精神障害による社会生活能力障害の評価等に関する研究

文献情報

文献番号
199700081A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害による社会生活能力障害の評価等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
浅井 邦彦(静和会浅井病院長)
研究分担者(所属機関)
  • 大島巌(東京大学大学院医学系研究科健康科学講座精神保健学研究室)
  • 門屋充郎(社会福祉法人慧誠会帯広ケアセンター)
  • 川室優(医療法人常心会川室記念病院)
  • 佐藤久夫(日本社会事業大学社会福祉学部)
  • 高橋清久(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 寺田一郎(社会福祉法人ワーナーホーム)
  • 原田豊(鳥取県立精神保健福祉センター)
  • 藤田健三(岡山県精神保健福祉センター)
  • 三品桂子(京都府保健福祉部障害者保健福祉課)
  • 山田芳子(埼玉県衛生部保健予防課母子保健係)
  • 吉住昭(国立肥前療養所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成5年度に障害者基本法が制定され、精神障害者、身体障害者、精神薄弱者の3障害が同じ障害者として福祉施策の対象となった。これを背景として、平成7年度に障害者全体の検討会が組織され、精神障害者、身体障害者、精神薄弱者の3障害に共通したケアガイドラインの作成の検討を進めた。本研究では精神障害者部会におけるケアガイドラインを検討する為に、社会復帰促進の方法としてケアマネジメントを中心とした有用性が高く、使用しやすいガイドラインの作成に向けて予備試行、本試行を重ねて検討した。これは精神障害者ケアガイドラインを作成し、精神障害者に対する福祉サービスの均質化をはかり、サービス全体の質の向上を図ることを目的としたものである。
研究方法
平成8年度に試行した予備試行の結果に基づき、ケアアセスメント票およびケア計画書を改編し、精神障害者ケアガイドライン試案の本試行暫定版を作成した。それを用いて14都道府県の医療機関、保健所、市町村、社会復帰施設など253機関で試行した。ガイドラインの構成は、相談票、同意書、ケアアセスメント票、ケア計画書からなり、ケアガイドライン検討委員が各都道府県で実施要領の説明を行った上で試行を行った。実施期間は平成9年6月より平成9年10月までの4ヶ月であった。
結果と考察
結果=1. 精神障害者ケアガイドライン試案の本試行実施状況について
・利用者について
利用者は単身者が77.3%と大半を占めていた。既婚者に比べて離死別者がほぼ2倍であった。年齢は40歳代が最も多く、性別は男性が女性のほぼ2倍であった。
在宅で家族と同居する者が最も多く全体の約半数を占め、在宅単身者は約4分の1であった。日中の主な活動の場所は授産施設、小規模作業所に通う者と週に1-2日程度デイケアに通う者が最も多く、殆ど何もしていない者が1割強認められた。生活費は家族の収入によるものと本人の年金収入とが最も多く、生活保護を受けている者が約4分の1に見られた。
・アセスメントの施行
アセスメントの実施機関は保健所が最も多く、ついで市町村、医療機関、民間非営利組織が続いた。アセスメントを施行した場所は医療機関が最も多く、ついで自宅、社会復帰施設の順であった。アセスメントを施行した回数は1回ないし2回が多く、それに要した時間は1時間から1.5時間及び2.5時間以上が最も多く、それぞれ約4分の1を占め、ついで1.5時間から2時間が約5分の1を占めた。
担当者は保健婦が最も多く、ついでPSW、看護婦、精神保健福祉相談員と続いた。経験年数は10年以上のベテランが最も多く、2年未満は1割程度であった。
・ケアアセスメントの内容
現在、特に困っていることは無いと答えた者は1割以下に過ぎず、大多数のものが困った問題を抱えていた。現在の生活に対して不満を持っている者は約4分の1で、多少の不満があるものまで加えると半数以上に上る。しかし、生活の場では約5割が現状に満足している。仕事に関しては現状のままでよいとするものは5分の1であり、パートなど何らかの形で就労できる職場、正規の社員・従業員として就労できる職場を3分の1の利用者が希望していた。
ケア必要度得点では社会的役割・時間の活用および対人関係、身の回りのこと、緊急時の対応が2点以上であり、これらの点に関する援助の必要性が高いことが推測された。一方、配慮が必要な社会行動や安全の管理は1.5点台でほぼ自立にちかい状態であった。また、これらの得点は利用者の主たる住居または活動の場が異なっても殆ど差は無かった。
ケア計画をたてる過程に利用者が参加した場合は約7割であり、2割弱が家族の参加であった。ケア会議の実施率は約6割であった。実施されたケアの内容は市町村・保健所保健婦等の訪問・相談・面談・援助・生活指導が最も多く、ついでデイケア(社会復帰相談指導事業)の33.6%であった。
・事例票基礎集計表
事例を対象に選んだ理由としてニーズを確認するためという理由が最も多かった。利用者はすでにケアマネジャーが知っている場合が多く、本人と面接していた、通所施設におけるケアを提供していた、家庭訪問をしていた等の場合が多かった。新規のケースを対象としたものは僅かに11.2%であった。
アセスメントにかかった時間は1-1.5時間が27.8%、1.5-2時間が21.2%であり半数が1-2時間の間に、面接以外のアセスメントの所要時間は0.5-時間が23.8%、1-1.5時間が23.1時間と半数が0.5-1.5時間の間でアセスメント面接よりも約30分短かった。
一方、ケア計画の作成にかかった時間は0.5-1時間が20.0%、1.0-1.5時間が30%と50%のものが0.5-1.5の間で終了しており、これもアセスメント面接よりも30分短かった。
アセスメント票を用いて利用者自身が現在抱えている問題や本人の希望を十分把握できたとするものは13.8%で有り、グループホームや小規模作業所での面接で把握できたとする率が一番高かった(25.0%)。ある程度は把握したとする者を加えると85%にのぼる高い数字が得られた。
アセスメント票を用いて利用者本人の問題や援助の必要性について、明確にできたとするものは約1割であり、ある程度は明確に出来たとする者を加えるとその率は80%にのぼった。
ケアアセスメント票を用いたことにより、包括的な情報を収集できたことや、漠然としたニーズを明確に出来たことや、利用者の持つ問題や援助の必要性を明らかにすることが出来たかとの問いに対しては肯定的な答えが多かった。すなわち十分できたとするものにある程度出来たとするものを加えると70-80%に達した。これらのうち漠然としていたニーズを明確にすることに最も役立っていた。
2. ケアガイドラインに対する評価
・相談票について
設問内容は必要な情報を得るための基本的な領域をカバーしており、設問数もほぼ適切であると評価された一方、経験の少ない担当者でも利用者の意思の確認や動機付けなどを行う事が出来るかどうかは疑問があった。意思確認には役立ち、ある程度使いやすいという評価が得られた。
・アセスメント票 
同様に設問内容は必要な情報を得るための基本的な領域をカバーしており、設問数もほぼ適切であると評価された。その一方、利用者が答えにくい設問項目が多いという指摘もあった。
利用者が日常生活で困っていることやケアサービスに対する全般的な希望を把握するのにある程度役立つとするものは約9割におよび一定の評価が得られた。一方、使いにくいとの回答が約4分の1にみられ改良すべき点が残されていると思われた。また、設問以外に利用者が言及した問題や希望が約1割にみられたことは、この点でも改善すべき点が残っていると思われた。
考察=今回の試行対象者の特徴として以下の点が認められた。(1)独身者が多い、(2)在宅者の場合は家族と同居する者が約半数を占めた。(3)日中の主な活動の場所は授産施設、小規模作業所、デイケアに通う者が最も多い。(4)生活費は家族の収入によるものと本人の年金収入とが最も多い。(5)精神分裂病が約8割ともっとも多く、入院回数は4回以上が最多であった。(6)保健・福祉サービスとしては市町村・保健所保健婦等の訪問・相談・面談・援助・生活指導が最も多い。今後実際にケアマネジメントが行われる場合も同様な傾向が予想される。
アセスメントを施行した回数は1回ないし2回が多く、それに要した時間は1時間から1.5時間および2.5時間以上が最も多かった。回数が少なくて済んだのは、比較的よく知った利用者を対象としたためであろう。そのためアセスメントの所要時間も短く、実際にはさらに長時間を要するものと思われるが、一方では馴れるに従い所要時間が短縮される可能性もある。
担当者は保健婦が最も多く、ついでPSW、看護婦、精神保健福祉相談員と続いた。全く行った経験がないものは約4割程度であり、ケアマネジメントがすでにある程度試みらえれている実態が推測される。もしケアマネジメントを行う場合には現在の業務との関係で困難とこたえたものは6割以上にのぼり、今後人員強化の必要性が高いことが明らかである。
ケアアセスメントは本人の希望を直接聴取する部分とケアマネジャーが評価する部分とに分かれている。これによって、ケアマネジメントを行う上での基本的な利用者の希望を聴取できるものと考えられた。
結論

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)