WHO飲料水水質ガイドライン改訂に対応するための化学物質等に関する研究

文献情報

文献番号
199700069A
報告書区分
総括
研究課題名
WHO飲料水水質ガイドライン改訂に対応するための化学物質等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
眞柄 泰基(北海道大学)
研究分担者(所属機関)
  • 国包章一(国立公衆衛生院)
  • 安藤正典(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 黒川雄二(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 相澤貴子(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
WHOは、1993年に改訂したWHO飲料水水質ガイドラインについて部分的な改訂を行うこととして、専門家による検討が行われた結果1998年3月にその追補が刊行されることとなっていた.水道法に定める水質基準は、これまでもWHOの飲料水水質ガイドライン等国際的な動向を踏まえながら随時見直しがされてきており、今回のWHOガイドラインの追補に対応して水質基準の改訂の必要性について検討しなければならない.そのため、検討の対象となった項目等について、その健康影響などに関する知見を収集・評価するととともに、それらの試験方法、我が国の水道原水や浄水における存在状況、浄水処理における挙動等明らかにする必要がある.本研究ではこれらの事項について調査を行い、技術的な知見を得ることを目的とした.
研究方法
WHO飲料水ガイドラインの追補の対象となった化学物質を中心に(1)亜硝酸性窒素、(2)ミクロキスチン、(3)アルミニウム、(4)ウラン、(5)多環芳香族炭化水素、(6)農薬(ベンタゾン、シアナジン、2-4-D、ジクワット)、(7)非イオン界面活性剤及び(8)ホウ素について調査を行った.
検討の対象とした化学物質について、試験方法について検討をおこなった.また、水道原水及び浄水について全国主要地域において実態調査をおこなった.さらに、水道における対応限界を明らかにするため浄水処理における除去技術、低減化対策について研究をおこなった.また、健康影響に関する文献調査などを実施した.
調査を実施するために19地方自治体及び水道事業者の科学者・技術者から構成する委員会を設け研究を実施した.
結果と考察
検討対象物質毎の結果及び考察は次のとおりである.
1.亜硝酸性窒素
WHOは0.05?/?を勧告している.測定方法には、イオンクロマトグラフ法、スルファニルアミド・ナフチルエチレンジアミン吸光光度法等がある.水道原水及び浄水からの検出状況について平成8年度に4県において測定された結果を整理した.日本においては塩素処理が義務付けられていることから、水道浄水においてガイドライン値を上回る可能性はほとんどないと推定される.
2.ミクロキスティン-LR
WHOは1μg/?を勧告している.測定方法には、HPLC/UV法、LC/MS法等がある.富栄養化の著しい湖沼を水源とする原水からは若干検出されたが、ほとんどの原水及び浄水からは検出されていない.塩素処理、オゾン処理、紫外線照射によって、ミクロキスティンは細胞内に存在するものも含め、数分から数十分で分解されることを確認した.
3.多環芳香族炭化水素
WHOでは発がん性に基づきガイドライン値を勧告している.測定方法には、溶媒抽出GC-MS法、HPLC法がある.水道原水及び浄水について17水道事業体において複数回測定した.フルオランテンは78試料中4試料から検出され、最高値0.006μg/?であった.ただし、原水で検出されても浄水中では検出されなかった.ベンゾ(b)フルオランテンも同様の結果がみられ、最高値は0.011μg/?の値であった.なお、消毒副生成物の同定および変異原性については十分な知見が得られていないことから、今後とも調査を実施していかなければならないと考える.
4.ウラン
WHOは2μg/?を勧告している.天然ウランは鉱物に由来すると推定されることから、硬度が高い地域の地下水を中心に30都道府県の地下水を調査した.その結果、ガイドライン値を超える値は検出されなかったが、最大で1.73μg/?のウランを検出した.凝集沈でん急速ろ過プロセスを採用する8浄水場の浄水場で、原水中で検出されたウラン (0.01~0.06μg/?)は、浄水中では不検出レベルまで低減されていることがわかった.
5.ほう素
ホウ素は監視項目として0.2?/?という指針値が定められている.しかし、海水淡水化水においては、指針値を超えることから、マーケットバスケット調査を行った.食品からのほう素一日摂取量は、1.96~2.57mg-B/日の範囲であり、一日の許容摂取量4.4mg-B/日に占める食品の寄与率は2分の1程度である.これらのことから、飲料水の寄与率が10%とされている監視項目の0.2?/?の値を改正して、さらに大きな値を監視項目の指針値とすることが可能であることが明らかとなった.
6.農薬
ベンタゾン等農薬について、固相抽出-GC/MS法等による測定方法を開発した.
水道原水及び浄水における検出状況を調査したが、ガイドライン値の10%を超えるようなものはなかった.ただし、農薬は季節的に利用されていることから、引き続きデータを収集することが必要である.
7.非イオン界面活性剤
非イオン界面活性剤の毒性は非常に低い.水道原水及び浄水での非イオン界面活性剤の濃度は、事業場排水や家庭雑排水の影響を強く受ける水域を除いておおむね定量限界以下の0.05?/?以下である.水道水においては発泡性の観点から水道水の利便性を損なわない限界濃度を定めることを検討する必要があると考える.
8.アルミニウム
ジャーテストから、残留溶存アルミニウム濃度は凝集時のpH値が高いと、残留溶存アルミニウム濃度は高くなることがわかった.WHOで議論されているアルミニウム濃度0.05?/?以下をクリアーするためには凝集時のpH値を弱酸性に調整することが必要である.
結論
WHO飲料水ガイドラインの追補の対象となっている項目を中心に調査した.
検討の対象とした化学物質について、その健康影響について文献調査を行うとともに、試験方法について検討をおこなった.試験方法についてはほぼ確立することが出来たが、極性の強い物質には定量限界値が十分低くない試験法が確立されたにとどまったものもあった.また、これらの物質について水道原水及び浄水について全国主要地域において実態調査をおこなった.しかし、適正な試験方法の確立出来なかった項目や農薬あるいは藻類が生産する有機物の影響を受ける項目には季節的な変動があるため、それらについての調査結果は十分ではない.さらに、水道における対応限界を明らかにするため浄水処理における除去技術、低減化対策について研究をおこなったが、季節変動を把握するほど十分な調査を行えなかった項目も存在した.
なお、本調査で得られた研究成果の一部は、平成10年3月24日に開催された生活環境審議会水道部会において、水道水質に関する基準についての検討に際して技術的な資料として活用され、その改正に資することが出来た.しかし、対象項目が多岐にわたることや、水道原水や浄水における挙動が季節的な変動がある項目があることなどから、引き続き調査を実施することが必要であると考える.

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)