HIV感染妊婦の早期診断と治療および母子感染予防に関する臨床的・疫学的研究

文献情報

文献番号
200500692A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染妊婦の早期診断と治療および母子感染予防に関する臨床的・疫学的研究
課題番号
H15-エイズ-007
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 憲之(獨協医科大学医学部 産科婦人科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 戸谷 良造(医療法人和合病院 副院長)
  • 喜多 恒和(防衛医科大学校病院 産婦人科)
  • 外川 正生(大阪市立総合医療センター 小児内科)
  • 和田 裕一(国立病院機構仙台医療センター 産婦人科)
  • 塚原 優己(国立成育医療センター 周産期診療部産科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
40,626,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国におけるHIV感染は近年急増傾向にあり、先進国の中で唯一の例外である。なかでも女性感染者の増加が顕著であり、感染妊婦と母子感染の急増が危惧される。本研究はHIV母子感染ゼロを目指し、
1.周産期におけるHIV感染対策の現状把握
2.日本における最も有効な母子感染防止対策の確立と標準化
3.HIV母子感染とその対策に関する医療関係者、一般国民に対する啓発教育・広報活動の推進を行う。
研究方法
(1)周産期におけるHIV感染対策の現状把握。
 ⅰ)妊婦HIVスクリーニングの実施状況のアンケート調査研究。
 ⅱ)HIV感染妊婦並びにその出生児の後方視的調査研究と産科小児科統合ファイル作成。
 ⅲ)HIV母子感染予防対策未施行例の社会疫学的解析と予防対策に関する研究。
(2)日本における最も有効な母子感染防止対策の確立と標準化。
(3)啓発教育・広報活動の推進。
(4)母子感染におけるリスク因子に関する検討。
結果と考察
結果 ⅰ)HIV検査実施率は平均91.1%で、調査を開始した平成11年度に比べて17.9%上昇した。ⅱ)HIV母子感染児の94%が妊婦HIVスクリーニング未施行であり、同スクリーニングの重要性が再認識された。ⅲ)HIV陽性児の治療費(300万円)と治療期間(20年)と仮定した推定検討では、妊婦HIV陽性頻度が0.03%未満であった場合でも全妊婦HIVスクリーニングの経済的有効性が示された。ⅳ)産婦人科2次調査のデータに基づいたHIV感染妊婦数の近未来、中長期予測推計にて感染妊婦数の増加傾向が示されたが、更に正確な外挿法による予測推計を計画中である。ⅴ)研究成果発表会をエイズ予防財団主催のもと、3回開催した。
考察 妊婦HIV抗体検査実施率は地域較差を含め年々改善が見られてきた。一方、感染妊婦の減少傾向は「再増加」に転じた。感染児35名の詳細な追跡調査により妊婦HIVスクリーニングの不可欠さは明瞭となった。妊婦感染者数は2007年までは増加し続けると推測され、昨年より再増加に転じた今年度の捕捉感染妊婦数を反映していた。
結論
HIV母子感染予防は先ず全妊婦HIVスクリーニングから始まり、次いでわが国に合致した予防対策のマニュアル作成と最新知識に基づいた改訂、さらにその啓発教育活動に尽きる。この事実が当班の研究成果より明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2006-12-25
更新日
-

文献情報

文献番号
200500692B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染妊婦の早期診断と治療および母子感染予防に関する臨床的・疫学的研究
課題番号
H15-エイズ-007
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 憲之(獨協医科大学医学部 産科婦人科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 戸谷 良造(医療法人和合病院 副院長)
  • 喜多 恒和(防衛医科大学校病院 産科婦人科)
  • 外川 正生(大阪市立総合医療センター 小児内科)
  • 和田 裕一(国立病院機構 仙台医療センター 産婦人科)
  • 塚原 優己(国立成育医療センター 周産期診療部産科)
  • 牛島 廣治(東京大学医学部大学院 国際保健学専攻発達医学ウイルス学 母子保健学)
  • 名取 道也(国立成育医療センター 副院長)
  • 北村 勝彦(横浜市立大学医学部 公衆衛生学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国におけるHIV/AIDS患者は近年増加傾向にあり、妊娠可能な年齢層の女性感染者の増加も例外ではなく感染妊婦と母子感染の急増が危惧される。このような状況を踏まえて、当研究班での基本目的は
ⅰ)全妊婦HIVスクリーニングの実現
ⅱ)HIV母子感染最少化の実現
ⅲ)感染妊婦、児、配偶者の長期予後観察とQOL向上(授乳と経膣分娩の実現を含む)
ⅳ)最適治療、ARTアドヒアランス向上と副作用調査、予防に関する知識の啓発教育活動推進
研究方法
(1)周産期におけるHIV感染対策の現状把握。
 ⅰ)妊婦HIVスクリーニングの実施状況のアンケート調査研究
 ⅱ)HIV感染妊婦並びにその出生児の後方視的調査研究と産科小児科統合ファイル作成
 ⅲ)HIV母子感染予防対策未施行例の社会疫学的解析と予防対策に関する研究。
(2)日本における最も有効な母子感染防止対策の確立と標準化。
(3)啓発教育・広報活動の推進。
(4)母子感染におけるリスク因子の検討。
(5)基礎的研究。
結果と考察
結果 ⅰ)HIV検査実施率は平均91.1%で、調査を開始した平成11年度に比べて17.9%上昇した。ⅱ)平成16年度までのHIV陽性妊婦は総数346例であった。ⅲ)HIV母子感染児の94%が妊婦HIVスクリーニング未施行であり、同スクリーニングの重要性が再認識された。ⅳ)産婦人科2次調査のデータに基づいたHIV感染妊婦数の近未来、中長期予測推計にて感染妊婦数の増加傾向が示された。ⅴ)「HIV母子感染予防対策マニュアル」は既に二回改訂し、「妊婦向け小冊子」を配布し、「女性のためのQ&A-あなたと赤ちゃんのためにできること-」を作成中である。ⅵ)研究成果発表会をエイズ予防財団主催のもと、3回開催した。
考察 この3年間、周産期におけるHIV感染対策の現状把握に努め、日本の国情に合致した最も有効な母子感染防止対策の確立と標準化並びに啓発・広報活動に努力してきた。その結果、妊婦HIVスクリーニングの実施率は増加し、地域差も解消されてきた。一方、近・中長期未来における日本国籍HIV感染妊婦は増加するとの予測は極めて重要で、「持続する」HIV対策が重要である。
結論
HIV母子感染予防は先ず全妊婦HIVスクリーニングから始まり、次いでわが国に合致した予防対策のマニュアル作成と最新知識に基づいた改訂、さらにその啓発教育活動に尽きる。この事実が当班の研究成果より明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2006-12-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500692C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 SIV/HIVキメラウイルスと妊娠サルを用いた世界で初めての経静脈経路によるSHIVの子宮内感染動物モデルの作製と母乳中のHIV-1が酸化チタンを添加しUVを照射することで高率に破壊されることがわかった。
 子宮頸管中α-defensin 1-3、HIVウイルスコピー数は母体血中値と相関しない例があり、両因子が経膣分娩選択の判定基準の一つになり得る可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
 産婦人科2次調査のデータに基づいたHIV感染妊婦数の近未来、中長期予測推計にて感染妊婦数の増加傾向が示されたが、更に正確な外挿法による予測推計を計画中である。
 4,424件の妊婦血液検体中スクリーニング検査陽性13例うち確認検査陽性1例で、偽陽性率0.3%、陽性的中率7.7%で、確認試験の重要性が示された。
 20歳代の感染者の57.1%、30歳代の33.3% が挙児希望ありと回答しており、女性感染者カップルが、感染の危険を回避しかつ妊娠可能な方法の情報提供が急務である。
ガイドライン等の開発
「HIV母子感染予防対策マニュアル」は既に二回改訂したが(7,000部)、最終年度の成果を加えて現在作成中である。
その他行政的観点からの成果
 HIV母子感染児の94%が妊婦HIVスクリーニング未施行であり、同スクリーニングの重要性が再認識された。HIV陽性児の治療費(300万円)と治療期間(20年)と仮定した推定検討では、妊婦HIV陽性頻度が0.03%未満であった場合でも全妊婦HIVスクリーニングの経済的有効性が示された。
その他のインパクト
平成15年度:国際学会:11thFIGO他2学会計6題、国内学会:計33題 新聞メディア報道:3回、テレビ報道1回 研究成果発表会 福岡市、盛岡市、名古屋市
平成16年度:国際学会:11thICID、国内学会:計37題(12題:シンポジウム)新聞・メディア報道:8回、テレビ報道:2回 研究成果発表会 大分市、東京都、山形市
平成17年度:国際学会:7thICAAP計4題、国内学会:計29題(9題:シンポジウム)、新聞・メデイア報道:4回、テレビ放送:1回 研究成果発表会 札幌市、下関市、名護市

発表件数

原著論文(和文)
60件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
99件
日本エイズ学会 日本感染症学会 日本周産期・新生児医学会学術集会 日本産科婦人科学会学術集会 日本産婦人科感染症研究会  他
学会発表(国際学会等)
12件
11th FIGO(2003) 11th ICID(2004) 7th ICAAP(2005)
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
9件
エイズ予防財団主催のもと国民向け研究成果発表会を3年間にわたり計9回実施

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
戸谷良造
HIV母子感染防止のガイドライン‐その軌跡と役割の評価
現代医療 , 35 , 1377-1383  (2003)
原著論文2
戸谷良造
HIVに母子感染予防‐工費とすべき妊婦のHIV抗体検査‐
公衆衛生 , 67 , 925-930  (2003)
原著論文3
谷口晴紀、喜多恒和、戸谷良造
HIV感染をめぐる最近の話題3.妊婦へのHIV抗体検査とインフォームドコンセント
ペリネイタルケア , 22 , 114-119  (2003)
原著論文4
Yoshino N, Lu FX, Fujihashi K etal.
A novel sdjuvant for mucosal immunity to HIV-1 gp120 in human primates
J Immunology , 173 , 6850-6857  (2004)
原著論文5
林 公一
妊婦のHIV抗体検査の実施について
Child Health , 5 , 63-67  (2004)
原著論文6
蓮尾泰之、和田裕一、林 公一 他
本邦におけるHIV母子感染の免疫学的研究(1)妊婦HIVスクリーニング検査の実施率
第22回日本産婦人科感染症研究会学術講演会記録集 , 73-75  (2004)
原著論文7
塚原優己、喜多恒和、阿部史郎 他
本邦におけるHIV母子感染の免疫学的研究(2)HIV感染妊婦の発生動向
第22回日本産婦人科感染症研究会学術講演会記録集 , 76-81  (2004)
原著論文8
松田秀雄、喜多恒和、阿部史郎 他
本邦におけるHIV母子感染の免疫学的研究(3)妊娠中に投与された抗HIV薬の効果
第22回日本産婦人科感染症研究会学術講演会記録集 , 82-83  (2004)
原著論文9
谷口晴紀、外川正生、大場悟 他
本邦におけるHIV母子感染の免疫学的研究(4)母子感染例の感染経路と予後
第22回日本産婦人科感染症研究会学術講演会記録集 , 84-87  (2004)
原著論文10
北村勝彦、長縄聰、早川智 他
本邦におけるHIV母子感染の免疫学的研究(5)感染妊婦におけるHIV subtypeの検討
第22回日本産婦人科感染症研究会学術講演会記録集 , 88-91  (2004)
原著論文11
塚原優己、和田裕一、吉野直人 他
わが国における妊婦HIV抗体検査の実施状況 依然続く地域較差
産婦人科の実際 , 53 (10) , 1521-1528  (2004)
原著論文12
外川正生
わが国の母子感染によるHIV/AIDSの現状
IASR , 25 , 171-173  (2004)
原著論文13
和田裕一
妊婦HIV抗体スクリーニングについて
ペリネイタルケア , 23 (4) , 82-86  (2004)
原著論文14
稲葉憲之、大島教子、西川正能 他
妊婦HIVスクリーニングの実態と問題点
産婦人科の実際 , 57 , 1103-1114  (2005)
原著論文15
外川正生
HIV母子感染対策(ガイドライン)特集:子どものHIV感染症の諸問題
小児内科 , 37 , 327-331  (2005)
原著論文16
外川正生
わが国における小児HIV/AIDS診療の現状の問題点
小児科 , 46 , 507-514  (2005)
原著論文17
和田裕一
エイズの母子感染とその対策
産婦人科治療 , 90 , 160-163  (2005)
原著論文18
塚原優己、喜多恒和、和田裕一 他
周産期のウイルス感染症:HIV
産科と婦人科 , 72 , 987-993  (2005)
原著論文19
佐久本薫
わが国のHIV感染妊娠の現状と母子感染予防
沖縄医報 , 41 , 1248-1252  (2005)
原著論文20
塚原優己、矢永由里子、稲葉憲之 他
HIVと妊娠をめぐる諸問題
日本エイズ学会誌 , 7 , 93-98  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-07-02
更新日
-