小胞体制御による神経細胞死抑制・神経変性治療

文献情報

文献番号
200500770A
報告書区分
総括
研究課題名
小胞体制御による神経細胞死抑制・神経変性治療
課題番号
H15-こころ-018
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
小川 智(金沢大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 内山安男(大阪大学大学院医学系研究科 )
  • 山嶋哲盛(金沢大学大学院医学系研究科 )
  • 井上貴文(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は虚血だけでなくパーキンソニズムなどの神経変性疾患における小胞体機能異常を捉え、神経変性疾患に対する基本的戦略として神経細胞の小胞体環境の制御方法を確立しようとするものである。
研究方法
1) メグシン発現ヘテロ接合体ラット(以下、Tg Megと略す)およびコントロールとしてメグシントランスジーンを持たない野生型ラット(Non Tgと略す)を用い、免疫組織染色を行った。
2) 生後1週齢のGFP-LC3を発現したマウスを用いて、低酸素-脳虚血(H-I)負荷をかけ、その後の海馬CA1領域の錐体細胞の変化を観察した。
3) ERAD関連蛋白であるHerp/SUP細胞株を確立した。
結果と考察
1) 慢性小胞体ストレスによる神経細胞死
Tg Megは、正常に生育するものの、生後12ヶ月で、行動テストにて記銘力低下を示した。Tg MegではCA1領域にcaspase-12、caspase-3の活性化を示し、同領域における神経細胞密度の低下を示した。さらにcaspase-12の活性化は黒質緻密層でもみられた。メグシンの過剰発現によって慢性的に小胞体負荷のかかった神経細胞で慢性的かつ緩徐な細胞死が起こることを示している。
2) 小胞体ストレスからオートファジーへ
生後5, 9, 21, 60日目のC57/BL6マウスに片側中大脳動脈結紮により虚血性神経細胞死を誘導した。Caspase-3の活性化、cytochrome cの放出などアポトーシス経路の活性化は、幼弱なマウスほど顕著に見られたが、ネクローシス経路の活性化はマウスの年齢と無関係であった。さらに、LC3-IIの抗体で評価されるオートファジー経路は加齢に伴って増長された。加齢に伴って、小胞体からオートファジーに至る細胞死の経路がより重要になるとが示された。
3) 小胞体由来細胞死抑止剤スクリーニング系の開発
Herp/SUP細胞株は、小胞体ストレスに特異的に脆弱性を示す。これにより小胞体由来の細胞死を抑止する薬剤のスクリーニングか可能である。
結論
慢性的な小胞体ストレスが神経変性の病態生理に深く関与すること、小胞体ストレスからオートファジーに至る経路が、神経細胞死にとって重要な経路となっていることを示している。本研究グループはHerp/SUPノックアウト細胞を用いた薬剤の大量スクリーニングを開始し、さらにin-vivoでの実験系を組み合わせ、画期的新薬の開発を目指す。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500770B
報告書区分
総合
研究課題名
小胞体制御による神経細胞死抑制・神経変性治療
課題番号
H15-こころ-018
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
小川 智(金沢大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 内山安男(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 山嶋哲盛(金沢大学大学院医学系研究科)
  • 井上貴文(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
虚血性神経細胞死だけでなく神経変性疾患にも共通する細胞死のメカニズムとして小胞体の機能異常が注目されている。本研究では、脳病態における小胞体の機能異常に注目し、脳虚血だけでなく神経変性疾患にも共通する神経細胞死機構の制御を目指した。
研究方法
1) 小胞体シグナルによる細胞死のメカニズムの解析と小胞体由来細胞死抑止剤スクリーニング系の開発
ERAD関連蛋白であるHerp/SUP細胞株を確立した。この細胞株は、小胞体ストレスに特異的に脆弱性を示す。これにより小胞体由来の細胞死を抑止する薬剤のスクリーニングを開始、複数のリード化合物を得た。
2) 脳虚血モデルにおける小胞体シグナルの解析(霊長類モデルの確立による)
霊長類(ニホンザル)を用いた慢性低潅流モデルを開発する。このモデルにおいて小川らの確立したORP150など各種小胞体ストレス蛋白抗体の免疫染色を用いて解析した。
3) 生体内での半減期の短いVenous蛍光蛋白に小胞体残留シグナルを結合させた小胞体残留型蛍光マーカーを確立し、このマーカーのクリアランスが小胞体機能の悪化に伴い延長することを示し、小胞体機能計測系として使用可能であることを示した。
結果と考察
4) スクリーニング動物の作成
すでに確立したORP150、SERP1ノックアウトマウス、また、megsin Tg で、小胞体ストレスによる神経細胞死が促進していることを示した。これらの動物を使用して、長期的に経口投与可能な、小胞体機能改善剤のスクリーニングを開始した。すでに平成15年度に確立済みの細胞によるスクリーニング結果からリード化合物を2次スクリーニングにかけ、in-vivoのモデルでも有望な結果を得た。
5) 小胞体理論のパーキンソニズムへの拡大
小胞耐環境維持システムの傷害によってパーキンソニズムが引き起こされることを証明し、パーキンソニズムにおける小胞体の関与を明らかにした。
6) 小胞体ストレスからオートファジーに至る経路の証明
カテプシンノックアウトマウスを用いて、虚血だけでなく神経変性疾患においても、小胞体ストレスからオートファジーへ至る経路を抑制することによって、神経細胞死が阻止されることを示した。
結論
神経疾患を小胞体機能の異常として理解し、その進行を抑制する薬剤のスクリーニングに成功した。神経疾患の革新的な治療法への第一段階として画期的な業績を上げたと確信している。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500770C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小胞体から細胞死に至る経路が虚血だけでなく、種々のパーキンソニズムやFENIB (Familiar encephalopathy with neuroserpin inclusion body)などの神経変性疾患においても基幹経路であることを示した。従来はミトコンドリアを起点とする細胞死が主に神経変性疾患では議論されてきた。ミトコンドリアだけでなく、小胞体の病態における意義を明示した点で画期的である。
臨床的観点からの成果
小胞体理論に基づき、F9細胞による1ジスクリーニング、神経芽細胞による2ジスクリーニングにより、複数のリード化合物を得た。現在、動物モデルによる3次スクリーニングを試行、有効な成果を得ている。これらの薬剤は極めて安全で、すでに健康食品などとして使用されているものもある。このような安全な薬剤が、小胞体期限の神経細胞死に有効であることを示した点で、国民の厚生福祉に多大な貢献をするものである。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
小胞体理論に基づき、preliminaryではあるが、薬剤の開発まで到達した点は特記すべきである。さらにこの研究にて開発された小胞体機能解析のための種々の分子ツールによって、病態下における詳細な小胞体機能が解析可能となった。金沢大学COEとの共催による公開シンポジウムを2回開催した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
36件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kitao Y, Hashimoto K, Matsuyama T, et a.
ORP150/HSP12A regulates Purkinje cell survival: a role for endoplasmic reticulum stress in cerebellar development.
J Neurosci. , 24 (3) , 1486-1496  (2004)
原著論文2
Hori O, Ichinoda F, Yamaguchi A, Taniguchi M, et al
Role of Herp in the endoplasmic reticulum (ER) stress response.
Genes Cells. , 9 (3) , 457-469  (2004)
原著論文3
Bando Y, Tsukamoto Y, Katayama T, et al.
ORP150/HSP12A protects renal tubular epithelium from ischemia-induced cell death.
FASEB J , 18 (5) , 1401-1403  (2004)
原著論文4
Nakatani Y, Kaneto H, Kawamori D, et al.
Involvement of endoplasmic reticulum stress in insulin resistance and diabetes.
J Biol Chem. , 280 (1) , 847-851  (2005)
原著論文5
Ozawa K, Miyazaki T, Hori O, et al
The ER chaperone 150 kDa Oxygen Regulated Protein (ORP150) improves insulin resistance in Type 2 Diabetes Mellitus
Diabetes. , 54 (3) , 657-663  (2005)
原著論文6
Koike M, Shibata M, Waguri S, et al.
Participation of autophagy in storage of lysosomes in neurons from mouse models of neuronal ceroid-lipofuscinoses (Batten disease).
Am J Pathol , 167 (4) , 1713-1728  (2005)
原著論文7
Yoshida H, Kawane K, Koike M, et al.
Phosphatidylserine-dependent engulfment by macrophages of nuclei from erythroid precursor cells.
Nature , 434 (12) , 754-758  (2005)
原著論文8
Tomiyama Y, Waguri S, Kanamori S, et al
Early-phase redistribution of the cation-independent mannose 6-phosphate receptor by U18666A treatment in HeLa cells.
Cell Tissue Res , 317 (5) , 253-264  (2004)
原著論文9
Kametaka S, Shibata M, Moroe K, et al
Identification of phospholipid scramblase 1 as a novel interacting molecule with α -secretase (α-site amyloid precursor protein (APP) processing enzyme (BACE))
J Biol Chem. , 278 (6) , 15239-15245  (2003)
原著論文10
Koike, M., Shibata, M., Ohsawa, Y., et al
Involvement of two different cell death pathways in retinal atrophy of cathepsin D-deficient mice.
Mol. Cell. Neurosci , 14 (1) , 142-155  (2003)
原著論文11
Yamashima T, Tonchev AB, Vachkov IH, et al.
Vascular adventitia generates neuronal progenitors in the monkey hippocampus after ischemia.
Hippocampus , 14 (7) , 861-867  (2004)
原著論文12
Yamashima T
Ca2+-dependent proteases in ischemic neuronal death: a conserved 'calpain-cathepsin cascade' from nematodes to primates.Cell
Calcium. , 36 (3) , 285-293  (2004)
原著論文13
Tonchev AB, Yamashima T, Zhao L, et al
Proliferation of neural and neuronal progenitors after global brain ischemia in young adult macaque monkeys.
Mol Cell Neurosci. , 23 (3) , 292-301  (2003)
原著論文14
Tonchev AB, Yamashima T, Zhao L, Okano H.
Differential proliferative response in the postischemic hippocampus, temporal cortex and olfactory bulb of young adult monkeys.
Glia , 42 (3) , 209-224  (2003)
原著論文15
Yamashima T, Tonchev AB, Tsukada T, et al.
Sustained calpain activation associated with lysosomal rupture executes necrosis of the postischemic CA1 neurons in primates.
Hippocampus , 13 (7) , 791-800  (2003)
原著論文16
Hiroko Bannai, Kazumi Fukatsu, Akihiro Mizutani, T et al.
An RNA-interacting protein SYNCRIP (heterogeneous nuclear ribonuclear protein Q1/NSAP1) is a component of mRNA granule transported with inositol 1,4,5-trisphosphate receptor type 1 mRNA in neuronal dendrites.
The Journal of Biological Chemistry , 279 (11) , 53427-53434  (2004)
原著論文17
Kazumi Fukatsu, Hiroko Bannai, Songbai Zhang, et al.
Lateral diffusion of inositol 1,4,5-trisphosphate receptor type 1 is regulated by actin filaments and 4.1N in neuronal dendrites.
The Journal of Biological Chemistry, , 279 (10) , 48976-48982  (2004)
原著論文18
Iskandar Ismailov, Djanenkhodja Kalikulov, Takafumi Inoue, et al.
The kinetic profile of intracellular calcium predicts long-term potentiation and long-term depression.
The Journal of Neuroscience , 24 (10) , 9847-9861  (2004)
原著論文19
Hiroko Bannai, Takafumi Inoue, Tomohiro Nakayama, et al
Kinesin dependent, rapid, bidirectional transport of inositol-1,4,5-trisphosphate receptor containing particles in the dendrite of hippocampal neurons.
Journal of Cell Science , 117 (1) , 163-175  (2004)
原著論文20
kinori Kuruma, Takafumi Inoue, Katsuhiko Mikoshiba
Dynamics of Ca2+ and Na+ in the dendrite of mouse cerebellar Purkinje cells evoked by parallel fiber stimulation.
European Journal of Neuroscience , 18 (5) , 2677-2689  (2003)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-