エイズ脳症の発症病態と治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200500690A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ脳症の発症病態と治療法に関する研究
課題番号
H15-エイズ-004
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
出雲 周二(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 難治ウイルス病態制御研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 森  一泰(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 岸田 修二(東京都立駒込病院)
  • 中川 正法(京都府立医科大学 )
  • 船田 信顕(東京都立駒込病院)
  • 馬場 昌範(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 )
  • 宇宿功市郎(熊本大学 医学部 )
  • 清島  満(岐阜大学大学院 医学研究科)
  • 三隅 将吾(熊本大学大学院 医学薬学研究部)
  • 木戸  博(徳島大学 分子酵素学 研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦ではHIV新規感染者は増加し、長期生存と合わせて、HIV脳症への対応は緊急の課題である。本研究では、「HIV脳症には独立した二つの神経傷害機構が存在する」という視点で、我国でのHAART導入後のHIV脳症・神経合併症の詳細な実態を明らかにする、発症機序を明らかにし、病態に則した診断法・治療法の開発を目指す、HIV脳症発症予防の方策を探る、の3点を目的とした。
研究方法
本邦の神経合併症の動向を知るために、駒込病院のエイズ脳症39例についての予後調査を行うと共に、ワークショップを開催し、関西地区、関東地区、東海地区のNeuroAIDSの動向について詳細に検討した。発症病態、発症機序については、ウィーン大学・駒込病院剖検例とサル・マウスエイズモデルをを用いてin vivoの解析をすすめる共に、in vitroの系を用いた中枢神経障害の病態機序の解析を行った。また、エイズ脳症治療薬の開発をめざして、治療の標的となる分子を検討した。HIV脳症発症に関連する内的・外的要因のメタアナリシスを試みた。
結果と考察
我が国のエイズ脳症の実態として、HAART治療下で神経合併症の相対的頻度が増しており、障害を持ったまま長期生存することにより、医療の現場で様々な困難が生じている実態が明らかとなった。発症病態の解明については、エイズ脳症の発症病態として、ヒトにおいても、HIV脳炎と大脳皮質の変性病態は独立して生じていること、大脳皮質の変性病態にはアストロサイトの傷害が重要で、ミクログリアの活性化は神経保護作用と関連していること、14-3-3蛋白はエイズ脳症の神経傷害に抑制的に働くことを明らかにした。病態に則した治療法の開発に関連して、14-3-3蛋白、インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ、N-ミリストイル転移酵素、angiopoietin-like4 proteinがリストアップされ、治療薬の開発の足がかりを得た。HIV脳症の発症に関与する宿主因子として、複数の候補遺伝子がリストアップされた。
結論
HAART治療下で神経合併症の相対的頻度が増し、医療現場でその対応が問題となり始めた。
ヒトにおいてもHIV脳炎と大脳皮質の変性病態は独立して生じている。
大脳皮質の変性病態にはアストロサイトの傷害が重要で、ミクログリアの活性化は神経保護作用と関連している。
14-3-3蛋白はエイズ脳症の神経傷害に抑制的に働く。

公開日・更新日

公開日
2006-06-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200500690B
報告書区分
総合
研究課題名
エイズ脳症の発症病態と治療法に関する研究
課題番号
H15-エイズ-004
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
出雲 周二(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 難治ウイルス病態制御研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 森  一泰(国立感染症研究所)
  • 岸田 修二(東京都立駒込病院)
  • 中川 正法(京都府立医科大学)
  • 船田 信顕(東京都立駒込病院)
  • 馬場 昌範(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 )
  • 宇宿功市郎(熊本大学 医学部)
  • 清島  満(岐阜大学大学院 医学研究科)
  • 三隅 将吾(熊本大学大学院 医学薬学研究部)
  • 木戸  博(徳島大学 分子酵素学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HAARTの導入によりHIV感染症は長期間コントロールしうる慢性疾患へと変貌している。しかし脳症の治療としては不十分で、さらに本邦では新規感染者は増加の傾向が続いており、HAARTによる感染者の長期生存と合わせて、HIV脳症への対応はエイズ対策の中での緊急の課題の一つとなっている。本研究では、平成12-14年度の研究成果をふまえ、「HIV脳症には独立した二つの神経傷害機構が存在する」という視点で、我国でのHAART導入後のHIV脳症及び他の神経合併症の詳細な実態と発症機序を明らかにし、病態に則した診断法・治療法の開発を目指して3ヶ年の計画で研究をすすめた。
研究方法
1) エイズ脳症の臨床病態、特に本邦の神経合併症の動向、2) 剖検例を用いた神経合併症の解析、3) エイズ動物モデルの開発とそれを用いた発症病態の解明、 4) In vitroの系を用いた中枢神経障害の病態機序の解析、5) 予防・治療の 薬剤の開発、6) HIV脳症発症に関連する内的・外的要因の解析、の研究テーマを設定し、分担研究を行った。
結果と考察
成果として、1)HAART治療下で神経合併症の相対的頻度が増しており、今後、神経内科医、感染症科医、臨床心理士、コーディネーター、神経病理医などとの学際的な協力のもと、NeuroAIDS早期発見の観点からHIV感染者を長期フォローアップする体制を構築する必要がある、2)エイズ脳症の発症病態として、ヒトにおいても、HIV脳炎と大脳皮質の変性病態は独立して生じている、3)大脳皮質の変性病態にはアストロサイトの傷害が重要で、ミクログリアの活性化は神経保護作用と関連している、4)14-3-3蛋白はエイズ脳症の神経傷害に抑制的に働く、ことを明らかにした。今後エイズ脳症はエイズ末期の亜急性脳症から緩徐進行・遷延性の認知障害、精神・運動障害へと変貌することが想定され、臨床の現場でのきめ細かい対応が必要である。
結論
HAART治療下で神経合併症の相対的頻度が増し、医療現場でその対応が問題となり始めた。今後、HIV感染者を長期に前向き調査する学際的な体制を構築する必要がある。
エイズ脳症の発症病態として、ヒトにおいても、HIV脳炎と大脳皮質の変性病態は独立して生じており、大脳皮質の変性病態にはアストロサイトの傷害とミクログリアの活性化が関連している。
14-3-3蛋白はエイズ脳症の神経傷害に抑制的に働く。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500690C

成果

専門的・学術的観点からの成果
エイズ脳症の発症病態についてウィーン大学剖検例、駒込病院剖検例の解析により、HIV脳炎と大脳皮質の変性病態は独立して生じており、発症病態にアストロサイトの傷害とミクログリアの活性化が関与していることを明らかにした。ミクログリアの活性化が神経保護に働いている可能性は新たな視点である。モデル動物、in vitroの解析からは、病態に関与し治療の標的分子として、iNOS、TNF-α、14-3-3蛋白、IDO、N-ミリストイル転移酵素などがリストアップされ、治療薬の開発の足がかりを得た。
臨床的観点からの成果
ヒト症例を対象にした臨床的解析に関して、第2次全国疫学調査、ワークショップを実施し、HAART治療下でHIV関連疾患が減少する中、患者の長期生存に伴い神経合併症の相対的頻度の増加と診療現場での様々な困難が増している実態を明らかにした。HAART治療下で免疫不全の進行を伴わずにサイトメガロウイルス脳炎、PML、脳原発悪性リンパ腫が発症しており、HIV脳症自体は緩徐進行性潜在性の病態をとることを予想しており、神経内科医、精神科医、臨床心理士等のグループによる長期前向きの調査体制が必要である。
ガイドライン等の開発
第2次全国疫学調査を実施し、エイズ神経合併症の実態を調査した。その結果を解析することによりHIV感染者の神経合併症診療ガイドラインの開発をめざした。治療と長期予後についての情報が不足しており、診療ガイドラインの作製のためには前向きの調査が必要であることが明らかとなった。調査体制の構築をめざしている。
その他行政的観点からの成果
HAARTによりエイズ脳症を含めた神経合併症を抱えたまま長期生存する状態がすでに始まっており、HIV感染が社会的に生産活動をになう成人を中心に広がっている実態を明らかにした。今後、エイズ脳症が医療行政のみならず、社会的・経済的にもHIV感染症対策の最重要課題となることが想定される。神経内科医、感染症科医、臨床心理士、コーディネーター、神経病理医などとの学際的な協力のもと、NeuroAIDS早期発見の観点からHIV感染者を長期フォローアップする体制の構築が必要であることを提案した。
その他のインパクト
国際神経病理学会、世界神経学会の数少ない口演発表に採択されるなど、関連学会で積極的に発表され、高い評価を受けている。研究協力者の岡本美佳は本年の日本エイズ学会総会にてエイズ脳症の研究で学術賞を受賞、日本神経学会では出雲が教育講演、岸田がシンポジストとして研究成果を報告し、マスコミ報道されるなどエイズ脳症の重要性を社会的にアピールした。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
108件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
150件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
ワークショップの開催(平成17年度) 研究成果発表会の公開での開催(平成16,17年度)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Xing HQ, Moritoyo T, Mori K, et al.
Simian immunodeficiency virus encephalitis in the white matter and degeneration of the cerebral cortex occur independently in simian immunodeficiency virus-infected monkey.
J Neurovirol. , 9 , 508-518  (2003)
原著論文2
Takenouchi N, Yamano Y, Usuku K, et al.
Usefulness of proviral load measurement for monitoring of disease activity in individual patients with human T-lymphotropic virus type I-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis.
J Neurovirol. , 9 , 29-35  (2003)
原著論文3
Okamoto M, Wang X, Debyser Z, et al.
Establish¬ment of an in vitro assay system mimicking human immunodeficien¬cy virus type 1-induced neural cell death and evaluation of inhibitors thereof. J. Virol. Methods 108:195- 203, 2003.
J. Virol. Methods , 108 , 195-203  (2003)
原著論文4
Sugimoto C, Tadakuma K, Otani I, et al.
Nef gene is required for robust productive infection by simian immunodeficiency virus of T-cell-rich paracortex in lymph nodes.
J Virol. , 77 , 4169-4180  (2003)
原著論文5
Sabouri AH, Saito M, Matsumoto W, et al.
A C77G point mutation in CD45 exon 4, which is associated with the development of multiple sclerosis and increased susceptibility to HIV-1 infection, is undetectable in Japanese population.
Eur J Neurol. , 10 , 737-739  (2004)
原著論文6
Saito M, Nakagawa M, Kaseda S, et al.
Decreased human T lymphotropic virus type I (HTLV-I) provirus load and alteration in T cell phenotype after interferon-alpha therapy for HTLV-I-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis.
J Infect Dis. , 189 , 29-40  (2004)
原著論文7
Yano M, Koumoto Y, Kanesaki Y, et al.
20S proteasome prevents aggregation of heat-denatured proteins without PA700 regulatory subcomplex like a molecular chaperone.
Biomacromolecules. , 5 , 1465-1469  (2004)
原著論文8
Wu X., Yano M., Washida H, at al.
The second metal-binding site of 70KDa heat-shock protein is essential for ADP binding, ATP hydrolysis and ATP synthesis.
Biochem. J. , 378 , 793-799  (2004)
原著論文9
Sabouri AH, Saito M, Lloyd AL, et al.
Polymorphism in the interleukin-10 promoter affects both provirus load and the risk of human T lymphotropic virus type I-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis.
J Infect Dis. , 190 , 1279-1285  (2004)
原著論文10
Misumi S, Takamune N, Ohtsubo Y, et al.
Zn2+ binding to cysteine-rich domain of extracellular human Immunodeficiency virus type-1 Tat protein is associated with Tat protein-induced apoptosis.
AIDS Res. Hum. Retroviruses. , 20 , 297-304  (2004)
原著論文11
Matano T, Kobayashi M, Igarashi H, et al.
Cytotoxic T Lymphocyte based Control of Simian Immunodeficiency Virus Replication in a Preclinical AIDS Vaccine Trial.
J Exp Med. , 199 , 1709-1718  (2004)
原著論文12
Okamoto M, Wang X, Baba M.
HIV-1-infected macrophages induce astrogliosis by SDF-1α and matrix metalloproteinases.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 336 , 1214-1220  (2005)
原著論文13
Mori K, Sugimoto C, Ohgimoto S, et al.
Influence of glycosylation on the efficacy of an Env-based vaccine against simian immunodeficiency virus SIVmac239 in a macaque AIDS model.
J Virol. , 79 , 10386-10396  (2005)
原著論文14
Yoritaka A, Ohta K, Kishida S.
Herpetic lumbosacral radiculo- neuropathy in patients with human immunodeficiency virus infection.
Eur Neurol. , 53 , 178-181  (2005)
原著論文15
Murakami Y, Saito K, Hara A, et al.
Increases in tumor necrosis factor-alpha following transient global cerebral ischemia do not contribute to neuron death in mouse hippocampus.
J Neurochem. , 93 , 1616-1622  (2005)
原著論文16
Fujigaki H, Saito K, Lin F, et al.
Nitration and inactivation of indoeamine 2,3-dioxygenase by peroxynitrite.
J. Immunol. 176: 372-379, 2006. , 176 , 372-379  (2006)
原著論文17
Nobuhara Y, Usuku K, Saito M, et al.
Genetic variability in the extracellular matrix protein as a determinant of risk for developing HTLV-I-associated neurological disease.
Immunogenetics. , 57 , 944-952  (2006)
原著論文18
Misumi S, Nakayama D, Kusaba M, et al.
Effects of Immunization with CCR5-Based Cycloimmunogen on Simian/HIVSF162P3 Challenge.
J. Immunol. 176, 463-471, 2006. , 176 , 463-471  (2006)
原著論文19
Yao D, Kuwajima M, Chen Y, et al.
Impaired long-chain fatty acid metabolism in mitochondria causes brain vascular invasion by a non-neurotropic epidemic influenza A virus in the newborn/suckling period: implications for influenza-associated encephalopathy.
Mol. Cell Biochem.  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-07-02
更新日
-