DNAチップを用いたうつ病の診断と病態解析

文献情報

文献番号
200500777A
報告書区分
総括
研究課題名
DNAチップを用いたうつ病の診断と病態解析
課題番号
H16-こころ-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
大森 哲郎(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本亮太(国立精神・神経センター)
  • 原田誠一(国立精神・神経センター武蔵病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
28,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経伝達物質、サイトカイン、ホルモン、熱タンパク質などと関連する遺伝子1500種のmRNAの発現量を、白血球を試料として一括解析するDNAチップを開発した。学位審査発表などの心理的ストレスにさらされると、特定の遺伝子発現が増減し、翌日には回復することを見出し、ストレスに鋭敏に反応する測定系となることを確認している。このDNAチップを用いて白血球中のmRNA発現量を解析し、うつ病の診断と病態解析へ応用することを目的として本研究を行った。
研究方法
平成17年度の解析対象は徳島大学病院を受診したうつ病患者である。診断はDSM-IVに従い、ハミルトン評価尺度で重症度を評価した。血液5mlを採取し、抽出したmRNAの増幅と蛍光ラベルを行い、DNAチップを用いて1500種類の遺伝子のmRNAの発現量を解析し、クラスター解析を行った。血液からのmRNAの抽出は徳島大学ストレス制御医学分野で行い、DNAチップの解析は、日立ライフサイエンスセンタ-に委託して行っている。測定のCV値は20%以下であり、信頼性と再現性は良好である。
結果と考察
1)うつ病全例にほぼ共通して変化している遺伝子が約20種見出された。2)同時に、うつ病の半数でのみ変化している遺伝子群も数10種存在するため、遺伝子発現パターンからうつ病が2群に分かれた。この2群間の臨床症状には差がなく、両群を分ける臨床指標は現在のところ明らかではない。3)変動遺伝子のいくつかは、治療後に正常方向へと変化した。4)これらの所見は疾患特異的であり、急性ストレスに由来する変化とは異なる。
これらの所見は、mRNAの発現パターンを指標として、うつ病を健康成人および精神科他疾患から識別できること、および治療経過にそった変化が捉えられることを意味している。
結論
 本研究は、DNAチップを用いてうつ病を評価した世界初の試みである。数多くのmRNA発現量から生体機能を多面的に把握する本方法は、従来の限られた因子を測定する方法に比べ、うつ病のような複雑な疾患の評価方法として、原理的にも適切である。同時に、患者負担は少量通常採血のみであり、臨床応用が現実的である。現在の研究を発展させ、搭載遺伝子を絞り、簡便性とコスト面を考慮した実用型チップを完成させることにより、臨床現場で使用できるうつ病の客観的指標を確立することができる。

公開日・更新日

公開日
2006-05-09
更新日
-