麻痺性貝毒試験に用いる標準品の開発に係る研究

文献情報

文献番号
199700084A
報告書区分
総括
研究課題名
麻痺性貝毒試験に用いる標準品の開発に係る研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
安元 健(東北大学農学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大島泰克(東北大学農学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
貝毒による二枚貝の毒化が世界的に広域化の傾向にあることから、早急な監視体制の整備が必要となっている。これまで我が国における麻痺性貝毒の監視はマウス毒性試験によって行われてきたが、標準毒の供給がないため、必ずしも国際的基準に一致せず、水産食品の輸出入に関わる製品管理の面から問題となっている。一方、国際的に標準毒として広く用いられてきたサキシトキシンは平成7年から施行された「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」に抵触するために実質的に使用不能となっている。そこで、本研究は麻痺性貝毒の標準としてデカルバモイルサキシトキシンを選び、標準毒としての有効性を調査するとともに標準毒製造に関わる基礎データを収集し、早急に標準毒の供給体制を整備して国際基準に合致した食品の安全性管理をはかることを目的とする。
研究方法
CSIROから供与されたオーストラリア産ラン藻 Anabaena circinalis の最適な培養条件を検討するとともに、培養期間と毒生産能の関係を調査した。毒の定量には我々の開発した蛍光高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。また、増殖と毒生産の両面から10 L 容器を使ったA. circinalis の大量培養法および培養液からの藻体の分離法と培養液中からの毒の回収法について検討し、さらに、各種クロマトグラフィーを用い、デカルバモイルサキシトキシン 製造の原料となる C1, C2 の簡便な精製法を検討した。
結果と考察
昨年度の研究で、デカルバモイルサキシトキシンが、世界的に生物試験の標準として使われてきたサキシトキシンと比較して、マウスに対して同様の毒性を発現し、新しい標準となりうることを明らかにした。また、サキシトキシンの同族体である C1, C2 toxin から、サキシトキシンを経由せずに化学的にデカルバモイルサキシトキシンへ変換する反応を明らかにした。そこで、本年度はデカルバモイルサキシトキシン製造のための原料確保を目的として、麻痺性貝毒生産ラン藻 Anabaena circinalis の大量培養法と効率的な毒の回収法について検討した。
まず、ラン藻の培養に多用されているC培地、CB培地、FSA培地を基準に栄養塩濃度および緩衝剤濃度を変えて、最適な培地を 2 L 規模の培養で検討した。その結果、栄養塩濃度を1/2、緩衝剤であるビシンの濃度を1/5とした改変CB培地が最も良好な増殖を示した。また、温度は17℃、1500-2000 lux の16-8時間明暗照明下の培養が最適であった。増殖期には浮遊性の細胞が多くなるため、通気による撹拌が必須であった。
大量培養としては 10 L の Nalgen 製ボトルを使用し、17℃で通気培養を行ったところ、約 2~3 週間で定常期に達し、ラン藻の乾物重量は 200 mg/Lであった。 毒の収量は 1.9 μmol/L と2 L 規模の培養と同様の結果が得られた。
培地から大量の藻体を収穫するために、濾過を試みたが培養液の粘性が高く、極めて効率が悪かった。浮遊性の細胞が存在するため、遠心分離による藻体と培地の分離は難しかったが、超音波処理により気泡を持つ細胞を破壊することにより連続遠心分離の適用が可能となった。
培養後期の自己破壊および超音波処理によって全体の75%の毒が培地中に存在していた。培地からの毒の回収法を種々検討した結果、1/60の体積をもつ活性炭(和光純薬、クロマトグラフィー用)カラムに通して毒を吸着し、洗浄後、カラム体積の4倍容の2%酢酸含有40%エタノールで毒を脱着することにより、ほぼ定量的に回収できた。毒の組成は、 dcSTX の原料となる C1, C2 が 88%を占めており原材料として極めて適していた。
活性炭カラム後の毒の精製法を検討し、BioGeo P-2 および DEAE-Toyopearl カラムの2段階で、反応の出発物質に要求される純度まで C1, C2 を精製することができた。 A. circinalis は細胞当たりの毒生産能も高く、増殖速度も速い。渦鞭毛藻は種、系群や培養条件による毒力の変動が激しいため単純な比較は難しいが、毒生産能が高いことで知られる噴火湾産のAlexandrium tamarense と比較しても、A. circinalis は数倍の毒生産効率を有していた。さらに、本研究で大量培養による効率的な生産法が確立できたことにより、標準品調製で常に問題となる原料の確保が解決できた。
どの程度の量の標準毒を作成すべきかの判断は難しいが、仮に FDA の STX と同量の100μg のdcSTX 標準溶液1,000本を製造するとして、本研究で確立した方法を使えば、精製、反応の回収率を考慮しても 6ヶ月程度で達成できると思われる。
結論
新しい麻痺性貝毒生物試験の標準デカバモイルサキシトキシンを化学的に調製するための原材料C1, C2を麻痺性貝毒生産ラン藻 Anabaena circinalis の大量培養により確保する方法を確立した。

公開日・更新日

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