シリコーンオイルを含有する家庭用エアゾル製品に関する研究

文献情報

文献番号
199700085A
報告書区分
総括
研究課題名
シリコーンオイルを含有する家庭用エアゾル製品に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
鹿庭 正昭(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山下衛(筑波大学臨床医学系・救急部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 呼吸困難、咳等を主体とする呼吸器系症状を呈する、靴・皮革用の防水スプレーによる急性中毒事故が、1992年暮れより冬期を中心に多発し、1994年11月には死亡事故が発生した。また、1995年2月にはシリコーンオイルを配合したさび止めスプレーにより中毒事故が発生した。一連の防水スプレーによる中毒事故は、1996年度には発生例が数件ほどに減り、鎮静化したものと考えられた。
ところが、1997年4月頃から、再び防水スプレーによる中毒事故が計13件発生した。そこで、1997年度厚生科学特別研究の「シリコーンオイルを含有する家庭用エアゾル製品に関する研究」(2年目)において、以下のような検討を行い、った。
すなわち、原因製品は、同一メーカーによって充填され、複数メーカーより販売されていたものであった。原因製品には、撥水剤としてフッ素樹脂のみを配合したもの、及びフッ素樹脂とシリコーンオイルを併用したものの2種類があり、フッ素樹脂のみの製品のほうが中毒事故の発症頻度が高かった。
メーカーからの情報によると、これらのスプレーについては、付着率の測定、動物(マウス)を用いたスプレー使用実験を実施し、安全性を確認したものであるとのことであった。
そこで、中毒事故後メーカーにより回収されていた製品、東京都内及び北海道内の小売店から入手できた製品に用いて、メーカーによる試験結果の追試を行った。すなわち、噴霧粒子径(粒子径10μm以下の粒子存在率)、付着率の測定、及び山下らの方法によるマウスを用いたスプレー使用実験の結果をもとに、防水スプレー製品における呼吸器系障害性の相対評価法の妥当性を再検討した。
研究方法
 防水スプレーについて、事故品及び市販製品を用いて、光学的測定法による噴霧粒子の粒子径測定、及びエアゾール防水剤の付着性試験方法 H6/8/18に準じた付着率測定を実施した。また、事故品等を用いて、ヒトで生じた中毒症状をマウスで再現するためのスプレー使用実験を山下らの方法に準じて行った。
結果と考察
 噴射粒子の平均粒子径及び10μm以下の粒子存在率については、事故品及び非事故品ともに、平均粒子径は60μm程度であった。また、10μm以下の粒子存在率も、事故品では0.5~1.0%、非事故品でも0.5%程度であり、ほとんど差は見られなかった。
また、付着率については、メーカーからのデータでは、噴霧直後60%の暫定指針値をほぼ満足していた。しかし、追試の結果では、事故品、非事故品ともに、40~55%と暫定指針値を下回っており、現在出回っている改良製品(80%程度)と比べて付着性の悪い製品であった。
これまでの中毒事例の検討結果をもとに考察すると、以上の測定結果からは、事故品が非事故品よりも事故発生の可能性が特に高いものとは判定しえなかった。しかし、今回の原因製品いずれも、現在市販されている改良製品に比較して、明らかに付着性の悪い製品群であり、「中毒事故を引き起こし得る」製品群と考えられた。
マウスを用いたスプレー使用実験においては、メーカーによると、事故品においても肺障害性は認められなかったという。しかし、メーカーの委託によって実施されたスプレー使用実験方法については、?山下らの方法[市販防水スプレー製品での試験法(スプレー使用実験)]に準拠したものではなかった、?吸入用実験装置のサイズが小さいものに変更されていた、?ポジティブコントロール(肺障害を引き起こすことが確認されたもの)による試験法の検出能力の確認が全く行われていなかった等、試験のやりかたそのものに問題点があることが明らかとなった。
筑波大学において事故品及び非事故品について再検討した結果、:?非事故品(ノンウェット:1996年7月製造、ロット番号960710)では、全く肺障害性は確認できなかった、?事故品(ノンウェット:1997年12月製造、ロット番号961226)では、試験したマウス全数に、これまでに確認されている中毒事例中で最強の肺障害性が確認された、?北海道における事故品(商品名:ノンウェット、ロット番号6L5)でも、試験したマウスに強い肺障害性が確認された。
以上のように、噴霧粒子径及び10μm以下の粒子存在率、付着率の確認とともに、動物を用いたスプレー使用実験を的確な実験方法、評価方法に沿って実施し、製品における肺障害性の確認を行うことが、防水スプレーによる一連の中毒事故の原因究明を行ううえで、また、防水スプレー等の家庭用エアゾル製品の安全性確保を進めていくうえで不可欠であることが再確認された。
結論
 呼吸器系障害性は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンオイルの順に弱くなることが確認されている。とはいえ、市販の家庭用エアゾル製品においては、噴霧粒子径がかなり細かく、粒子径1Oμm以下の粒子存在率が高く、また付着率が低いものが少なくないことから、中毒事故の発生を予防するうえで安全対策を十分に講じていくことが必要である。
シリコーンオイル等を家庭用エアゾル製品に配合する場合においても、フッ素樹脂、シリコーン樹脂を配合する場合と同様に、家庭用エアゾル製品の安全性を考えるうえで基本的な情報として、粒子径、粒子径1Oμm以下の粒子存在率、付着率に注目するとともに、家庭用エアゾル製品における使用条件下での肺障害性を考慮しながら、製品の企画・製造を行う必要がある。すなわち、安全な家庭用エアゾル製品の開発には、以下の点について考慮しながら行うことが必要である。
・フッ素樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンオイルなどの配合成分そのものについて、
吸入毒性試験により毒性強度を評価する
・家庭用エアゾル製品の噴射粒子径、付着率などを測定し、肺胞への到達度を予測する
・家庭用エアゾル製品における使用条件下での吸入毒性試験を実施し、製品の毒性強度
を評価する

公開日・更新日

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