大都市における精神科医療のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199700072A
報告書区分
総括
研究課題名
大都市における精神科医療のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 武彦(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 籠本孝雄(大阪府環境保健部健康増進課)
  • 河?茂(日本精神病院協会会長)
  • 竹島正(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、大都市におけるよりよい精神科医療のあり方について提言を行うことにある。大都市は、覚醒剤中毒等の法を犯した精神障害者、単身者、外国人、身元確認困難者等、治療と社会復帰を進めるうえで困難な患者が多い。大阪府下の大和川病院において、患者の処遇上の問題が発生したが、その理由のひとつに大都市に特徴的な症例の集中があり、その背景に大都市における精神科医療システムの問題が解決していないことが指摘されている。大阪府での具体的な事例を通して、大都市におけるよりよい精神科医療の構築を検討する。
研究方法
大都市における精神科の医療体制および特定の事例の検証を行い、よりよい精神科医療の構築を検討するため、大和川病院問題の経緯の把握をもとに、?大和川病院からの転院患者調査、?大阪府における精神科救急入院患者調査、?大都市における精神科医療の問題点を把握するための、機関聞き取り調査を行った。
結果と考察
大阪府における、川病院を含む安田系3病院に対する処分等の経過、大和川病院への改善命令・改善指導の概要、大和川病院転退院患者処遇・人権調査の概要をもとに研究を進めた。
大和川病院への転院患者調査では、大和川病院廃院による転院協力作業時の在院しており、府下の精神科医療機関に転院した患者の全体像を把握することにより、大和川病院の果たしてきた役割の把握を試みた。転院患者の約4分の3は、転院前の2-3年間は主に入院生活を送っていた。また転院時の入院形態では、任意入院が86.0%、医療保護入院13.6%、仮入院0.4%であった。また転院時の症状は、「陽性症状が強いなど、処遇上の注意を要する状態」の患者は10.6%であって、平均的な精神病院の在院患者よりも、多くの重症患者が含まれているわけではなかった。しかし、?大和川病院入院時に警察経由で約4分の1が入院していること、?転院患者に中毒性精神障害の割合が21.5%と高いこと、?社会的処遇困難性を有し、家族や地域との関係性の薄い患者が多いことから、病状以外の要因も含めると、社会復帰困難性の高い患者が多く、今後の医療、行政等の連携が重要と思われた。今回の転院患者調査は、大和川病院入院患者の、長期入院患者層、短期入院回転層の二層のうち、主に長期入院患者層について調査したことになる。この結果を、10年度研究で分析予定の救急入院患者調査と比較することにより、大和川病院の短期入院回転層の近い患者群の特徴が把握できるものと思われた。
機関聞き取り調査では、大阪市内の警察署、福祉事務所、保健所、精神科医療機関を対象に、それぞれの機関に、地域における精神的な問題を持つ事例と精神医療の狭間の問題について聞き取り調査を行った。この結果から、?現在の精神科救急輪番制は、利用者から見ると、救急患者の受け入れが均質でなく、府民から利用しやすいシステムになっていないこと、?大阪市内に精神科救急に対応できる医療機関がなく、精神科救急に関する情報センター機能もなかったこと、?大都市を管轄する警察、福祉事務所、保健所等には、単身者、薬物依存、ホームレス等の地域での処遇困難患者が多く、これらの機関を専門的に支援する機能が弱体であったこと、?指定都市における精神保健福祉の取り組み充実が、大都市問題の解決に重要であること、?大都市の精神的な問題を持つ事例に関するニーズと提供される精神科救急医療の間にギャップがあり、そのギャップを埋めるものとして大和川病院が機能した可能性があること、?大阪府の精神科救急輪番制のシステム上の問題点については、輪番参画病院の意見についても聴取しておく必要があることがわかった。 また班会議において、?覚醒剤中毒患者の処遇、?触法精神障害者の問題、?大都市の精神科救急システム、?精神科救急へのアクセスとトリアージュ機能、?人格障害への対応、?保健所、精神保健福祉センター、福祉事務所の機能等について、大和川病院の事例と関係して、重点的な話し合いが持たれた。
結論
研究における結論は次の通りである。
?整備過程にある精神科救急医療体制が、地域住民から見えやすいものになっているか、 地域住民の視点から機能評価する必要がある。
?大都市の精神科医療の現状から見た政策課題としては、単身者、身元不明あるいは身元確認困難、薬物、外国人などの複雑な状況を抱えた事例が多い。また、医療への導入や医療の維持、社会復帰が困難な事例が多い可能性がある。具体的には、次の事項について検討が必要である。
a.人格障害、薬物依存などの増加・潜在への対処。
b.福祉事務所等の対応困難事例への相談援助体制の充実、そのための基礎資料収集。
c.指定都市における精神保健福祉行政の充実。
d.大都市における精神科医療供給の点検。
e.司法と医療の双方に関わる事例の処遇に関する研究の推進。
?精神科救急におけるトリアージュ機能と基幹的な救急医療機関は、大都市における精神科医療において必須であり、この体制整備が大和川病院問題の再発防止にきわめて重要である。
また、今回の研究で、精神保健研究所研究者による調査協力を行った。このような研究では、当事者性の薄い機関の研究への参加は有効と思われるので、今後も必要に応じて、このような形態の研究への参加継続を検討する必要がある。

公開日・更新日

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