ケシ及び関連植物のモレキュラーレベルでの解析

文献情報

文献番号
199700080A
報告書区分
総括
研究課題名
ケシ及び関連植物のモレキュラーレベルでの解析
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 敏郎(国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場)
研究分担者(所属機関)
  • 下村講一郎(国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ケシ及びケシ属植物の幼植物体での鑑別、及びそれらの交雑種の識別を容易にするためのアヘンアルカロイド生産に関連するRAPDマーカーの検索によるRAPD-PCR法の確立、ならびに各種・系統の類縁関係を明かにする目的で、ケシを含む6種のケシ属植物を材料にして検討を行なった。また、PCR産物の検出法について、ジゴキシゲニンの結合したプライマーを用いる遺伝子解析法(DIG-RAPD法)の有用性をも併せて検討した。
研究方法
1.材料:ケシ属は9節に分類され、その内、多年生植物としてマクランタ節のオニゲシP. orientale L.、 P. pseudo-orientale Medv.及びハカマオニゲシ P. bracteatum Lindl.の3種を、一年生植物としてメコネス節のケシPapaver somniferum L.(インド種、トルコ種、イラン種、一貫種の4系統)、P. setigerum L.(2系統)及びオルトレアデス節のヒナゲシP. rhoeas L.(2系統)の3種8系統を用いた。 2.材料の育成:マクランタ節植物3種は、染色体数を確認した後、圃場にて栽培した。開花期における花茎の特徴や花色及び根中の主アルカロイド成分により種を確認した後、若葉3枚をDNA解析に供した。ケシを含む3種8系統は、環境を制御した室内条件下(温度:20℃、日長:育苗期12時間、生育期 16時間、照度:8,500~12,000 lux)にて水耕栽培(培養液、シュンギクの処方;pH 6.0;EC 2.0 mS/cm)し、各個体の若葉3枚をDNA解析に、開花後20日目のさっ果より採取したアヘンをアルカロイド分析に供した。 3.DNA抽出及びPCR条件:全DNAの抽出は、いずれもISOGENを用い、Chomczynski (1993)の方法で行った。[マクランタ節3種] 抽出した全DNAを、50μlの滅菌水に懸濁し、その1μlをPCRのテンプレートとした。プライマーは,農業生物資源研究所イネゲノムチーム(Monna et al. 1994)が報告した10塩基の16種類を用いた。PCR反応液をポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った後、PCR産物をメンブレンに転写し、DIG DNA Labeling and Detection Kit Nonradioactiveによって抗体の結合及び免疫的染色を行うとともに、EtBr染色によるPCR産物の検出も行い、DIG-RAPD法との感度を比較した。[ケシを含む3種8系統] PCR条件はJ. C. Afele et al. (1996) の方法によった。プライマーについては、前述のMonna et al. (1994) が報告した10塩基からなるRA14、16、及びオペロン社のOPB-04、11を用いて検討した。2%アガロースゲルにて電気泳動を行った後、EtBr染色によりPCR産物を検出した。 4.アルカロイド含量の定量:試量1mgを用いてHPLC法により[TOSOH TSK gel ODS-120Aカラム (4.6mm i.d.×250mm)、移動層:MeCN-10mM sodium 1-heptanesulfonate (pH3,5)グラジェント(25-80%)、カラム温度:35℃、検出波長:UV284nm]、モルヒネ、コデイン、テバイン等5種のアヘンアルカロイドを同時定量した。5.マクランタ節植物のTLCによる成分の確認:展開溶媒として、トルエン:アセトン:エタノール:アンモニア=20:20:3:1を用い、シリカゲル60のプレートにて展開した。
結果と考察
1.マクランタ節3種について:現在日本各地で植栽されている園芸種オニゲシと称される植物の多くは、P. pseudo-orientaleに相当すると考えられている。今回導入したオニゲシは、開花期における花茎の特徴、花色、染色体数(2n=28)及び主アルカロイド成分の調査により、P. orientale (真のオニゲシ)と同定できた。他の2種についても同様に確認した。
EtBr染色及びDIGの免疫的染色の両方を用いてPCR産物を染色した結果、検出されたPCR産物の数はDIGの免疫的染色の方がはるかに多く、DIG-RAPD法がRAPDマーカー検索に有益な方法であることが明らかとなった。DIG-RAPD法は、EtBr染色法や銀染色法に比べると実験操作に時間と手間がかかる短所があげられるが、EtBr染色法では強い変異原性物質(EtBr)を扱う必要があり、また、RI-RAPD法のようにアイソトープや特殊な実験施設が不要であることから、今後新たな薬用植物の遺伝子解析法として利用が期待される。
DIG-RAPD法により検討した結果、今回用いた16種すべてのプライマーにおいて明らかな多型が認められ、各種間の識別に有効なプライマーの検索を行った結果、11種のプライマーが識別に有効であることが確認でき、P. orientaleにのみ特異的に検出されたバンドは9、P. pseudo-orientaleは21、P. bracteatum は19本であった。これらのプライマーを組み合わせることによってマクランタ節3種の幼植物段階での識別が可能と考えられた。なお、同種内でも多型が検出され、DNAレベルでの種内変異が示唆され、今後個体数および系統数を増やして確認する計画である。
2.ケシを含む3種8系統について:アヘンアルカロイドの定量の結果、ケシ4系統の内、インド種はモルヒネの含有率が低かったが、テバインやノスカピンが他3系統に比べ高かった。トルコ種、イラン種ではテバインが殆ど検出されなかったが、他の4成分は一貫種とほぼ同様の含有率を示し、コデインはイラン種が最も高かった。また、セチゲルム2系統では、特にモルヒネ含量に著しい差が認められたが、ともにテバインやノスカピンは検出されなかった。一方、ヒナゲシ2系統では、今回定量した5種類のアヘンアルカロイドはいずれもに全く検出されなかった。以上のように5種類のアヘンアルカロイド分析の結果、その組成において各種・系統に特徴が認められ、アヘンアルカロイド生産に関連するRAPDマーカーの検索材料として有用であることが確認できた。
これらの材料を用いてRAPD-PCR条件を検討した結果、オペロン社のOPB-04、11プライマーで明瞭な多型が認められ、いずれのプライマーにおいても、アヘンアルカロイドを産生しないヒナゲシ2系統では、産生する2種6系統とは明確に異なる位置にバンドが認められ、RAPDマーカーによる識別の可能性が示唆された。しかし、ケシ、セチゲルム共に形態的な表現形質は均一であったが、同一系統内でも多型が認められ、DNAレベルでの系統内変異が示唆され、特異的なバンドの特定には至らなかった。今後さらにプライマーを増やすとともに、今回使用したプライマーの有用性及びケシの系統間の識別を可能とするプライマーの検討を計画している。
結論
 マクランタ節3種について、EtBr染色及びDIGによる免疫的染色の両方法を用いてPCR産物を染色して比較した結果、検出されたPCR産物の数及び操作時の安全性により、DIG-RAPD法がRAPDマーカー検索に有益な方法であることが明らかとなった。そこで、DIG-RAPD法を用いて、3種間の識別に有効なプライマーの検索を行った結果、11種のプライマーが識別に有効であることが確認でき、各種に特異的なバンドがP. orientaleで9、P. pseudo-orientaleは21、P. bracteatum は19本がそれぞれ検出され、これらのプライマーを組み合わせることによってマクランタ節3種の幼植物段階での識別が可能と考えられた。
ケシを含む3種8系統について、モルヒネ、コデイン等5種類のアヘンアルカロイドを分析の結果、その組成において各種・系統に特徴が認められ、アヘンアルカロイド生産に関連するRAPDマーカーの検索材料として有用であることが確認できた。そして、RAPD-PCR条件を検討した結果、同属植物内でアヘンアルカロイドを産生しない種と、産生する種間に明確に異なる位置にバンドが認められ、RAPDマーカーによる識別の可能性が示唆された。

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