経表皮的ワクチン法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700070A
報告書区分
総括
研究課題名
経表皮的ワクチン法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
瀧川 雅浩(浜松医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 瀬尾尚宏(浜松医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
樹状細胞の一種のランゲルハンス細胞(LC)は、近年になりその細胞上の主要組織適合クラスI分子を介してウイルス抗原や癌抗原などの内在性の抗原を効率的に細胞障害性T細胞(CTL)提示することが判明し、この細胞を用いた抗ウイルスワクチン法または癌治療法の研究が大きく注目されている。
皮膚の表皮には多数のLCが常在しているので、皮膚へのウイルスペプチドまたは癌ペプチドの塗布により効果的なワクチン法が開発できれば、それは最も実現性の高い方法となるに違いない。本研究においてはバリア破壊皮膚へのウイルスペプチドまたは癌ペプチドの適用においてウイルスワクチンまたは癌治療が可能であるかを詳細に検討した。
研究方法
ペプチド MHCクラスIH-2Kb分子により提示されCTLの誘導可能なHSVgpB498-505ペプチド、VSV NP53-59ペプチド、TRP-2181-188ペプチド(B16メラノーマのエピトープ)、MUT152-59ペプチド(3LL肺癌のエピトープ)、OVA257-264ペプチドを用いた。
CTLアッセイ 生体内においてH-2Kbに拘束したペプチド特異的CTLの誘導を見るためにLtk-細胞にH-2Kb遺伝子を導入し、H-2Kb分子を強制発現させたLkb細胞を作製した。CTLアッセイにはLkb細胞をCr51ラベルし、ペプチドパルスしたものを標的細胞として用いた。Lkb細胞を200μCi Na[51Cr]と10%FCSを含むRPMI-1640培地で1時間培養し、51CrラベルLkb細胞を作製した。これを50μg/mlのペプチドを含むRPMI-1640培地で1時間インキュベーションしCTLアッセイの標的細胞としてもちいた。CTLアッセイは以下のように行った。96穴プレートに1x104個の標的細胞を入れ、これに上記CTLを種々の比で加えた。上清と細胞下層に分けそれぞれの中に含まれる51Cr量をγ-カウンターでカウントした。
ペプチド特異的CTL前駆細胞の定量 96穴プレート内において0.6,1.2,6.0及び12.0x103個のB6頚部リンパ細胞を、HSVgpB,TRP-2またはMUT1ペプチド(50μg/ml,1時間)でパルスしマイトマイシンC処理したB6ヒ細胞(1x105個)と共に10 U/ml rIL-2と10% FCSを含むRPMI-1640培地で2週間培養した。標的細胞はエフェクター細胞を得るために用いたペプチドと同じペプチドでパルスし51CrラベルしたLkb細胞を用いた。10%以上の% specific lsisを示したwellをpositive wellとし% negative wellを算出し、これをsemilog方眼紙にプロットしした。CTL前駆細胞頻度は37% negative wellの細胞数により算出した。
結果と考察
バリア破壊皮膚への抗原ペプチドとふによる特異的CTLの感作
HSVgpB, VSV NP, TRP-2, MUT1またはOVAペプチドをB6マウス耳翼の角質層を破壊後、12, 24 または48時間で塗布した時、その後頚部リンパ節内で各々のペプチドに特異的なCTLが感作されるかどうかを検討した。結果、用いた全てのペプチドにおいて、頚部リンパ節内でそのペプチド特異的なCTLがH-2Kb拘束的に感作されることが判った。また感作される強さはテープストリッピング後12~24時間でペプチドを塗布した時であり、一匹のマウスあたり24または48μg塗布した時にCTLは最大に感作されることが判った。
このテープストリッピグ皮膚への抗原ペプチド塗布法では、頚部リンパ節内において特異的CTLの感作が見られるものの、ヒ臓内ではそれが見られなかったので、一回の免疫では塗布した皮膚近傍のリンパ節内でCTLの感作が起こる。そこで、一回目はテープストリッピング耳翼を用い、二回目は2週間後にテープストリッピング腹部皮膚を用いてペプチドを塗布すると全身でペプチド特異的CTLが感作されるかどうかについて検討してみた。HSVgpBまたはTRP-2ペプチドいずれを用いた場合も、2回抗原塗布後、ヒ臓内でペプチド特異的CTLが感作されることが判った。バリア破壊皮膚への癌抗原ペプチド塗布による癌ワクチン及び癌の免疫治療実験
上述のようにテープストリッピングしたB6マウス耳翼及び腹部皮膚を用いてTRP-2(B16メラノーマ細胞のエピトープ)またはMUT1(3LL肺癌細胞のエピトープ)ペプチド塗布による免疫を2回行なった後に、それぞれにB16細胞または3LL細胞を1x106個皮下移植時の癌細胞の増殖について検討した。結果、TRP-2免疫されたマウスは、B16細胞の移植を完全に拒絶した。一方MUT1免疫されたマウスは移植3LL細胞の増殖を極度に低下させるが、完全な拒絶には至らず1ヵ月後には全てのマウスが死亡した。
次にB16担癌マウスの癌直径5mmの時にテープストリッピング耳翼及び腹部にTRP-2塗布を行なった結果、B16細胞の増殖抑制または退縮がすべてのマウスに見られ、100%が1ヵ月以上また90%が2ヵ月以上生存した。一方、3LL担癌マウスに同様の方法でMUT1塗布した場合、顕著な3LLの増殖抑制が観察されるものの90%のマウスが36日後には死亡し、2ヵ月以上生存するマウスは存在しなかった。
リンパ節内におけるCTL前駆細胞頻度
正常マウスにおける頚部リンパ節におけるHSVgpB、TRP-2またはMUT1特異的CTL前駆細胞の頻度を限界希釈法により算出した結果、HSVgpB、TRP-2、MUT1特異的CTL前駆細胞頻度はそれぞれ1/4565、1/6055、1/28550であった。テープストリッピング耳翼へのそれぞれのペプチド塗布により1/924、1/1216、1/11625に頻度が増加する。この結果はHSVgpBまたはTRP-2特異的CTL前駆細胞はもともと大きなクローンとして生体内に存在しており、MUT1特異的CTL前駆細胞はそれに比べるとかなり低い頻度で存在していることを示していた。
バリア破壊皮膚への抗原ペプチド塗布による生体内での特異的CTL感作における表皮LCの関与
TRP-2皮内注入においても頚部リンパ節内でTRP-2特異的CTLの感作が弱いながら起こるが、その強さはテープストリッピングに関係なく正常耳翼の皮内注入した場合と同程度であった。このことからテープストリッピング処理における効果は表皮LCによる可能性が強いと考えられる。
次にテープストリッピング耳翼または正常耳翼からLC-enriched fractionを得て、それにTRP-2パルスしたものと頚部リンパ球との混合培養による特異的CTLの感作実験を行なった。結果、テープストリッピング耳翼から分離したLC分画は正常耳翼から分離したLC分画よりも強くCTLを感作した。
さらにテープストリッピング後の表皮LCのH-2Kb分子の発現を抗H-2Kb抗体を用いたフローサイトメトリーによる解析により検討した結果、一部の表皮LCはテープストリッピング後12~24時間でH-2Kb分子の発現を高めることが判った。
ヘルペスウイルスのように潜在的に感染しているウイルスについては、それに特異的なCTLの頻度が既に高いので、この方法は大変効果的なワクチン法となるに違いないが、癌治療においてはより特異的CTL頻度の高い癌抗原ペプチドの選択が治療効果を高める大きな要因となるであろう。CTL特異的ペプチドと共にTh細胞特異的ペプチド(特にTh1細胞特異的ペプチド)を併用して塗布すればより高いワクチン効果が得られるかもしれない。また一種類のペプチドよりも数種類のカクテルの方がより効果的であるといわれているので、HSVワクチンであればHSVgpBペプチドの他のエピトープペプチドを同定し、それらを混ぜた抗原液のバリア破壊皮膚への塗布はより高いHSV特異的CTL感作が期待できるかもしれない。ペプチド単独のパルスよりもheat shock protein(HSP)を結合させたペプチドまたは抗原遺伝子を組み込んだベクターをパルスした方が樹状細胞はより効率的にCTLへ抗原提示することが判っているので、HSP-ペプチド複合体または抗原DNAをテープストリッピング皮膚にとふすればより強くCTLを感作できるかもしれない。
結論
MHCクラスIH-2Kb分子に結合しCTLを誘導できることが知られているHSVgpB, VSVNP, TRP-2, MUT1, OVAペプチドを、テープストリッピングにより角質層除去した皮膚へ塗布した場合、角質層除去後12-24時間で塗布した時に最も強く近傍リンパ節内においてそれらペプチドに特異的なCTLが感作された。テープストリッピングB6マウス耳翼によるペプチド塗布を行った2週間後に、同マウステープストリッピング腹部による同じペプチド処理を行うと、全身でペプチド特異的CTL活性が高まった。この方法によりTRP-2(B16メラノーマのエピトープ)またはMUT1(3LL肺癌細胞のエピトープ)免疫したマウスは、それぞれB16細胞または3LL細胞の皮下移植を拒絶した。以上より角質層破壊皮膚はウイルスワクチン法または癌治療法実施の場として有用であることが判った。

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