輸入食品のウイルス学的安全性に係る研究

文献情報

文献番号
199700075A
報告書区分
総括
研究課題名
輸入食品のウイルス学的安全性に係る研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
西尾 治(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発展途上国、特にアジア地域では依然として衛生環境が悪く、野生ポリオウイルスが未だに根絶されて無く、ポリオ患者の発生が続いている地域、A型肝炎ウイルスの濃厚汚染地域が存在している。わが国にはこのような地域から魚介類大量に輸入されている。これらのウイルス学的安全性は輸出国および輸入国であるわが国においても全くと言って良いほど調べられていない。従って、輸入食品のウイルス学的安全性を確保することは国民の健康維持および食品の衛生確保と観点から極めて重要である。以上のことから、特に発展途上国からのエビ類と二枚貝についてウイルス学的安全性について調査研究する事とした。
研究方法
輸入魚介類は可能な限り多くの国からのものを収集し、また同じ国の時には異なった生産業者からのものを選んだ。エビ類はインドからの12件、インドネシアの10件、タイおよびブラジルの各3件、スリナム、コロンビアおよびマーレシアの各2件、、カンボジア、ミャンマー、フィリピン、バングラデシュ、中国、台湾、マダガスカルおよび南アフリカの各1件、計42件であった。エビの種類はブラックタイガー21件、ホワイト8件、ピンク7件、そのほか6件を検査材料とした。二枚貝は中国および韓国から各4件および北朝鮮の1件、計9件を用いた。
貝類は中腸腺と消化管を摘出し、乳剤としたのち遠心した。エビ類を梱包していた水、二枚貝は梱包水および貝の中の水50mlにポリエチレングリコール60004gとNaCl 1.05gを加え遠心し、その沈査を組織培養に用いた。
ウイルスRNAの抽出はUltraspec TM-3RNA(Bioteck lab, USA)を用い、RNAを抽出した
cDNAの作製には{Oligo (dT)(12-18)}とSRSVは35', A型肝炎ウイルスはP17のプライマーで、M-MLV RTを用いた。
1st PCRは小型球形ウイルスは,アストロウイルスは、アストロウイルスおよびA型肝炎ウイルスは1組のプライマーを用いて行った。
Nested PCRは小型球形ウイルスは4組、アストロウイルスおよびA型肝炎ウイルスは1組のプライマーを用いて行った。
組織培養でポリオウイルスが分離されたものはポリオのPCRを行い、そのPCR産物を制限酵素Dde?, Hep?でHae?で切断し、その切断パターンからワクチン株あるいは野生株かの鑑別を行った。
小型球形ウイルスおよびポリオウイルスは遺伝子配列を決定した。
組織培養によるウイルス分離はVERO細胞、Hep2細胞およびLα細胞(マウスの細胞にポリオウイルスのレセプター遺伝子を組み込んだ形質転換細胞)で行った12日から14 日間観察を2代まで行った。観察期間中に細胞変性効果が認められたものは中和試験でウイルスの同定を行った。
結果と考察
中国産のはハマグリおよび韓国産の赤貝から各1検体から小型球形ウイルスが検出された。中国産のハマグリおよび韓国の赤貝のウイルスについて遺伝子配列を調べたところ小型球形ウイルス(カリシ科)のノーウオークのgeno グループの1型と2型のであった。遺伝子配列からgeno グループ1のは中国および韓国共にほぼ同じ遺伝子配列で86年にわが国で検出されたウイルスに近いものであった。geno グループ2はSnow Mounainに類似のものが見られた。今回検出されたウイルスが日本でどのような動きを示すか注意深く監視する必要があるものと考えている。
エビ類およびその他の二枚貝は全て小型球形ウイルスは陰性であった。
今回調べたエビ類および二枚貝はアストロウイルスおよびA型肝炎ウイルスは全て陰性であった。
組織培養では北朝鮮産のハマグリからVERO細胞およびLα細胞でウイルスが分離され、ポリオウイルス3型でポリオのPCR増幅遺伝子を制限酵素切断はターンおよび遺伝子配列からワクチン株であった。ワクチン株はヒトからヒトに感染を繰り返すと神経親和性が高まり麻痺を起こすことがあるので、良く加熱するように衛生教育する必要がある。
組織培養では北朝鮮のハマグリの他の検査材料および梱包水は全て陰性であった。
A型肝炎ウイルスの流行は中国における数万人の患者発生したのを含め、欧米等でも起きている。わが国においてもA型肝炎ウイルスの散発例・小流行が見られているが、その感染要因として主に発展途上国からの海外旅行者で、A型肝炎ウイルスの潜伏期が2週間から2ヶ月と長いために帰国してから発症する事が多い。わが国でも過去45年以前にはA型肝炎ウイルスが濃厚に存在していたがその後は消滅している。従って、45歳以下の住民は抗体を保有していないので、A型肝炎ウイルスが食品を介して入り込むと大規模となる危険性が高いと予測される。今回の調査研究ではA型肝炎ウイルスは検出されなかったが、発展途上国では未だA型肝炎ウイルス感染が多いので、今後も継続して監視する必要があると考えている。
今回調査・研究を行ったエビ類は小型球形ウイルス、アストロウイルス、A型肝炎ウイルスおよびポリオウイルスは検出されなかった。エビ類の腸菅はウイルスの吸着が良く無いかもしれない。さらに、コレラの汚染が問題となった経緯もあり、エビ類は微生物の清浄化が行われおり、その結果ウイルスも検出されなかったと推測される。現実に腸管に内容物の無いエビも見られた。
以上から、二枚貝がウイルスに汚染されているおり、今後も監視が必要である。
結論
 輸入食品のウイルス安全性を確保することを目的として、発展途上国からのエビ類および二枚貝について、小型球形ウイルス、アストロウイルス、A型肝炎ウイルスおよびポリオウイルスについて調査・研究を行った。その結果、中国および韓国のハマグリから小型球形ウイルスが検出され、両国ともに2種類の小型球形ウイルスに汚染されていた。また北朝鮮のハマグリからポリオウイルス3型が分離されたが、ワクチン株であった。しかし、エビ類からはウイルスは検出されなかった。今後、特に二枚貝については監視を継続しなければならないと考えられる。

公開日・更新日

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