高次脳機能障害におけるD-セリンシステムの病態解明と治療法開発への応用

文献情報

文献番号
200500789A
報告書区分
総括
研究課題名
高次脳機能障害におけるD-セリンシステムの病態解明と治療法開発への応用
課題番号
H16-こころ-021
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
西川 徹(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 福井 清(徳島大学分子酵素学研究センター)
  • 川井 充(独立行政法人国立病院機構東埼玉病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高次脳機能障害の分子病態を明らかにし新しい治療法の手がかりを得るため、高次脳機能に深く関わるNMDA型グルタミン酸受容体の活性化に必須で、精神神経症状を改善する作用をもつ脳の内在性物質D-セリンについて、代謝・機能と高次脳機能障害における病態の分子機構を解明する。
研究方法
本研究は、各所属施設の倫理委員会の承認を得た上、ガイドラインを遵守して行った。D-セリン関連候補遺伝子と蛋白の解析には、DNAマイクロアレイ法、リアルタイムRT-PCR法、アフリカツメガエル卵母細胞発現系、COSおよびC6 培養細胞、大腸菌による蛋白発現法等を用いた。脳内細胞外液中アミノ酸はin vivoダイアリシス法により採取した。D-セリンその他アミノ酸は、蛍光検出器付き高速液体クロマトグラフィーで定量した。
結果と考察
脳の内在性D-セリンの代謝・機能の分子機構について、関連候補遺伝子dsm-1が D- セリンの細胞外放出調節に関与することが示唆され、D-セリン分解活性をもつD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の結晶化と機能解析が進展した。また、ラット大脳新皮質より、D-セリンに選択的応答を示す新たな候補遺伝子dsr-3が検出され、D-セリン類似の体内・脳内分布を示すことがわかった。D-セリンの病態に関しては、神経細胞またはグリア細胞に選択的な毒素を用いた実験から、しばしば高次脳機能障害の原因となる大脳皮質局所の神経細胞およびグリア細胞の損傷・変性に細胞外D-セリンシグナルの低下が伴うことが示唆され、本研究で実施中の、D-サイクロセリンを用いた高次脳機能障害に対するD-セリンシグナル増強療法の合理性が支持された。一方、過剰なD-セリンがDAOの働きによりグリア細胞障害を引き起こす可能性を示す所見が得られ、D-セリンシグナル増強療法の用量設定の参考となった。さらに臨床治療研究として、脊髄小脳変性症患者において、D-セリンと同様のNMDA受容体機能促進作用をもつD-サイクロセリンの用量依存性試験を二重盲検のクロスオーバー法で実施中である。
結論
脳の内在性物質で高次脳機能に重要なD-セリンの代謝・機能の分子機構について、dsm-1遺伝子産物のD-セリン放出への関与が示唆され、大脳新皮質より新たなD-セリン関連遺伝子dsr-3が見出された。また、神経およびグリア細胞障害時のD-セリンシグナルの病態、過剰なD-セリンによる脳の細胞障害に関与するD-アミノ酸酸化酵素の活性調節や、D-サイクロセリンの小脳失調症状治療効果等について新知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
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