免疫抑制性ネットワークを介した炎症性神経疾患の画期的な治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
200500774A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫抑制性ネットワークを介した炎症性神経疾患の画期的な治療法開発に関する研究
課題番号
H15-こころ-022
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第六部)
研究分担者(所属機関)
  • 三宅 幸子(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 佐藤 準一(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 島村 道夫(三菱化学生命科学研究所発生免疫研究ユニット)
  • 神田 隆(山口大学医学部脳神経病態学講座)
  • 秋山 治彦(財団法人東京都医学研究機構東京都精神医学総合研究所神経病理学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生体内にはさまざまな免疫制御システムが存在する。本研究では、免疫制御系の理解を深め、その変調の矯正あるいは機能促進によって多発性硬化症(MS)を治療する方法の開発を目的としている。初年度からMR1拘束性T細胞(第二のNKT細胞;Vアルファ19-Jアルファ33 T細胞)を介する免疫抑制ネットワークの研究を継続しているが、本年度は、同細胞を欠くMR1ノックアウトマウスを導入して検討を進めた。また、同細胞のリガンド探索研究や神経免疫制御に関する研究も進めた。
研究方法
MR1ノックアウトマウスにMOGペプチド感作でEAEを誘導し、その臨床経過、免疫応答を、野生型B6マウスに誘導したEAEと比較検討した。第二のNKT細胞の免疫制御機構を明らかにするために、同細胞と抗原感作脾細胞の共培養アッセイを確立した。前年度までにMR1拘束性T細胞の認識する外来リガンドとしてアルファ-mannosylceramideを同定した。本年は、同細胞の認識する自然リガンドを明らかにする目的で、セラミドグルコシル転移酵素を欠損する細胞株に対する第二のNKT細胞の反応性を調べた。
結果と考察
MR1ノックアウトマウスでは、EAEの臨床症状が有意に増悪し、回復が遅延した。また、感作リンパ球のMOG刺激により誘導される炎症性サイトカインであるインターフェロン・ガンマの産生量は 30倍以上に増加しており、著しいTh1偏倚が誘導されていることが示された。しかし、IL-17の産生量増加は軽度であった。共培養アッセイにより、MR1拘束性T細胞は、B細胞に免疫抑制性サイトカインIL-10の産生を誘導することがわかった。このIL-10産生には細胞同士の直接接触が必要であり、ICOS分子を介した反応であることも明らかになった。同細胞の内在性リガンドは、セラミドグルコシル転移酵素以外によって合成される可能性が示唆された。
結論
MR1欠損マウスを用いた実験により、MR1拘束性T細胞がMSの病態制御に関与することが明確になった。同マウスではインターフェロン・ガンマの産生量が著明に増加するがIL-17の変化は軽微であった。したがって、同細胞の変調は西欧型MSの発症を促す可能性が考えられる。

公開日・更新日

公開日
2006-04-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200500774B
報告書区分
総合
研究課題名
免疫抑制性ネットワークを介した炎症性神経疾患の画期的な治療法開発に関する研究
課題番号
H15-こころ-022
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第六部)
研究分担者(所属機関)
  • 三宅 幸子(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 佐藤 準一(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
  • 島村 道夫(三菱化学生命科学研究所発生免疫研究ユニット)
  • 神田 隆(山口大学医学部脳神経病態学講座神経内科学)
  • 秋山 治彦(財団法人東京都精神医学総合研究所神経病理学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在では、免疫制御機構の破綻が多発性硬化症(MS)など自己免疫疾患の発症につながることが明らかになっている。本研究では生体の免疫制御システムの理解を深め、その変調の矯正あるいは機能促進によって多発性硬化症(MS)を予防・治療する方法の開発を目的としている。特に、近年フランスと日本で発見されたMR1拘束性T細胞(第二のNKT細胞)の自己免疫疾患発症における役割について明らかにし、この細胞を標的とした治療薬の開発を目指す。この細胞は、抗原受容体(TCR)にVアルファ19-Jアルファ33固定アルファ鎖を有し、MR1分子に結合したリガンドを認識するという特徴を持つ。腸内細菌に依存性で、腸管粘膜に集積する傾向があるために、腸管免疫における役割が示唆されている。しかし、研究代表者らは、MSの脳病変に浸潤することを明らかにしており、自己免疫との関連も重要な研究対象になっている。
研究方法
MR1拘束性T細胞の増加したTCRトランスジェニックや、同細胞を欠損するMR1ノックアウトマウスに、自己免疫疾患の動物モデル(実験的自己免疫性脳炎EAEや関節炎モデル)を誘導し、その病態を免疫学的な方法によって解析した。また、同細胞の移入実験を行った。同細胞のリガンド物質を探索し、その治療薬としての活性を評価した。
結果と考察
遺伝子改変マウスを用いて、MR1拘束性T細胞が、自己免疫疾患MSを制御する重要な機能を有することを証明した。同細胞を過剰発現したマウスでは、脳炎惹起性ペプチドに対する免疫応答がTh2に偏倚し、EAEの臨床経過、病理所見ともに軽減した。逆にMR1欠損マウスではEAEは重症化した。さらに同細胞はB細胞にIL-10の産生を促すことによってEAEを抑制することも明らかになった。また同細胞の認識する外来リガンドおよび自然リガンドに関する検討も進み、EAE抑制効果を有するリガンドを発見した。
結論
MR1拘束性T細胞が、新しい免疫制御細胞として自己免疫の病態に深く関わることを明らかにできた。また同細胞を標的とする治療法開発の可能性も示された。MSの病態や治療を考える上で、重要な知見と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500774C

成果

専門的・学術的観点からの成果
MR1分子に拘束されたT細胞(第二のNKT細胞)が多発性硬化症など免疫性神経疾患発症の鍵を握る細胞であることを世界で初めて明らかにし、同細胞を標的とする新しい治療法の開発が有望であることを示した。この細胞は腸内細菌の影響を受けやすい。近年の免疫疾患の増加の背景を明らかにするためには、第二のNKT細胞の基礎研究を進めることが明らかになり、国際的にも高く評価される成果があがった。
臨床的観点からの成果
MR1分子に拘束された第二のNKT細胞は、多発性硬化症(MS)の脳病変に浸潤する傾向を認める。MSの病態を評価するにあたって、脳脊髄液中の同細胞の定量的解析が今後数年間の研究の焦点になる可能性がある。また、欧米型MSとアジア型MSの背景に、第二のNKT細胞の機能変化が関与する可能性が示唆され、今後の臨床研究に新しい方向性を与える成果があがった。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
該当なし。
その他のインパクト
難病医学研究財団の助成により国際シンポジウム -難治性疾患における自己免疫応答の解明と制御-を開催し、本研究プロジェクトの成果を発表した。参加者にはハーバード大学教授、UCSF教授、米国臨床免疫学会長、ゲッチンゲン大学教授など学会のリーダーを含み、これらのゲストから国際的にもレベルの高いプロジェクトであるとの評価を得た。

発表件数

原著論文(和文)
0件
なし
原著論文(英文等)
10件
本年度の報告内容に直接関係する論文は、現在投稿中である。
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
18件
日本免疫学会、日本神経免疫学会、日本神経学会の発表を含む。
学会発表(国際学会等)
12件
米国免疫学会、米国臨床免疫学会、欧州多発性硬化症学会などの発表を含む。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
難病医学研究財団の後援により、国際シンポジウム -難治性疾患における自己免疫応答の解明と制御- を開催した。参加者にはハーバード大学教授など学会のリーダーを含み、大きな成果が上がった。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Satoh, J-i., M. Nakanishi, F. Koike, et al.
Microarray analysis identifies an aberrant expression of apoptosis and DNA damage-regulatory genes in multiple sclerosis.
Neurobiol. Dis. , 18 (3) , 537-550  (2005)
原著論文2
Chiba, A., S. Kaieda, S. Oki, et al.
The involvement of V14 NKT cells in the pathogenesis of murine models of arthritis.
Arthr. Rheumat. , 52 (6) , 1941-1948  (2005)
原著論文3
Satoh, J-I., H. Onoue, K. Arima, et al.
The 14-3-3 protein forms a molecular complex with heat shock protein Hsp60 and cellular protein.
J. Neuropathol. Exp. Neurol. , 64 (10) , 858-868  (2005)
原著論文4
Oki, S., C. Tomi, T. Yamamura, et al.
Preferential Th2 polarization by OCH is supported by incompetent NKT cell induction of CD40L and following production of inflammatory cytokines by bystander cells in vivo.
Int. Immuol. , 17 (12) , 1619-1629  (2005)
原著論文5
Satoh, J-I., Y. Nanri, and T. Yamamura
Rapid identification of 14-3-3-binding proteins by protein microarray analysis.
J. Neurosci. Methods. , 152 , 278-288  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-