HIV-1遺伝子を広域に持つ新規SHIVとサルを用いたエイズ治療薬開発の研究

文献情報

文献番号
200500688A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV-1遺伝子を広域に持つ新規SHIVとサルを用いたエイズ治療薬開発の研究
課題番号
H15-エイズ-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
井戸 栄治(京都大学ウイルス研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 伊吹 謙太郎(京都大学ウイルス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤耐性変異株の問題に直面するエイズ治療では、画期的な実験的療法の開拓が強く要望されている。本研究では、前臨床の基礎研究として、人に近い動物であるサルを用いてエイズ治療法を実験的に開拓する系を確立することを目的とする。
研究方法
pol遺伝子の一部または全部がHIV-1由来である3種のSHIVを作成し、それらのサル感染実験を行うことにした。3種とは、1) HIV-1のPR遺伝子を持つSHIV-pr、 2) HIV-1のRTとINT両遺伝子を持つSHIV-rti、 3) HIV-1のpol 遺伝子(PR, RT, INT) を持つSHIV-prtiである。感染の成立は、血中のviral RNA load、ウイルス分離、抗体応答の有無などで判定した。
結果と考察
1) SHIV-prを静脈内接種したアカゲサルから新たなサルに4代までin vivo継代したところ、持続感染状態になることが判った。次にこれらのサルにPR阻害薬カレトラ(ロピナビル/リトナビル)を4週間毎日経口投与したところ、試みた3頭いずれも血中ウイルス量が検出限界以下に減少した。薬剤投与直前と停止後1週目で血中に再出現したウイルスについて遺伝子解析したところ、特に顕著な変異は認められなかった。
2) SHIV-rtiを2頭のアカゲザルに静脈内接種した結果、共にウイルス分離・抗体反応が見られ、感染が成立した。
3) SHIV-prtiをサル由来の細胞で10代ほど継代したところ、増殖能が向上したので2頭のアカゲザルに静脈内接種した。その結果、両頭よりウイルスが分離され、弱い抗体反応も見られた。
 SHIV-pr感染サルのカレトラ投与実験の成功は、新規SHIVを用いてPRを初めとする種々の抗ウイルス薬剤をin vivo 評価することが可能であることを示している。SHIV-rtiやSHIV-prtiがサルに感染することが確かめられたことは、これら新規SHIVが将来的にPRやRT阻害剤を組み合わせたHAART治療の検証に使用できることを示唆している。
結論
エイズ治療薬の多くが標的とするpol遺伝子をHIV-1由来としたSHIVを作成し、それがサルに感染する新しい動物モデル系を確立するという第一目標は、かなり達成された。しかし薬剤評価については、カレトラ剤を除くその他の開発中薬剤等の検証にまで発展させることができなかったことは多少悔やまれる。

公開日・更新日

公開日
2006-06-19
更新日
-

文献情報

文献番号
200500688B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV-1遺伝子を広域に持つ新規SHIVとサルを用いたエイズ治療薬開発の研究
課題番号
H15-エイズ-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
井戸 栄治(京都大学ウイルス研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 伊吹 謙太郎(京都大学ウイルス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、前臨床の基礎研究として、エイズ薬剤の多くが標的とするpol遺伝子をHIV-1由来とする新規SHIV を作成し、人に近い動物であるサルを用いてエイズ治療法を実験的に開拓する系を確立することを目的とする。
研究方法
本研究では3 年間に、新規SHIVに関しては、1) HIV-1のPRを持つSHIV-pr、 2) HIV-1のRTとINTを持つSHIV-rti、 3) HIV-1のpol (PR, RT, INT) を持つSHIV-prti、4) polのRTとINT領域及びenvをHIV-1由来にしたSHIV-rti/3rnのサル感染実験を行い、薬剤評価については、5) PR阻害剤カレトラ(ロピナビル/リトナビル)、6) IL-15の治療効果の検討、等の研究を行った。
結果と考察
SHIV-pr、SHIV-rti、SHIV-prti、SHIV-rti/3rnは、前2者はそのままで、後2者はサル細胞のHSC-Fでin vitro継代したものが、サル個体において感染することが判った。SHIV-rti/3rnの場合、サル細胞への馴化に際し、ゲノム全体に渡って全部で11ヶ所の変異が認められたが、この内GagとEnv領域の変異が最もサル細胞における増殖能向上に寄与していることが判明した。治療薬評価に関しては、カレトラの経口投与がSHIV-prに有効であること、IL-15の血中投与がSHIV89.6pが持続感染しているアカゲザルに対し、1頭ではあるが血中ウイルス量をone order減少させることを観察した。
SHIV-pr、SHIV-rtiさらにはSHIV-prtiがサルに感染することが確かめられたことは、これら新規SHIVがPRやRT阻害剤を組み合わせたHAART治療の検証に使用できることを示唆している。SHIV-rti/3rnのサルに感染するウイルスの分子クローンが得られたことは、同ウイルスが現時点で最もHIV-1の領域を広く持つサルに感染するSHIVであることから意義が大きい。
結論
エイズ治療薬の多くが標的とするpol遺伝子をHIV-1由来としたSHIVを作成し、それとサルを用いた新しい動物モデル系を確立するという第一目標は、かなり達成された。ただし薬剤処理に関しては、PR阻害剤であるカレトラ剤を除いて、その他の開発中薬剤等の検証にまで手広く着手できなかったことは悔やまれる。

公開日・更新日

公開日
2006-06-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500688C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIV-1のpol遺伝子を持つ新規のHIV-1/SIVキメラウイルス(SHIV)がサルに感染することを示した点は、これまでに国内外を通じて報告されたことがなく、学術的に大きな成果である。
臨床的観点からの成果
開発中の薬剤について、人に試用する前に動物を用いてin vivoレベルの評価ができる系が確立する道を開いたことは大きな成果である。
ガイドライン等の開発
該当せず。
その他行政的観点からの成果
本研究は基礎研究であり、これにより具体的に新しい薬剤を提示するに至ったわけではない。その辺り、行政的観点から多少不満がないとは言えないかもしれない。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
66件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Akiyama, H., Ido, E., Akahata, W., et al.
Construction and in vivo infection of a new simian/human immunodeficiency virus chimera containing the reverse transcriptase gene and the 3' half of the genomic region of human immunodeficiency virus type 1.
J. Gen. Virol. , 84 (7) , 1663-1669  (2003)
原著論文2
Yoshimura, K., Ido, E., Akiyama, H., et al.
The impact of highly active antiretroviral therapy by the oral route on the CD8 subset in monkeys infected chronically with SHIV 89.6P.
J. Virol. Methods , 112 , 121-128  (2003)
原著論文3
Enose, Y., Miyake, A., Ido, E., et al.
Infection of a chimeric simian and human immunodeficiency virus with CCR5-specific HIV-1 envelope to Rhesus macaques.
J. Vet. Med. Sci. , 65 (2) , 283-286  (2003)
原著論文4
Akahata, W., Ido, E., Hayami, M.
Mutational analysis of two zinc-finger motifs in the nucleocapsid protein of simian immunodeficiency virus mac239.
J. Gen. Virol. , 84 (6) , 1641-1648  (2003)
原著論文5
Akahata, W., Ido, E., Akiyama, H., et al.
DNA vaccination of macaques by a full-genome simian/human immunodeficiency virus type 1 plasmid chimera that produces non-infectious virus particles.
J. Gen. Virol. , 84 (8) , 2237-2244  (2003)
原著論文6
Shimada, T., Suzuki, H., Motohara, M., et al.
Comparative histopathological studies in the early stages of acute pathogenic and nonpathogenic SHIV-infected lymphoid organs.
Virology , 306 , 334-346  (2003)
原著論文7
Iida, T., Kuwata, T., Ui, M., et al.
Augmentation of antigen-specific cytokine responses in the early phase of vaccination with a live-attenuated simian/human immuno-deficiency chimeric virus expressing IFN-γ.
Arch. Virol. , 149 , 743-757  (2003)
原著論文8
Enose, Y., Kita, M., Yamamoto, T., et al.
Protective effects of nef-deleted SHIV or that having IFN-γagainst disease induced with a pathogenic virus early after vaccination.
Arch. Virol. , 149 , 1705-1720  (2004)
原著論文9
Shimizu, Y., Miyazaki, Y., Ibuki, K., et al.
Induction of immune response in macaque monkeys infected with simian-human immunodeficiency virus having the TNF-alpha gene at an early stage of infection.
Virology , 343 (2) , 151-161  (2005)
原著論文10
Miyake, A., Ibuki, K., Suzuki, H., et al.
Early virological events in various tissues of newborn monkeys after intrarectal infection with pathogenic simian human immunodeficiency virus.
J. Med. Primatol. , 34 , 294-302  (2005)
原著論文11
Kaneyasu, K., Kita, M., Ohkura, S., et al.
Protective efficacy of nonpathogenic nef-deleted SHIV vaccination combined with recombinant IFN-gamma administration against a pathogenic SHIV challenge in rhesus monkeys.
Microbiol. Immunol. , 49 (12) , 1083-1094  (2005)
原著論文12
Suzuki, H., Motohara, M., Miyake, A., et al.
Intrathymic effect of acute pathogenic SHIV infection on T-lineage cells in newborn macaques.
Microbiol. Immunol. , 49 (7) , 667-679  (2005)
原著論文13
Takahashi, M., Ido, E., Uesaka, H., et al.
Comparison of susceptibility to SIVmac239 infection in CD4+ and CD4+8+ T cells.
Arch. Virol. , 150 , 1517-1528  (2005)
原著論文14
Saito, N., Takahashi, M., Akahata, W., et al.
Analysis of evolutionary conservation in CD1d molecules among primates.
Tissue Antigens , 66 (6) , 674-682  (2005)
原著論文15
Horiuchi, R., Akahata, W., Kuwata, T., et al.
DNA vaccination of macaques by a full-genome SHIV plasmid that has an IL-2 gene and produces non-infectious virus particles.
Vaccine , 24 (17) , 3677-3685  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-07-02
更新日
-