感情障害の脳器質的発症脆弱性と認知機能障害の神経科学的病態の解明およびその機能修復と一次予防に関する研究

文献情報

文献番号
200500797A
報告書区分
総括
研究課題名
感情障害の脳器質的発症脆弱性と認知機能障害の神経科学的病態の解明およびその機能修復と一次予防に関する研究
課題番号
H17-こころ-003
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
三國 雅彦(群馬大学大学院医学系研究科脳神経精神行動学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 義文(山口大学医学部高次機能神経科学講座)
  • 池田 研二(慈圭精神医学研究所)
  • 新井 平伊(順天堂大学医学部精神医学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では感情障害への発症脆弱性について神経発達期と退行期との両面から死後脳解析や脳科学的研究を進めるとともに、がん患者について前方視的に追跡調査し、発症予測因子を解明し、一次予防法の確立を目指す。
研究方法
東京都精神医学総合研究所保存の剖検脳で、若年発症の感情障害症例、中高年初発症例、正常対照例について、4%パラホルム溶液にて固定し、薄切切片を作成した。前頭前野の細胞構築や白質の病変の有無をHE染色で検索し、また、カルシウム結合タンパク質陽性のGABA神経を免疫組織学的に染色し、Image Jで計測した。次に感情障害の各亜型のうつ病症状がHAM-Dで7点以下になった時にウイスコンシン・カード分類試験(WCST)などの神経心理学的検査と脳画像検査を施行した。一方、中高年初発うつ病でMRIT2での白質高信号陽性、T2*陰性の薬物療法抵抗性症例に、抗血小板薬シロスタゾールの併用を試みた。さらに、精神症状が認められないがん患者117名を前方視的に調査し、2年後にSCIDで精神科的面接し、PET画像を比較した。
結果と考察
双極性障害BA9野の第二層のカルビンジン陽性GABA神経細胞数のみが正常対照に比して有意水準に達しないものの、減少傾向を示し、その細胞サイズは有意に減少しており、皮質第二層の細胞比率が減少していた小型神経細胞はカルビンジン陽性GABA神経である可能性を示唆した。また、中高年初発のうつ病の解析では、前頭前野白質細動脈硬化やラクナ梗塞のある一群と、細動脈の硬化はないが、マクロファージ増加やミクログリア活性化を示す一群とが存在した。CTで軽度萎縮所見のあるうつ病では軽快しても、WCSTでの保続的エラーを表すPEM (p<0.005)およびPEN (p<0.01)が入院時HAM-Dスコアと相関しており、軽快後も神経心理学的異常が存在していた。微細な血管障害を有する中高年初発うつ病で抗うつ薬療法抵抗性の4症例に、シロスタゾール併用療法を試みたが、数週間後には著明に改善した。前方視的追跡の結果、悪化群には大うつ病が3例、適応障害が7例あり、悪化前のPETで未発症群に比して右上前頭回で低下、また、両側前部帯状回と右後部帯状回での増加が観察された。
結論
感情障害の発症脆弱性として神経発達期の細胞構築の微細変異と退行期の微小脳血管障害があった。微小血管障害を伴ううつ病には抗血小板薬併用が有効であった。

公開日・更新日

公開日
2006-05-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500797C