アジア太平洋地域における国際人口移動から見た危機管理としてのHIV感染症対策に関する研究

文献情報

文献番号
200500704A
報告書区分
総括
研究課題名
アジア太平洋地域における国際人口移動から見た危機管理としてのHIV感染症対策に関する研究
課題番号
H15-エイズ-021
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
石川 信克(財団法人結核予防会結核研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉山崇(財団法人結核予防会複十字病院)
  • 野内英樹(財団法人結核予防会結核研究所)
  • 沢崎康(エイズ予防財団)
  • 小野崎郁史(財団法人結核予防会結核研究所)
  • 丸井英二(順天堂大学 医学部)
  • 吉原なみ子(財団法人結核予防会結核研究所)
  • 沢田貴志((特活)シェア=国際保健協力市民の会、港町診療所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アジア太平洋地域におけるHIV感染症に対する国際人口移動の影響の検証と、結核を入り口としたHIV問題の実態把握を通じ、一時的な緊急政策ではなく、人間の安全保障を目的とした長期的な国家戦略としての「危機管理」論を基盤にし、国際人口移動とHIV/結核対策に関する政策提言を追求した。




研究方法
具体的には、1)在日外国人のHIV感染に関する研究、2)アジア太平洋地域のHIV疫学と人口移動に関する研究、3)政策分析と提言の3項目を検討した。
結果と考察
日本において、HIV合併結核患者はここ数年間で大きな増加はみられず、全結核患者からみればHIV合併結核患者は少数ではあるが、20代?40代男性を中心に、確実に同程度発生していることがわかった。2005年の1月に2002年1月と同様にカンボジア全国の新規登録結核患者においてHIV検査を実施した。登録患者2,668症例で、2,632(98.7%)の患者より血清が採取され、HIV陽性率は9.9%であった。ロジスティック解析では、25-44歳である事、再登録結核患者(調整オッズ比2.49)、肺外結核(同3.8)、の他に場所としてプノンペン(同4.1)、沿岸地域(同2.8)、タイ国境地域(同2.4)が独立危険因子として同定され、国内・国際間の人口移動の影響が測定された。タイにおける中・長期滞在者HIV感染リスクの同定に係る主な結果は、1)タイへの渡航前・後の比較で、「性行為の回数」と「性行為のパートナーの人数」の増減を聞いたところ、両方の質問で「増えた」と回答した回答者は38.7%であった。2)最後の性行為がタイで行われた回答者(n=1,051)のうち「最後の性行為においてのコンドーム使用の有無」と「コンドームの使い方」を訊ねたところ、33.4%がコンドームを未使用であった。3)HIV検査に関しては、日本でHIV検査を受けたのは24.9%、タイで受けたのは27.8%であったが、HIV検査に対しての肯定的な回答を得た。4) HIV/AIDSに関する情報の入手経路は、タイにおいては、海外に渡航している日本人特有のメディアチャンネルを活用した効果的な情報提供を検討する必要があることが示唆された。6)回答者が従事する企業・団体において、エイズ教育・研修を行っているところは、回答者中の3.4%にとどまった。
結論
HIVや結核等の感染症の蔓延には、国際人口移動の関与が深く、その状況を出来るだけ正しく把握することが有効な危機管理につながると考えられた。本研究はその為の貴重な資料を提供し、政策提言への足がかりを作った。

公開日・更新日

公開日
2006-07-03
更新日
-

文献情報

文献番号
200500704B
報告書区分
総合
研究課題名
アジア太平洋地域における国際人口移動から見た危機管理としてのHIV感染症対策に関する研究
課題番号
H15-エイズ-021
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
石川 信克(財団法人結核予防会結核研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉山崇(財団法人結核予防会複十字病院)
  • 野内英樹(財団法人結核予防会結核研究所)
  • 沢崎康(エイズ予防財団)
  • 小野崎郁史(財団法人結核予防会結核研究所)
  • 丸井英二(順天堂大学 医学部)
  • 吉原なみ子(国立感染症研究所)
  • 沢田貴志((特活)シェア=国際保健協力市民の会、港町診療所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では危機管理という視点から、国際人口移動に伴うHIV対策に関する政策提言を行うために、結核分野の経験や情報を利用したHIV流行の実態把握と、長期的な「危機管理」のあり方を探ることが目的である。
研究方法
具体的には、在日外国人のHIV感染の実態に関する理論疫学的分析、日本への入り口というべきアジア太平洋地域のHIV疫学と人口移動に関する分析、政策分析と政策提言作成への試みを行った。
結果と考察
東南アジア主要6カ国からの来日外国人に関しての分析によると、出入国者数の動向、およびそれと同時に背景因子としての各国におけるHIV感染症流行状況が、HIV感染症報告数に影響を与える主要因として同定された。首都圏で結核入院病床を持つ主要8病院を対象に調査を行い、全体的には結核入院患者の約0.8%がHIV陽性、年代によってHIV陽性率が高いことが示唆された。HIV抗体検査の説明等の現状から、正確な情報収集や結核・HIVの治療へのアクセスの保障、支援体制の整備、国籍を問わない検査説明体制の整備が在日外国人への対策につながると示唆された。タイのチェンライ県での調査観察では、ミャンマーからタイ側の病院に結核治療に来る患者がHIV感染陽性結核も含めて増加し、半分以上が治療から脱落、薬剤耐性率も高いことが示された。カンボジアでの2005年1月1ヶ月の新規登録結核患者全数の全国レベル調査では、全体のHIV陽性率は9.9%で、2003年1月に実施した前回と同様に、プノンペン首都圏、タイとの国境地域、海岸部での著しい高陽性率の動きが示された。
結論
「結核を入り口」とした「移動人口」の視点で、HIV感染の実態を把握することは比較的可能で、HIV薬剤耐性の課題にもつなげられるといえる。海外に渡航する日本人やアジアに滞在する日本人、日本企業を対象とした感染症のリスクマネジメントに関して実態調査を行い、HIV危険行動の頻度が高い事と日本語マスコミの重要性を同定した。危機管理対策の分析からは、結核やHIV/AIDSの対策に必要な「危機管理」は、各組織や部署の横の連携強化が必要であり、長期的な国家戦略であるべきという結論が導き出された。方法の1つとして、アジア太平洋地域の「専門家集団」をネットワークする重要性と可能性が示され、アジア地域における専門家ネットーワーク作りへの具体的な提言や活動として、アジア太平洋エイズ会議にて、ワークショップを実施した。

公開日・更新日

公開日
2006-06-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500704C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、結核対策の経験を生かして国際人口移動に対応したHIV感染症対策に貢献した。研究成果は、国内・国際会議にて積極的に発表を行った。国際的・社会的意義としては、研究成果をアジア諸国のHIV政策に還元できること、研究協力機関での人材育成に貢献できること等があげられる。本研究班は今年度で終了するが、今後もアジア諸国での国境問題に関しての調査の分析・考察を踏まえて、アジアおよび日本のHIV感染症政策に還元することを目指す。
臨床的観点からの成果
移動人口は、HIV感染症流行に寄与しているとされながらも調査が難しい集団であり、人口移動に関する定量的調査を行った点で、臨床的・学術的に意義があると言える。
ガイドライン等の開発
在外邦人のHIV感染リスクについては、調査結果を取りまとめ中であるので、来年度に向けて他の関連テーマを抱えた研究班の分担として活動を継続したい。本研究班での研究の蓄積したアジアでのエイズ状況の把握も活用し、アジアにいる日本人や日本企業に向けて、10年前にエイズ予防財団から配られたエイズ対策のガイドラインの改訂を検討している。
その他行政的観点からの成果
HIVや結核等の感染症の蔓延には、国際人口移動の関与が深く、その状況を出来るだけ正しく把握することが有効な危機管理につながると考えられた。本研究はその為の貴重な資料を提供し、政策提言への足がかりを作った。また今後、結核を入り口とした研究班の必要性が出てきた時には積極的に応募したい。
その他のインパクト
公開シンポジウムを神戸での第7回アジア太平洋エイズ会議の際に実施した。日本を含むアジアの人口形態、文化は多様であり、地域協力の枠組みでいかにアジアにおける国際人口移動とHIV伝播に取り組むかは難しい課題であるが、エイズ会議やアジア地域エイズ国際研修を活用して、アジアに根付いたHIV感染対策専門家のネットワークの形成に貢献したい。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishiura H, Imadzu L, Yoshiyama T, et al.
HIV notification and migration. – Epidemiological analysis of migrants from Southease Asian countries during 1986-2001.
J Population Studies , 35 , 1-11  (2004)
原著論文2
丸井英二、坂本なほ子、島尾忠男
世界のHIV/AIDSの流行格差の要因分析
病原微生物検出情報(IASR) , 25 (7) , 10-12  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-07-02
更新日
-