血友病の治療とその合併症の克服に関する研究

文献情報

文献番号
200500694A
報告書区分
総括
研究課題名
血友病の治療とその合併症の克服に関する研究
課題番号
H15-エイズ-009
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 洋一(自治医科大学医学部分子病態治療研究センター分子病態研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小澤 敬也(自治医科大学医学部分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部)
  • 吉岡 章(奈良県立医科大学小児科学教室)
  • 小林 英司(自治医科大学医学部分子病態治療研究センター臓器置換研究部)
  • 長谷川 護(ディナベック株式会社)
  • 天野 景裕(東京医科大学臨床検査医学講座)
  • 北村 義浩(東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
80,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血友病患者のQOLを高めるために、遺伝子治療とインヒビタ対策を目的とした。血友病はX染色体上に存在する血液凝固第VIII、(FVIII)或いはIX因子(FIX)遺伝子の異常に起因する先天性出血性疾患である。現在の治療は出血時に因子製剤を投与するcare中心で、致死的な頭蓋内出血の予防は不可能である。血友病にcureをもたらす遺伝子治療は、成功すれば不慮の出血を防ぎ、さらに血液製剤使用量を減らすことで社会に資することも大である。本年度は、これまでの基礎研究をベースに、遺伝子治療臨床研究開始のために必要な技術の確立と、安全性確認に焦点を絞って検討した。インヒビタ対策は有効な免疫寛容誘導法開発と遺伝子治療によるインヒビタ回避法の基礎的検討を行った。
研究方法
これまでの研究成果をもとにベクターを絞り込み、遺伝子治療においては直接体内臓器に遺伝子を導入する場合はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを、そして肝細胞もしくは幹細胞を取り出しex vivoで遺伝子を導入し、細胞を自己へ再移植する場合にはサル免疫不全ウイルス(SIV)ベクターを利用した。体内投与の臓器特異性を高めるためにプロモータの検討も進めた。
結果と考察
 マウスでは筋肉細胞、脂肪細胞、血管内皮細胞、肝細胞を標的として、血友病A、Bとも治療レベルの血友病因子の長期発現を維持することと一定の安全性は確立できた。サルを用いた実験では、AAVベクターがサル由来であることから、既存の抗AAV抗体のためにベクター機能が阻害されたり、発現ヒト因子に対する抗体産生のため長期の治療レベル因子発現は得られなかった。しかし、問題点が明らかとなり、技術的にも早期に克服できる目安がついた。体外で自己肝細胞に血友病遺伝子を導入し、異所性に移植する方法に技術的に大きな進歩が見られた。また自己血液幹細胞にFVIIIを導入し、再移植後プロモータを利用して血小板に特異的に発現させ、血小板を運搬とインヒビタ対策に用いる検討にも予想以上の成果が得られ臨床応用可能性が示唆された。胸腺へ抗原を暴露し成熟マウスに血友病因子に対する免疫寛容誘導する方法は、解析しなければならない問題も多いが興味深い現象が観察されている。血友病患者解析も順調に進行した。
結論
臨床研究に向けた基礎研究レベルの準備は整いつつある。ベクターのパテントの問題、人体に投与可能なベクターの精製などは今後の重要課題である。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200500694B
報告書区分
総合
研究課題名
血友病の治療とその合併症の克服に関する研究
課題番号
H15-エイズ-009
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 洋一(自治医科大学医学部分子病態治療研究センター分子病態研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小澤 敬也(自治医科大学医学部分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部)
  • 吉岡 章(奈良県立医科大学小児科学教室)
  • 小林 英司(自治医科大学医学部分子病態治療研究センター臓器置換研究部)
  • 長谷川 護(ディナベック株式会社)
  • 天野 景裕(東京医科大学臨床検査医学講座)
  • 北村 義浩(東京大学医科学研究所先端医学研究センター感染症分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血友病患者のQOLを高めるために、遺伝子治療とインヒビタ対策を目的とした。血友病はX染色体上の血液凝固第VIII、(FVIII)或いはIX因子(FIX)遺伝子異常に起因する先天性出血性疾患である。現在の治療は出血時に因子製剤を投与するcare中心で、致死的な頭蓋内出血の予防は不可能である。血友病にcureをもたらす遺伝子治療は、成功すれば不慮の出血を防ぎ、さらに血液製剤使用量を減らすことで社会に資することも大である。
研究方法
種々の方法を検討したが、結果的に直接体内臓器に遺伝子を導入する場合はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを、そして肝細胞もしくは幹細胞を取り出しex vivoで遺伝子導入し、細胞を自己へ再移植する場合にはサル免疫不全ウイルス(SIV)ベクターを利用する方法を採用した。直接投与する場合の安全性を確保する目的で、臓器の選択、さらに、AAVベクター血清型の差による臓器特異性と臓器特異的プロモータを検討した。
結果と考察
マウスでは筋肉細胞、脂肪細胞(世界初)、血管内皮細胞、肝細胞で治療レベルの血友病因子を長期安全に発現する技術がほぼ確立できた。サルを用いた実験では、AAVベクターがサル由来であることから、既存の抗AAV抗体のためにベクター機能が低下、或いは発現ヒト因子に対する抗体産生のため長期の治療レベル因子発現は得られなかった。しかし、問題点が明らかとなり、克服できる目安がついた。体外で自己肝細胞に血友病遺伝子を導入し、異所性移植する方法に技術的に大きな進歩が見られた。この方法の利点は、問題時に除去しうる臓器を移植対象に選択できる点にある。さらに、自己幹細胞に体外で血友病遺伝子を導入し、再移植後、特異的プロモータを検討して血小板に発現させ、血小板を運搬とインヒビタ対策に利用する試みに期待以上の成果が得られた。SIVベクターの安全性と産生効率を高める為の検討も順調に進んでいる。インヒビタ対策では血友病マウスを用いて新生児免疫寛容誘導の方法を確立し、そのメカニズムを明らかにした。胸腺をターゲットにした成熟マウスに免疫寛容誘導することを目指した試みが現在進行中である。遺伝子治療に向けた血友病患者の遺伝子解析も順調に進みつつある。
結論
臨床研究に向けた基礎研究レベルの準備は整いつつある。人体に投与可能なベクターの精製とパテントなどは今後の重要課題である。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2006-12-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500694C

成果

専門的・学術的観点からの成果
血友病遺伝子治療研究は欧米から10年遅れのスタートであったが、基礎研究レベルでは国際的水準に達した。遺伝子治療標的細胞として世界で初めて脂肪細胞を用いた。また、自己細胞にex vivoで血友病遺伝子導入後、再移植してプロモータを工夫して血小板に発現させたり、皮膚や腎皮膜下へ肝細胞を異所性発現させるなどの方法による治療可能性を示したことは独創性が高い。新生児免疫寛容誘導法の確立とそのメカニズムの解明もインヒビタ研究にインパクトを与えた。
臨床的観点からの成果
マウスレベルでの血友病遺伝子治療はほぼ技術的に問題のないレベルに達した。これまでの経緯を考えると、日本ではサルでの安定発現と安全確保の保証がまず必要と考える。自己抗体産生により発現は短期間であったがサルでも遺伝子治療により治療レベルの血友病因子血中レベルが見られたことは、臨床研究へ一歩近づいたといえる。新生児免疫寛容誘導法はマウスでの報告であるが、ヨーロッパでは同方法による臨床治験を模索しているという情報もある。
ガイドライン等の開発
血友病患者遺伝子解析が進みつつある。現時点では特に具体化されていないが、将来的には遺伝子解析に基づく治療患者選択などのガイドラインが必要になると思われる。
その他行政的観点からの成果
遺伝子治療が成功すれば、血友病因子濃縮製剤の使用量が減り、経済的に社会に資するところ大であると考える。また製剤混入物による副作用頻度も低下することが期待される。さらには、女性血友病キャリアの方々の精神的ストレス(男子出生の50%は血友病になる)を多少とも軽減する可能性がある。
その他のインパクト
新生児免疫寛容誘導法の研究により自治医科大学分子病態講師・窓岩清治が日本で初めてBayerのSpecial Project Hemophilia Awardを獲得し、表彰された。最終年度、3年目班会議には血友病患者代表の方々を招待し、患者側からの忌憚ない御意見と希望を頂戴した。

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
204件
その他論文(和文)
81件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
235件
学会発表(国際学会等)
72件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計5件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mimuro J, Mizukami H,Sakata Y, et al.
Specific detection of human coagulation factor IX in cynomolgus macaques.
J.Thromb. Haemost , 2 (2) , 275-280  (2004)
原著論文2
Ogata K, Hasegawa M, Sakata Y, et al.
Expression of human coagulation factor VIII in adipocytes transduced with the simian immunodeficiency virus agmTYO1-based vector for hemophilia A gene therapy.
Gene Ther , 11 (3) , 253-259  (2004)
原著論文3
Madoiwa S, Yamauchi T, Sakata Y, et al.
Induction of immune tolerance by neonatal intravenous injection of human factor VIII in murine hemophilia A.
J.Thromb.Haemost , 2 (5) , 754-762  (2004)
原著論文4
Kikuchi J, Mimuro J, Sakata Y, et al.
Sustained transgene expression by human cord blood-derived CD34+ cells transduced with simian immunodeficiency virus agmTYO1-based vectors carrying the human coagulation factor VIII gene in NOD/SCID mice.
J. Gene Med , 6 (10) , 1049-1060  (2004)
原著論文5
Urabe M, Kogure K, Ozawa K, et al.
Positive and negative effects of adeno-associated virus Rep on AAVS1-targeted integration.
J. Gen. Virol , 84 , 2127-2132  (2003)
原著論文6
Xin K Q , Ooki T, Ozawa K, et al.
A DNA vaccine containing inverted terminal repeats from adeno-associated virus increases immunity to HIV.
J. Gene. Med , 5 , 438-445  (2003)
原著論文7
Kanazawa T, Mizukami H, Ozawa K, et al.
Suicide gene therapy using AAV-HSVtk/ganciclovir in combination with irradiation results in regression of human head and neck cancer xenografts in nude mice.
Gene Ther , 10 , 51-58  (2003)
原著論文8
Matsushita T, Okada T, Ozawa K, et al.
The adenovirus E1A and E1B19K genes provide a helper function for transfection-based adeno-associated virus vector production.
J Gen Virol , 85 , 2209-2214  (2004)
原著論文9
Mochizuki S, Kobayashi E, Ozawa K, et al.
Long-term correction of hyperphenylalaninemia by AAV-mediated gene transfer leads to behavioral recovery in phenylketonuria mice.
Gene Ther , 11 , 1081-1086  (2004)
原著論文10
Liu Y, Okada T, Ozawa K, et al.
Specific and efficient transduction of cochlear inner hair cells with recombinant adeno-associated virus type 3 vector.
Mol Ther , 12 (4) , 725-733  (2005)
原著論文11
Okada T, Nomoto T, Ozawa K, et al.
Large-scale production of recombinant viruses by use of a large culture vessel with active gassing.
Hum Gene Ther , 16 , 1212-1218  (2005)
原著論文12
Urabe M, Nakakura T, Ozawa K, et al.
Scalable generation of high-titer recombinant adeno-associated virus type 5 in insect cells.
J Virol , 80 (4) , 1874-1885  (2006)
原著論文13
Ono T, Mimuro J, Sakata Y, et al.
Severe secondary deficiency of von Willebrand factor-cleaving protease (ADAMTS13) in patients with sepsis-induced disseminated intravascular coagulation: Its correlation to development of renal failure.
Blood , 107 (2) , 528-534  (2006)
原著論文14
Okada T, Uchibori R, Kobayashi E, et al.
A Histone Deacetylase Inhibitor Enhances Recombinant Adeno-associated Virus-Mediated Gene Expression in Tumor Cells.
Mol Ther , 13 (4) , 738-746  (2005)
原著論文15
Takeda S, Takahashi M, Kobayashi E, et al.
Successful Gene Transfer Using Adeno-Associated Virus Vectors into the Kidney: Comparison among Adeno-Associated Virus Serotype 1 to 5 Vectors In Vitro and In Vivo.
Nephron Exp Nephrol , 96 , 119-126  (2004)
原著論文16
佐々木昭仁、永泉圭子、新井盛夫、他
日本人血友病B患者に認められた18種類の遺伝子変異
血栓止血誌 , 15 (2) , 107-113  (2004)
原著論文17
Sakuma R, Kobayashi N, Kitamura Y, et al.
Inhibitory and enhancing effects of insertion of central polypurine tract sequence on gene expression with vectors derived from human immunodeficiency virus type 1.
Biochem Biophys Res Commun , 302 (3) , 489-495  (2003)
原著論文18
Furutsuki T, Hosoya N, Kitamura Y, et al.
Frequent transmission of cytotoxic-T-lymphocyte escape mutants of human immunodeficiency virus type 1 in the highly HLA-A24-positive Japanese population.
J. Virol , 78 (16) , 8437-8445  (2004)
原著論文19
Zhu D, Taguchi-Nakamura H, Kitamura Y, et al.
Influence of single-nucleotide polymorphisms in the multidrug resistance-1 gene on the cellular export of nelfinavir and its clinical implication for highly-active antiretroviral therapy.
Antiviral Therapy , 9 (6) , 929-935  (2004)
原著論文20
Yan H, Chiba-Mizutani T, Kitamura Y, et al.
A novel small molecular weight compound with a carbazole structure that demonstrates potent human immunodeficiency virus type-1 integrase inhibitory activity.
Antiviral Chemistry & Chemotherapy , 16 , 363-373  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-07-02
更新日
-