインパクト
我々の疾患モデル動物はのアメリカの眼学会でも紹介され、ベンチャー企業からの共同研究の依頼が多数寄せられた。2006年3月24日に感覚器センターにおいて開かれた第1回感覚器シンポジウムにおいて、特別講演としてこの研究内容が岩田岳によって発表された。我々はこの研究によって加齢黄斑変性の分野において国際的な貢献ができると考えている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
65件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
2006年3月24日台回感覚器シンポジウムにて研究内容を発表

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Umeda, Iwata et al.
Early onset macular degeneration with drusen in a cynomolgus monkey (Macaca fascicularis) pedigree caused by a novel gene mutation.
Invest Ophthal Vis Sci , 46 , 683-691  (2005)
原著論文2
Umeda, Iwata et al.
Molecular composition of drusen and possible involvement of anti-retinal autoimmunity in two different forms of macular degeneration in cynomolgus monkey (Macaca fascicularis).
FASEB J , 19 , 1683-1685  (2005)
原著論文3
Umeda, Iwata et al.
Cloning and Characterization of ELVLO4 Gene in Cynomolgus (Macaca fascicularis) Monkey.
Experimental Animal , 52 , 129-135  (2003)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-