筋萎縮性側索硬化症に対する肝細胞増殖因子(HGF)を用いた挑戦的治療法の開発とその基盤研究

文献情報

文献番号
200500769A
報告書区分
総括
研究課題名
筋萎縮性側索硬化症に対する肝細胞増殖因子(HGF)を用いた挑戦的治療法の開発とその基盤研究
課題番号
H15-こころ-017
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
糸山 泰人(東北大学大学院医学系研究科神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 谷口 直之(大阪大学大学院医学系研究科生化学)
  • 中川原 章(千葉県がんセンター研究所)
  • 船越 洋(大阪大学大学院医学系研究科分子再生学)
  • 加藤 信介(鳥取大学医学部脳神経研究施設神経病理)
  • 青木 正志(東北大学病院神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は神経系難治性疾患(難病)のなかでも最も過酷な疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対して肝細胞増殖因子(HGF)を用いた挑戦的治療法を開発することとそれに関わる基盤研究を進めることにある。
研究方法
大型のALS動物モデルである変異Cu/Zn superoxide dismutase (SOD)遺伝子導入ALSラットを用いてHGFの治療実験を行った。臨床応用を目指してALSラットにヒトリコンビナントHGFの髄腔内持続投与を行い臨床効果を検討した。病態研究として変異SOD蛋白と結合するNEDL1の細胞死における役割を検討した。
結果と考察
今までALSラットを用いて運動ニューロンに対し神経栄養因子作用を有するヒトリコンビナントHGFの髄腔内持続投与を行いALSに対する有効性を示してきた。今回はALSへの臨床応用を目指しALSラットにおける発症後からのHGFの髄腔内持続投与を行い、対照ALSラットに比べて約1.6倍の延命効果を認めた。抗HGF抗体をALSラットの髄腔内へ投与しHGFを中和させると病態を悪化させるので、HGFがALS病態の進行を抑制していることが考えられた。ALSラットでのニューロン死のメカニズムはまだ十分明らかにされていないが、変異Cu/Zn SOD蛋白は極めて構造変化を起こしやすく、NEDL1やTRAP-δやDv1-1と結合しながら細胞の機能を変化させ最終的には細胞死に至らせるものと考えられた。
結論
ALS発症後のALSラットに対してHGFの髄腔内持続投与にて明らかな延命効果が認められた。ALSへのHGFの治療開発の次の段階としては、げっ歯類に比べてヒトにより近い霊長類におけるHGF投与の安全試験が必要であり、その試験を経てヒトの前臨床試験を進めたい。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500769B
報告書区分
総合
研究課題名
筋萎縮性側索硬化症に対する肝細胞増殖因子(HGF)を用いた挑戦的治療法の開発とその基盤研究
課題番号
H15-こころ-017
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
糸山 泰人(東北大学大学院医学系研究科神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 谷口 直之(大阪大学大学院医学系研究科生化学)
  • 中川原 章(千葉県がんセンター研究所)
  • 船越 洋(大阪大学大学院医学系研究科分子再生学)
  • 加藤 信介(鳥取大学医学部脳神経研究施設神経病理)
  • 青木 正志(東北大学病院神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は神経難病のなかでも最も過酷な疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対して肝細胞増殖因子(HGF)を用いた新たな治療法を開発することである。また将来的にこのHGFを用いたALSの治療を発展させるために、ALSの病態やHGFの有効機序の解明の基盤研究を進める。
研究方法
私どもの開発した大型のALS動物モデルである変異Cu/Zn superoxide dismutase (SOD)遺伝子導入ALSラットを用いてHGFの治療実験を行った。臨床応用を目指してALSラットにヒトリコンビナントHGFの髄腔内持続投与を行い臨床効果を検討した。
結果と考察
今までALSラットに対してヒトリコンビナントHGFの髄腔内持続投与でALSに対する有効性を示してきたが、今回は臨床応用を目指しALSラットに対して発症後からのHGFの髄腔内持続投与実験を行った。その結果、HGF投与群では対照ラットに比べて約1.6倍の延命効果が認められた。HGF効果を中和させる目的で抗HGF抗体をALSラットの髄腔内へ投与すると病態を悪化させるので、HGFはALS病態の進行を抑制する効果をもっていることが示された。また、孤発性ALS患者の脊髄での残存ニューロンにHGFとその受容体c-Metが発現していることが明らかにされ、外来性HGFの投与が孤発性ALSにも有効である根拠が示された。将来的なHGFを用いたALS遺伝子治療の可能性を探る目的でHGF発現ウイルスベクター投与を行ったところ、内因性HGFレベルが2~3倍に上昇することが示され、ALSの治療に有効な新たな治療手段と考えられた。
結論
今回の治療実験でALSラットに対して発症後からのHGF髄腔内投与にても明らかな延命効果が認められた。この事実はALSのHGF治療の臨床応用について大きなステップと考えられる。次なる段階としては、げっ歯類に比べよりヒトに近い霊長類におけるHGF投与の安全試験を行い、前臨床試験に向けて開発研究を進めたい。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500769C

成果

専門的・学術的観点からの成果
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンの変性により、全身の筋肉の脱力と萎縮が進行して最終的には呼吸筋麻痺をきたす疾患である。原因が不明であり病気の進行をとめる薬はないため難治性疾患(難病)のシンボル的疾患とされている。このALSに対する新たな治療薬を開発することは世界的レベルで切望されている。本研究はその治療法開発を目的として肝細胞増殖因子(HGF)の髄腔内持続投与療法が有力な治療法になる可能性を示した研究である。
臨床的観点からの成果
ALSの治療薬の開発には神経栄養因子が最も有望なものと考えられているが、今まで多くの神経栄養因子は治験において有用性が否定されてきている。HGFは日本で発見された新たな神経栄養因子であり、これがALSに有効である可能性を基礎研究で示してきた。今回、ALSに対するHGFの臨床応用を考えてALSラットを用いて発症後からHGF髄腔内投与を行い有効性を認めたことは、今後のHGFのALS治療薬としての有用性が大いに高まったと考えられる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
神経難病のシンボル的疾患であるALSに対して新たな治療薬の可能性を示し得たことは、患者家族に希望を与えることのみならず社会的波及効果は高いものと考える。神経難病のなかでもALSの患者ないし家族の会等の集まりは、疾患の重篤さゆえに大変活発なものである。それらの集まりにおいてシンポジウムや研究報告会を開き、ALSに対する新薬開発の可能性の現状報告を行い患者家族に可能な限り希望を与えたい。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
ラットを用いたALSモデル(出願済み)
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Miyazaki K et al
NEDL1,a novel ubiquitin-protein isopeptide ligase for dishevelled-1, targets mutant superoxide dismutase-1
J Biol Chem , 279 , 11327-11335  (2004)
原著論文2
Kato S et al
Histological evidence of redox system breakdown caused by superoxide dismutase 1(SOD1) aggregation is common to SOD1-mutated motor neurons in humans and animal models
Acta Neuropathol , 107 , 149-158  (2004)
原著論文3
Kato S et al
Redox system expression in the motor neurons in amyotrophic lateral sclerosis (ALS): immunohistochemical studies on sporadic ALS, superoxide dismutase 1 (SOD1)-mutated familial ALS, and SOD1-mutated ALS animal models
Acta Neuropathol , 110 (2) , 101-112  (2005)
原著論文4
Fujihara N et al
Different Immunoreactivity against Monoclonal Antibodies between Wild-type and Mutant Copper/ Zinc Superoxide Dismutase Linked to Amyotrophic Lateral Sclerosis
J Biol Chem , 280 , 5061-5070  (2005)
原著論文5
Aoki M et al
Development of a rat model of amyotrophic lateral sclerosis expressing a human SOD1 transgene
Neuropathology , 25 (4) , 365-370  (2005)
原著論文6
Ikeda K et al
Motoneuron degeneration after facial nerve avulsion is exacerbated in presymptomatic transgenic rats expressing human mutant Cu/Zn superoxide dismutase
J Neurosci Res , 82 , 63-70  (2005)
原著論文7
Matsumoto A et al
Disease progression of human SOD1(G93A) transgenic ALS model rats
J Neurosci Res , 83 , 119-133  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-