DNA鑑定に関する研究

文献情報

文献番号
199700087A
報告書区分
総括
研究課題名
DNA鑑定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
芝野 勝成(近畿地区麻薬取締官事務所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐竹元吉(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物事犯被疑者の特定方法としてヒトDNA鑑定が最も有用な手段。薬物事犯において収集される微量生体試料からの精度の高く、簡便かつ迅速に行うことができるDNA鑑定法の確立。大麻取事犯の大麻(Cannabis sativa)鑑定は必須、譲渡譲受事犯の大麻の同一性鑑定には、DNAを指標とした判定が有用と思料。そこでDNAをマーカーとする方法が成分変種である品種間での鑑別に応用できるか5S-rRNAのスペンサー領域での検討、大麻成分の生合成酵素遺伝子をマーカーとして鑑定に応用。更にメキシコ種、トチギシロ種、奈良栽培種という3つのchemotype間の遺伝学的関係を分子レベルで解析。葉緑体ゲノム上遺伝子trnKを対象とし解析を実施。PCR-RFLP法により、その塩基配列を間接比較。
研究方法
《ヒトDNA》ちり紙等に付着の体液及び毛髪のDNA鑑定法は、ABO式血液型の遺伝子型の検出とSTR多型を検討。ABO式血液型の遺伝子型の検出は改良PCR-APLP法を新たに用いて実施。STRシステムは,vWA,TH01,TPOXを使用。更に、PEP法やTaq Extender PCR Additive法及びT4 gene 32 protein使用法で各DNA型の検出を実施。(1)DNA抽出 DNA抽出法はChelex法。PCR反応の鋳型DNAとした。(2)ABO式血液型の遺伝子型及びSTR多型検出 ABO式血液型の遺伝子型検出は改良法を使用。10種類の特異プライマーを用いPCR、増幅産物をポリアクリルアミドゲルで電気泳動後、銀染色法でアリルの検出を行い型判定を実施。使用したSTRシステムはvWA,TH01,TPOX。各STR座位はPCR増幅、変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動後、バンドパターンの検出を銀染色法で実施。(3)Primer Extention Preamplifi-cation法(PEP法) 鋳型DNAの全領域の増幅を実施。Chelex法で抽出したDNA試料を処理し、増幅産物を鋳型DNAとした。これを用いて各DNA型検出のPEP-PCRを実施。(4)Taq ExtenderTM PCR Additive及びT4 gene 32 proteinを用いる方法 Taq ExtenderTM PCR Additiveを添加してPCR増幅を実施。又、T4 gene 32 proteinを添加、PCR増幅を実施。
《大麻DNA》(1)RAPD及びRFLP分析による大麻(Cannabis sativa)の系統解析 トチギシロ種等3系統のCannabis sativaを材料、種子から培養の各植物体の新鮮葉を使用、ゲノムDNAを抽出、鋳型とし、ランダムプライマーを使用、PCR反応等を行い、RAPDプロファイルを得た。又、ゲノムDNAを制限酵素にて断片化、ハイブリダイズを実施、RFLPプロファイルを得た。更に、平行して各新鮮葉のメタノール抽出物をGC分析でCBD、THCの含有量を算出。(2)大麻及び近縁な植物のPCR法を使っての分類の試み クワ科(アサ科を含む)植物のクワクサ属等の植物の葉を使用、DNA採取。PCRのプライマーは5S-rRNAの配列を利用。採取のDNAをテンプレートとしPCR等を実施。得られたプラスミドを採取、PCR product の塩基配列を調査。遺伝子解析ソフトにより配列の解析を実施。(3)大麻の成分生合成酵素DNAの鑑定への応用 CBCA synthaseの精製を各種カラムクロマトにより実施。CBGAをインキュベート、生成物を光学分割カラムにて光学活性を確認。更にCDコットン効果を測定。精製したTHCAsynthaseを制限酵素により部分分解、相当する塩基のプライマーを合成、各フラグメントを合成、全長塩基のクローニングを実施。(4)PCR-RFLP法を用いたDNAによる大麻の鑑定 メキシコ種等の各植物の葉から抽出の全DNAを使用。PCRによるtrnK遺伝子領域の増幅は既報の方法により実施。
結果と考察
《ヒトDNA》(1)微量生体試料からのABO式血液型の遺伝子型検出 各微量生体試料からChelex法抽出のDNA試料及びPEP法を行ったDNA試料を使用、PCR-APLP法ABO式血液型の遺伝子型の検出を実施。毛髪、膣液斑、血痕斑から通常のPCR法及びPEP-PCR法で型判定を行うことができ、又、PEP-PCR法でも通常のPCR法の結果と矛盾せず。唾液斑については再検査結果、PEP-PCR法で型判定が可能であった。又、他の膣液斑、眉毛、各精液斑からも容易に型判定ができた。PCR-APLP法は1本のチューブで容易に迅速に型判定することができ、多くの遺伝子型にタイピングすることが可能で有用と考えられる。又、微量生体試料からのDNA型判定はChelex法と従来のPCR法でその殆どはできたが、一部に型判定ができなかった例についてもPEP-PCR法により可能となり、微量試料に対するPEP法の有用性も考えられた。(2)微量生体試料からのSTR多型の検出 STRシステムのTH01について各DNA試料について検出を行ったところ、通常のPCR法で概ね型判定を行うことができたが、一部アリルのバンドが不鮮明や検出できなかった例があった。これらはPEP法及びTaq Extender PCR Additive法やT4 gene 32 proteinを用いる方法で型判定が可能となった。更に、STRシステムのvWA、TPOXにつき種々の微量生体試料からDNA型の検出。
以上、各STRシステムのアリルの型判定に際し、PEP法及びTaq ExtenderTM PCR Additive法やT4 gene 32 proteinを用いる方法を行うことにより更に精度が高いDNA型判定ができ、微量試料からのDNA鑑定に有用であることが判明。
《大麻DNA》RAPD及びRFLP分析での大麻系統解析は、トチギシロ種が繊維種で、メキシコ種が麻薬種であることが明白に確認。又、奈良栽培種は、中間麻薬種であると考えられた。RAPD分析ではPCR反応の結果、系統内で個体間レベルの多様性が認められたが、系統間ではそれぞれ独立した品種を成すことを確認。RFLP分析では系統内での多様性は全く認められず。又、トチギシロ種と奈良栽培種とは遺伝的に近縁で、メキシコ種は他の2種と遺伝的に遠いことが示された。これらのことから、RAPD及びRFLP分析法により、大麻の成分変種である品種間での鑑別に応用できる可能性があると考えられる。大麻及び近縁な植物のPCR法を使っての分類の試みでは、ベンガルボダイジュ等からはDNAを抽出することが出来ず、その他からはDNAが抽出でき、塩基配列を決定。どの植物においても5S-rRNA部分の塩基配列はどの種類においてもほぼ一定であることが判明。スペンサー領域ではクワクサ属、イヌビワ属、クワ属の属間での塩基配列のホモロジーは高かったが、カラハナソウ属及びアサ属では低いホモロジー値を示した。カラハナソウ属及びアサ属の5S-rRNA部分のスペンサー領域の配列には特徴が見られ、TAKHTAJANの分類でこれらの植物をアサ科に区分することを良く支持している。大麻を含むアサ科及び近縁植物の鑑別のためにDNAを対象とする試験方法が有効であることが示唆。大麻の成分生合成酵素DNAの鑑定への応用としては、化学合成したCBCAは光学不活性体であるが、酵素反応により、生成したCBCAは光学活性を示した。このことを光学分割カラム及びCDスペクトルにより証明。THCAsynthaseを制限酵素により部分分解、各フラグメントのアミノ酸シークエンスを実施。相当する塩基のフライマーを合成し各フラグメントのcDNAを合成、全長を大腸菌にクローニング。大腸菌におけるDNA及びTHCAsynthase蛋白の発現は認められたが、その活性は認められず。本研究により生合成酵素により生成したものは光学活性体であることが判明。THCA synthaseに相当するDNAの発現が可能になり、大麻に於ける遺伝子マーカーとなるものと期待される。PCR-RFLP法DNAによる大麻の鑑定は、どの系統の植物から調製したDNAを鋳型としても、増幅産物が得られた。
結論
ヒトDNA鑑定は、薬物事犯を考慮した種々の微量生体試料からの各STR多型及びABO式血液型の遺伝子型の検出を行ったが、従来のPCR法の手法では一部に検出できないものが認められたが、PEP法及びTaq Extender PCR Additive法やT4 gene 32 proteinを用いる方法を行うことにより全ての試料において正確にかつ迅速にDNA型の検出を行うことを確認。今後、如何なる薬物事犯例において被疑者特定のための鑑定試料が極めて微量である場合でも、上記の方法により正確なDNA型の型判定をすることが可能であると考えられ、精度の高いDNA鑑定ができるものと期待される。また、大麻DNA鑑定については、最終年度に鑑定方法としては有効であることを確認。分類学的な類縁植物との区別、大麻(アサ)の薬用型と繊維型の区別、成分の生合成遺伝子レベルでの特徴が明らかになり、この研究方法は多くの生薬・薬用植物の鑑定にも有用と思われる。

公開日・更新日

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