マイクロマシン技術を基盤としたファイン医療機器開発のフィージビリティ研究

文献情報

文献番号
199700082A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロマシン技術を基盤としたファイン医療機器開発のフィージビリティ研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
藤正 巖(政策研究大学院大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、平成6年度から継続されている厚生科学特別研究事業で、マイクロマシン技術の医療応用に関連し、将来の医療機器開発の動向を探索することを目的としている。平成6年から始まった厚生省の医用マイクロマシン研究は、平成7年度に医用マイクロマシンの開発研究として実を結び、わが国でもマイクロマシン技術の需要が、医療特に治療機器に多くあることを示した。同時に平成7、8年と並行して行われたマイクロマシン技術を基盤としたファイン医療機器開発のフィージビリティ研究からは、実際にマイクロマシン技術が適用されそうなわが国発の微小機械が多数存在し、それはやがてファインな人にやさしい未来の医療機械となる萌芽であるとみなされたが、わが国の治療機器開発が厳しい国際競争に次第に遅れをとりそうな現況も指摘された。そのため平成8年度から開始された厚生省の基礎的研究推進事業や先端的厚生科学研究分野に、大型の公募形式のマイクロマシンの医療応用のプロジェクトがとりいれられたのは時宜を得ていたといえよう。平成9年度では、この3年間のマイクロマシン調査研究の集大成を図り、現在のファイン医療技術から、将来の先端医療技術への展望を描くことを目標とした。
研究方法
本年度の研究は、昨年度の研究で日本エムイー学会を中心に調査され作られた、約1600名の医療機器開発の研究者および研究施設の基本データベースを拡大し、その周辺の日本人工臓器学会、などの主要な研究課題を集めて、その中よりマイクロマシン技術を使いうる医療技術課題のリストを作成した。
同時に、次世代医療の技術シーズの発表が中心となる米国のファイン医療機器の現状を、米国電気電子技術者協会(IEEE)の医用生体工学関連雑誌より調査し、さらに年間数百編に及ぶNatureやScienceなどの一次情報誌文献から、萌芽的な技術情報を調べ、産業界で起こっている技術革新の動向とあわせ、次世代ファイン医療機器の開発のシナリオを作った。
一方、産業界や工学会で発展が急なマイクロマシン技術の中から、医療につかえそうな技術シーズのリストを抽出し、さらにその周辺技術を支える、境界領域の技術(人工現実感・通信・計測制御・材料・バイオテクノロジー)を調査し、一部実際の実験を加え、未来の技術シーズ体系を構築した。この結果は詳細な報告書が作られ、読みやすいガイドブックがこれをもとに予算の枠外で完成の予定である。
結果と考察
この研究は平成4年の厚生科学研究費補助金による、医療機器分野におけるマイクロマシンの研究開発推進方策に関する研究から始まったと言ってよかろう。この研究に先んじて、平成元年頃より日本・米国・欧州それぞれで、産業用基盤技術としてのマイクロマシン研究が開始され、医用応用はその一つのメインテーマとなってきた。わが国は通産省の産業技術プロジェクトとしてマイクロマシンの開発研究が開始され現在まで7年が経過した。この中にも医用応用の研究が一部含まれている。わが国ではマイクロマシンの基礎研究が世界に先駆けて多く行われたが、その対象は原子力発電とマイクロファクトリーのような比較的寸法の大きいミリマシン対象の技術で、医療に用いられるような本来のマイクロ技術の開発は別途研究開発プロジェクトを立案する必要があった。平成8年頃より、マイクロマシンの医療応用は全世界的に新しい研究目標として注目を集め、ことにヒューマンフレンドリーな医療機器の開発にむけて、いくつもの調査研究平成9年度あたりより始まっている。このために、医療用マイクロマシン基盤技術のリストアップと、その技術の生ずる技術背景を、データベースとして保存し、ある一部の技術については、具体的な開発を行い、プロジェクト開発のための運営方式を提言としてとりまとめた。現在のような基盤研究の拡大の時代には、プロジェクト運営のための先導的調査研究が必須であることがこの研究で明らかになり、ファインな治療機器の開発を進めるキーテクノロジーと、マイクロマシン技術の実需が国内から発掘され、大型研究をフィージブルなものにすることができた。
具体的には、これまでの調査研究で、シリコンプロセスを中心とするマイクロマシン加工技術は、人工感覚・神経インターフェイスを中心に開発が進められ、新しい半導体集積回路技術では、DNAのセンシング技術を中心に、埋込型のセンサー技術が、新しい医療技術シーズとして存在することがわかった。これらの技術シーズは、技術の未踏分野に踏み込もうとする領域であり、わが国ではどこの大学も、企業研究所も手をつけていない領域であるといえる。一方、微小加工組立技術を中心とする医療機器の分野では、低侵襲外科の手法の開発に旺盛な意欲を示す外科系研究者と、内視鏡・超音波技術を中心とする計測治療機器企業の研究所が、実際の現場をふまえて研究開発に携わりつつある。この領域は、多くの開発報告が、各種学術団体誌に報告されているが、この技術を世界に発信する必要があると思われる。もう一つの実需に基づく開発は、侵襲内科の領域にあるが、海外、ことに米国でこの20年以上に蓄積された数多くの技術(PTCA, EPカテーテル、埋込ペースメーカ、埋込除細動装置、各種のステント)に一日の長があり、膨大な需要にも拘わらず、わが国の技術開発は著しい遅れをとっている。人工臓器でも、海外の多くの研究所が人の遺伝子型を持つ異種動物臓器細胞を開発し、ハイブリッド人工臓器を次世代の人工臓器として開発しているのを看過するわけにはゆかないだろう。これらの技術は、いずれも巨大な医療産業領域であり、政府の研究支援策の確立が望まれた。
結論
本研究は、平成6年度から継続されている厚生科学特別研究事業で、マイクロマシン技術の医療この研究は、マイクロマシン技術を中心とする新しい産業技術の萌芽が、次世代の医療機器の目指す人に優しいファインな医療機器開発動向の死命を制することになるのを見越し、次世代の医療機器、ことにわが国で開発の遅れが著しい治療機器について、開発の方策を探ることに目的があった。今日のわが国に医療機器産業は、検査機器と画像機器に偏っており、重要な治療装置はその殆どが輸入機器に頼っている。一方医療機器市場は着実に拡大をし続け、いまや医薬品の1/4にまでその市場が拡大し、なお年率10%以上の伸びを示している。その成長に寄与しているのは輸入治療機器で、わが国の医療機器市場はやがて海外の企業の独占支配にまかされそうな事態となっている。これを防止するには、日本型の研究にどのような方式を取り入れ、どのような基盤的研究を行うべきかといった研究開発の方策の確立がのぞまれ、このように時代と共に変貌する研究開発のトレンドを知るためにもこの研究実施の意義があったと言えよう。

公開日・更新日

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