HIV感染症の治療開発に関する研究

文献情報

文献番号
200500689A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の治療開発に関する研究
課題番号
H15-エイズ-003
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 則子(名古屋市立大学大学院 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 金田 次弘((独)国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究部)
  • 岡田 秀親(福祉村病院長寿医学研究所 研究部)
  • 飛澤 笑山(神戸市環境保健研究所 寄生体部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染細胞に反応して補体依存性の細胞死を誘導するヒトIgMモノクローナル抗体がHIV感染者の感染細胞や潜伏感染細胞を障害除去して抗HIV効果を発揮できることを検証する。過剰補体反応による炎症反応の制御を検討し、IgM抗体が実際にHIVの治療法として有効に使用できる条件の検討を行う。

研究方法
ヒトIgM抗体9F11の抗原SWAP70の抗体を用いて、HIV感染細胞などでの発現状況を解析する。HIV感染者の末梢血細胞を用いて9F11抗原の分布をFACSなどで解析する。感染者末梢血リンパ球の初代培養に9F11抗体等のヒトIgM抗体と新鮮ヒト血清を補体源として添加して、HIV-DNAを保有した感染リンパ球の排除を試みる。感染細胞の抑制はP24のELISA、HIV遺伝子のPCRで解析する。Nefに対するヒトIgMモノクローナル抗体CF8の無血清培養による安定的生産および抗体精製を試み、HIV感染細胞に対する抗HIV効果を同様に検討する。サル組織や血液細胞での9F11抗原発現動態を検討し、SIV感染サルの組織や血漿を用いて炎症因子を解析するする。また、過剰な補体反応による副作用に対処するためC5a阻害ペプチドの効果を検討する。
結果と考察
9F11抗原SWAP70のcDNAがクローニングされた。抗SWAP70抗体でHIV感染細胞膜にSWAP70の発現誘導がこる事を確認した。HIV感染患者末梢血リンパ球に9F11を新鮮ヒト血清と共に反応させて増殖培養を100症例以上について行った。ウイルス産生が検討できた内、1/3の症例で上清中P24が完全に抑えられた。また、プロウイルスDNA量が激減する症例も確認された。抗Nef-IgM抗体においても感染拡大実験において抗HIV効果が得られた。SIV感染サルに9F11抗体を投与後に死亡したケースについて、炎症因子C5a, MIF, HMGB1などが胸水中で検出された。補体活性化による過剰炎症反応の制御にはC5a阻害ペプチドの活用が可能であり、副反応の制御によりヒトIgM抗体9F11やヒト抗NefIgM抗体CF8のAIDS治療における有用性が期待できる。
結論
HIV感染者の末梢血リンパ球初代培養ex vivo実験において広範囲の有効性が高く得られた事は重要である。IgM抗体や化学療法剤を組み合わせて、プロウイルス陽性細胞を排除する条件を検討し、IgM抗体の有用性を明らかにしたい。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200500689B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染症の治療開発に関する研究
課題番号
H15-エイズ-003
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 則子(名古屋市立大学大学院 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 金田 次弘((独)国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究部)
  • 岡田 秀親(福祉村病院 長寿医学研究所)
  • 飛沢 笑山(神戸市環境保健研究所 寄生体部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細胞膜上には種特異的補体制御膜因子が存在し同種の補体反応は起こらない仕組になっている。しかし、HIV感染細胞に反応するヒトIgM抗体は補体による細胞溶解を起こすことができる。ヒトIgMモノクローナル抗体9F11は極めて効率よく補体反応依存性に感染細胞およびHIV粒子を破壊して抗HIV活性を発揮する。これらのヒトIgM抗体がHIV感染患者の血液中に含まれる感染細胞や潜伏感染細胞を障害除去できる可能性を検証し、HIV感染症に対して有効なヒトIgM抗体療法を開発する。

研究方法
インフォームドコンセントを得たHIV感染者の末梢血リンパ球を用いて、9F11抗体添加での初代培養を行うex vivo 実験により、培養上清中のp24蛋白およびHIV-mRNA量および細胞中HIV-DNA量を測定しHIVプロウイルスを保有した感染リンパ球の排除効果を検討する。9F11の抗原を遺伝子クローニング法などで特定する。また、サルでの9F11抗原発現動態を検討し、in vivoでの過剰な補体反応への対処法を構築して、サルSIV感染などを用いた検討をする。抗 Nef抗体などの他のIgM抗体においても安定的で安全な精製保存法を確立し、抗HIV活性を検討する。
結果と考察
感染者末梢血リンパ球で9F11抗原の発現の増強が認められた。HIV感染者末梢血リンパ球を用いて抗HIV活性の検討を100例以上について行った。上清中P24が検出限界以下に抑えられた例が35%を占めた。HIV-mRNAの抑制も検出された。さらに、それらの症例においてHIV-DNA量が激減する症例も確認されたが、リンパ球10万個あたり9コピー以下の例は無かった。9F11抗原としてSWAP70が同定された。SWAP70はHIV感染によりT細胞に発現が誘導されその一部が膜上に存在することが確認された。補体活性化による過剰炎症反応の制御にはC5a阻害ペプチドの活用が可能であり、副反応の制御によりヒトIgM抗体9F11やヒト抗NefIgM抗体CF8のAIDS治療における有用性が期待できる。
結論
感染患者の末梢血リンパ球初代培養ex vivo実験において広範囲の有効性が高く得られた事は重要である。ヒトIgM抗体治療の有用性が高まり、社会的意義も大きい成果と考えている。複数のIgM抗体や化学療法剤を組み合わせて、プロウイルス陽性細胞を完全に排除する条件を究明したい。IgM抗体が有用であり実用化の可能性が高まった。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500689C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIV感染者の末梢血リンパ球初代培養ex vivo実験系において広範囲の有効性が得られた事は重要である。IgM抗体が示す特有の生物活性を基礎的に解明し明らかにするとともに、その生物活性を生かしたIgM抗体の応用研究の進展に寄与しうる成果である。ヒトIgM抗体治療の有用性が高まり、学術的意義も大きい成果と考えている。
臨床的観点からの成果
ヒトIgM抗体治療の有用性が高まり、社会的意義も大きい成果と考えている。IgM抗体の安全で安定的な生産技術的な問題が解決されれば、臨床適用への道も開けるものと考察される。複数のIgM抗体や化学療法剤を組み合わせて、プロウイルス陽性細胞を完全に排除する条件を究明し、IgM抗体の実用化への可能性が高まった。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
HIV感染長期生存者の血清中にHIV感染細胞に反応するIgM抗体が多量に存在する事を見いだし、その抗原分子の特定等を行った。その成果をもとに、ヒトIgM抗体を用いた抗HIV活性の検討を進めており、我々の作成したヒトIgMモノクローナル抗体9F11クローンなどが有用である事などを学会発表した経緯で科学新聞などにHIV感染症におけるIgM抗体の有用性に関する記事が掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kinbara,N., Dohi, N., Miyamoto, M., et al.
Diagnostic surface expression of SWAP-70 on HIV-1 infected cells.
Microbiol. Immunol. , 50 (3) , 235-242  (2006)
原著論文2
Okada, N., Yin, S., Asai, S., et al.
Human IgM monoclonal antibodies reactive with HIV-1 infected cells generated using a trans-chromosome mouse.
Microbiol. Immunol. , 49 (5) , 447-459  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-07-02
更新日
-