内因性ユートロフィンの発現増強による筋ジストロフィーの画期的治療法の開発

文献情報

文献番号
200500773A
報告書区分
総括
研究課題名
内因性ユートロフィンの発現増強による筋ジストロフィーの画期的治療法の開発
課題番号
H15-こころ-021
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
武田 伸一(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 石浦 章一(東京大学大学院総合文化研究科神経生化学)
  • 鈴木 友子(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ジストロフィン欠損による筋ジストロフィーにおいて内因性ユートロフィンの発現を増強する治療法を確立する目的で,ユートロフィンの発現調節領域をトランスジェニックマウスの手法を用いて解析する。
 ジストロフィン欠損による大型のモデル動物であって、進行性で重症の症候を示す筋ジストロフィー犬を治療用のモデルとして確立すると共に、新たな分子病態を見出し、治療法を開発する。
研究方法
1. ユートロフィン遺伝子の転写調節機構
(1)ユートロフィン遺伝子の上流12.7kbをlacZ遺伝子に連結してトランスジェニック・マウス(Tgマウス)を作出し、イ-galactosidaseの発現を検出して、内因性のユートロフィンの発現と比較する。
(2)ユートロフィン遺伝子の上流に加えて、exon 2の下流にある、downstream enhancerを用いてTgマウスを作出し、発現パターンを検討する。

2.新たな筋ジストロフィーモデル動物の開発と分子病態の解明
 筋ジストロフィー犬及びその正常対照犬について、心刺激伝導系の系統的な解剖を行うと共に、免疫組織化学的、分子生物学的な解析を行う。
結果と考察
1.ユートロフィン遺伝子の転写調節機構
(1)ユートロフィン遺伝子の上流12.7kbは、肝、精巣、大腸、唾液腺等におけるユートロフィンの発現には充分であったが、筋肉、心臓におけるユートロフィンの発現には充分でなかった。
(2)ユートロフィン遺伝子のdownstream enhancerは、筋肉および心臓におけるユートロフィンの発現を制御していた。

2.新たなモデル動物の分子病態と分子病態の解明
筋ジス犬心刺激伝導系のPurkinje線維で選択的な空胞変性が見出された。しかも、同部には、カルシウムによって、制御を受けるμ-calpainが集積し、同時にcardiac Troponin-I(cTn-I)の分解も観察された。更に、筋特異的ubiquitin ligaseであるMuRF-1が検出され、cTn-Iがubiquitin化を受けている可能性が出てきた。

結論
1.ユートロフィン遺伝子のイントロン2に見出されたdownstream enhancerを標的とした、ユートロフィン発現増強のための薬物開発が可能になった。
2.筋ジス犬Purkinje線維の解析から、calpainおよびユビキチン・プロテアソーム系を標的とした、筋ジストロフィーの治療を開発できる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500773B
報告書区分
総合
研究課題名
内因性ユートロフィンの発現増強による筋ジストロフィーの画期的治療法の開発
課題番号
H15-こころ-021
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
武田 伸一(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 石浦 章一(東京大学大学院総合文化研究科神経生化学)
  • 鈴木 友子(国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ジストロフィン欠損による筋ジストロフィーにおいて内因性ユートロフィンの発現を増強する治療法を確立する目的で,ユートロフィンの発現調節機序をトランスジェニック・マウスを用いて解析する。特にユートロフィン遺伝子の上流塩基配列にイントロン・エンハンサを付加して作出したトランスジェニック・マウスを用いて、骨格筋及び心筋におけるユートロフィンの発現調節部位を同定する。
 ジストロフィン欠損の大型のモデル動物である筋ジストロフィー犬で見出された、心刺激伝導系のPurkinje線維の選択的変性について、分子病態解明のための研究を行う。
研究方法
1. ユートロフィンの転写調節機構
 新たに作出されたユートロフィン遺伝子のintron 2にあるdown stream enhancer付のトランスジェニック・マウスについて、マーカ遺伝子であるlacZ遺伝子の発現解析を行い、内在性のユートロフィンの発現と比較する。
2.新たなモデル動物の開発
 筋ジス犬Purkinje線維について、cardiac troponin-Iの発現パターン、E3ユビキチン・リガーゼであるMuRF1の発現、ユビキチン化の有無について検証を加える。
結果と考察
1.ユートロフィン遺伝子の転写調節機構
 ユートロフィン遺伝子のイントロン・エンハンサを付加して作成したトランスジェニック・マウスを解析することにより、骨格筋及び心筋におけるユートロフィンの発現が同エンハンサによって、調節を受けていることを見出した。
2.新たなモデル動物の分子病態
 筋ジス犬Purkinje線維では、cardiac Troponin-I(cTn-1)がシ-calpainによって分解しているが、同線維では、横絞筋特異的なE3ユビキチン・リガーゼであるMuRF1が集積していることが明らかになった。更に、シ-calpainによって分解を受けたと考えられるcTn-1がユビキチン化を受けている可能性が出てきた。Calpainおよびユビキチン・プロテアソーム系をtargetとした筋ジストロフィーに対する治療法が注目される。

結論
1.骨格筋および心筋におけるユートロフィン遺伝子の発現調節部位が、同遺伝子のintron 2にあるdown stream enhancerであることを初めて見出した。
2.筋ジストロフィー犬心刺激伝導系Purkinje線維ではcardiac Troponin-I がシ-calpainの作用により分解し,しかもユビキチン化を受けることを始めて見出した。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500773C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Oxford大学のDavies教授は内因性のユートロフィンの発現増殖に関して、数万種類に及ぶ薬剤のスクリーニングを行ったと伝えられている。我々の研究で12.7 kbのユートロフィン遺伝子の上流配列は骨格筋、心筋におけるユートロフィンの発現制御には充分でなかった。今年度の研究でイントロン1のエンハンサに骨格筋、心筋における発現を制御している部分が見出されたことは特筆される。このエンハンサを標的として、high throughput screeningができるからである。
臨床的観点からの成果
今回の研究で、μ-calpainの局在化と活性化及びμ-calpainによって分解を受けるcardiac Troponin-Iのユビキチン化が、ジストロフィン欠損による筋変性に関わることを初めて明らかにした。従ってcalpainの作用あるいはユビキチン・プロテアソーム系を抑制することが、筋ジストロフィーに対して有効である可能性が出てきたといえる。これまで明らかでなかった筋ジストロフィーとユビキチン化との間で接点が生まれたことも特筆される。

ガイドライン等の開発
本研究を進める過程で、筋ジス犬の繁殖・飼育及び同犬を用いた実験法を確立した。これまでは用いられてきたmdx マウスは、比較的軽症で治療法を評価するには困難があった。一方、筋ジス犬は重症で進行性の症候を呈し、飼育には困難が付きまとうが、治療法の評価を行う上で、最適である。特に、比較的小型のビーグル犬を背景として立ち上げられた日本のコロニーは内外の研究者から、秀れた治療評価系として、数多くの共同研究提案を受け、幾つかは既に開始されている。
その他行政的観点からの成果
筋ジストロフィーに対して治療の開発を行うための研究は、論文・学会発表のみでなく、国立精神・神経センター等のホームページ、筋ジストロフィー協会の全国大会や広報を通じて広く公表に努めている。その結果として、筋ジストロフィー患者・家族からの信頼を受け、研究を遂行していることへの感謝と期待を常に受けている。
その他のインパクト
本研究を推進している主任研究者らの取り組みは、筋ジストロフィー協会との共催による公開シンポジウム等を契機としてメディアにも取り上げられている。
特に06年2月25日、NHK教育テレビで放映された「サイエンス・ゼロ」では、筋肉の特集が組まれ、その一翼を担った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
52件
その他論文(和文)
57件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
71件
学会発表(国際学会等)
43件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Uezumi A, Ojima K, Fukada S, et al.
Functional heterogeneity of side population cells in skeletal muscle
Biochem Biophys Res Commun , 341 (3) , 864-873  (2006)
原著論文2
Ampong BN, Imamura M, Matsumiya T, et al.
Instracellulat localization of Dysferlin and its association with the Dihydropyridine receptor
Acta Myologica , 24 (2) , 134-144  (2005)
原著論文3
Shimatsu Y, Yoshimura M, Yuasa K, et al.
Major clinical and histopathological characteristics of canine X-linked muscular dystrophy in Japan, CXMDJ.
Acta Myologica , 24 (2) , 145-154  (2005)
原著論文4
Mochizuki Y, Ojima K, Uezumi A, et al.
Participation of bone marrow-derived cells in fibrotic changes in denervated skeletal muscle.
Am J Pathol , 166 (6) , 1721-1732  (2005)
原著論文5
Ishiura S, Kino Y, Nezu Y, et al.
Regula-tion of splicing by MBNL and CELF family of RNA-binding protein.
Acta Myologica , 24 (2) , 74-77  (2005)
原著論文6
Oma Y, Kino Y, Sasagawa N , et al.
Comparative analysis of the cytotoxicity of homopolymeric amino acids
Biochim.Biophys.Acta, , 1748 (2) , 174-179  (2005)
原著論文7
Mitsuhashi H, Yoshikawa A, Sasagawa N, et al.
Denervation enhances the expression of SHPS-1 in the rat skeletal muscle.
J.Biochem , 137 (4) , 495-502  (2005)
原著論文8
Imamura M, Mochizuki Y, Engvall E, et al.
ε-Sarcoglycan compensates for lack of α-sarcoglycan in a mouse model of limb- girdle muscular dystrophy.
Hum Mol Genet , 14 (6) , 775-783  (2005)
原著論文9
Takahashi J, Itoh Y, Fujimori K, et al.
The utrophin promoter A drives high expression of the transgenic LacZ gene in liver, testis, colon, submandibular gland, and small intestine.
J Gene Medicine , 7 (2) , 237-248  (2004)
原著論文10
Yoshimura M, Sakamoto M, Ikemoto M, et al.
AAV vector-mediated micro-dystrophin expression in a relatively small percentage of mdx myofibers improved the mdx phenotype.
Mol Ther , 10 (5) , 821-828  (2004)
原著論文11
Ojima K, Uezumi A, Miyoshi H, et al.
Mac-1low early myeloid cells in the bone marrow-derived SP fraction migrate into injured skeletal muscle and participate in muscle regeneration
Biochem Biophys Res Commu , 321 (4) , 1050-1061  (2004)
原著論文12
Fukada S, Higuchi S, Segawa M, et al
Purification and cell-surface marker characterization of quiescent satellite cells from murine skeletal muscle by a novel monoclonal antibody.
Exp Cell Res , 296 (2) , 245-255  (2004)
原著論文13
Nishiyama A, Endo T, Takeda S, Imamura M, et al.
Identification and characterization of ε-sarcoglycans in the central nervous system.
Mol Brain Res , 125 (1) , 1-12  (2004)
原著論文14
Kino Y, Oma Y, Sasagawa N, et al.
Muscleblind protein, MBNL1/EXP, binds specifically to CHHG repeats.
Human Mol.Genet , 13 (5) , 495-507  (2004)
原著論文15
Watanabe T, Takagi A, Sasagawa N, et al.
Altered expression of CUG binding protein 1 mRNA in myotonic dystrophy 1: possible RNA-RNA inter-action.
Neurosci Res , 49 (1) , 47-54  (2004)
原著論文16
Hirata A, Masuda S, Tamura T, et al.
Expression profiling of cytokines and related genes in regenerating skeletal muscle after cardiotoxin injection: a role for osteopontin.
Am J Pathol , 163 (1) , 203-215  (2003)
原著論文17
Shimatsu Y, Katagiri K, Furuta T, et al.
Canine X-linked muscular dystrophy in Japan (CXMDJ).
Experimental Animals , 52 (2) , 93-97  (2003)
原著論文18
Yoshikawa A, Mitsuhashi H, Sasagawa N, et al.
Expression of ARPP-16/19 in rat denervated skeletal muscle.
J Biochem , 134 (1) , 57-61  (2003)
原著論文19
Kino Y, Oma Y, Takeshita Y, et al.
Direct evidence that EXP/muscleblind interacts with CCUG tetranucleotide repeats
Basic Appl Myol , 13 (6) , 293-298  (2003)
原著論文20
Takeshita Y, Sasagawa N, Usuki F, et al.
Decreased expression of alpha-B-crystallin in C2C12 cells that express human DMPK/160CTG repeats.
Basic Appl Myol , 13 (6) , 305-308  (2003)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-