薬物乱用防止啓発の効果的なあり方に関する緊急調査研究

文献情報

文献番号
199700067A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物乱用防止啓発の効果的なあり方に関する緊急調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
福井 進(医療法人三芳病院)
研究分担者(所属機関)
  • 和田清(国立精神・神経センター)
  • 高橋英彦(日豪ニュージーランド協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)我が国の薬物乱用状況は、覚せい剤事犯等の検挙者数の増大傾向が見られ、その中で、中高生の検挙者数の増大、小学生の補導例の発生などに見られるように、乱用者の低年齢化が大きな問題となっている。そこで、戦後の我が国の乱用の歴史を昭和20年代、昭和30年代、昭和40年代以降、平成7年以降の四期に分けて、その特徴を検討し、我が国の薬物乱用対策に資することを目的とした。
(2)国際的な麻薬・覚せい剤規制の現状については、薬物の需要と供給両面の対策の中における法規制のあり方、特に使用に重点を置いた国際的な比較検討を行い、今後への参考に資することを目的とした。
研究方法
(1)我が国の戦後の薬物乱用の歴史とその対策に関しては、覚せい剤及び麻薬を中心として、既に公表されている各種文献を検討し、各期毎の特徴を薬物乱用の広がりの程度、乱用者の属性、乱用薬物の密売ルート、乱用者の再犯率の変化を中心にまとめた。
(2)国際的な麻薬・覚せい剤規制の現状に関しては、入手可能な法律そのものの比較検討を行うとともに、研究対象国に対して、法的使用規制及び治療・リハビリテーション等関連事項のアンケート方式による調査を行った。
結果と考察
(1)第一次覚せい剤乱用期の昭和20年代は、覚せい剤取締法制定以前(昭和20年~昭和26年)、覚せい剤取締法制定後(昭和26年~昭和29年)及び衰退期(昭和29年~昭和32年)の3期に分類される。覚せい剤取締法制定以前には、戦後の軍からの覚せい剤の放出等により、大都市を中心に使用されたが、昭和23年頃から青少年を中心として地方にも拡大し、覚せい剤精神病が発生した。その結果昭和26年に覚せい剤取締法が制定され、その後、一般人の使用者は減少したが、やくざ、不良浮遊的生活者を中心に乱用が拡大した。次に、ヘロイン横行期が昭和30年代に到来したが、これは覚せい剤取締法の施行により、覚せい剤の入手困難から麻薬乱用へと切り換えた乱用者が出始め、麻薬乱用者が社会問題化した。続いて、第二次覚せい剤乱用期が昭和40年代以降に到来した。まず、昭和45年から昭和49年の前駆期には、経済の伸び悩みを背景に、覚せい剤の密売に資金源を求めて、覚せい剤を密売し始め、乱用者が拡大した。昭和47年以降は密輸品が主流となり、国内の密造は事実上消滅した。次の昭和50年から昭和56年の流行期には、覚せい剤取締法の重罰化にも関わらず、乱用は全国的に拡大した。昭和57年から平成7年の稽留期には、政府が各種政策を打ち出した結果、検挙者数は昭和59年をピークとし、未成年者の乱用者も減少した。次に平成7年以降から現在に至る第3次覚せい剤乱用期である。この時期の特徴は、高校生の覚せい剤事犯検挙者数が激増した点である。また、これまで我が国では入手し難かった薬物の乱用が少しづつ表面化してきており、乱用薬物の多様化が懸念されている。
(2)使用を法的に禁止する国は、調査対象国のうち、ほとんど全てのアジア諸国、ならびに欧州の一部とオセアニアの2国である。一方使用を法的に禁止しない国は、欧州の一部と米国・カナダ等である。非禁止の諸国が使用罪の代替策としているのは、所持ならびに取得の禁止である。使用を禁止する国も含め、所持に関しては「自己使用目的」という表現をとる条項を設け、法定刑を他の場合と区別しているものと、そうでないもののばらつきがある。使用罪の有無に関わらず、勧誘・強要・幇助に対する法規制を設けているところも少ないが、その中で、未成年者・女性等に対する行為について、とくに重い刑の条項を設けて防止をはかる国が少なくない。次に、治療およびリハビリテーションが、再使用防止に果たす役割は大きく、これを法的に強制とする国と、非強制としている国とに分かれる。各国の薬物乱用に対する対応について比較したところ、ドイツ、フランス、イタリア、トルコのように犯罪集団による違法行為に対して厳しい対応をとる国、中国、韓国、マレーシア、シンガポール、ドイツ、アルゼンチン等のように原料植物の違法栽培に対して比較的厳しい対応をとる国、タイ、カリフォルニア州のように原料物質取り締まりの特記がある国があることが分かった。また各国においては資金洗浄(マネーロンダリング)に対する法整備が進んでいることなどが挙げられる。
考察=(1)わが国の薬物乱用の歴史を振り返った結果、薬物乱用防止には、継続的な薬物乱用防止教育が必要であり、知識と同時に、薬物乱用が個人及び社会にもたらす悲惨な状態を世代継続的に伝えていく必要があると考えられる。また、未だ乱用していない人に乱用させないようにすることと同時に、依存に陥った人を依存から脱却させるという両面からの対策がないと薬物乱用防止は有効ではないと考えられる。
(2)国際的な麻薬・覚せい剤規制の現状を調査した結果、各国における法の運用方法とその問題点、法以外の需要抑制手段の行われ方とその問題点、に関する調査研究が重要であると考えられる。
結論
(1)中高生における覚せい剤等薬物乱用の著しい増加傾向を鑑み、我が国の薬物乱用の歴史を昭和20年代、昭和30年代、昭和40年代以降及び平成7年以降の四期に分けて特徴を検討した。そして、これまでに公表されている各種文献を検討し、各期毎の特徴を薬物の広がりの程度、乱用者の属性、乱用薬物の密売ルート、乱用者の再犯率の変化を中心にまとめた。その結果、各時代の状況を背景として、薬物乱用に関する特徴的な傾向をつかむことができた。現在、わが国はこれまでに経験のしたことのない薬物乱用の危機に直面しているが、このような新たな事態を打開するためには昭和57年11月12日に公衆衛生審議会が「覚せい剤中毒者に関する意見書」で指摘した「依存性の除去」に向けた抜本的な改革が必要である。
(2)国際的な麻薬・覚せい剤規制の現状に関する研究が重点を置いている「使用」そのものに対する取り締まりのあり方には、国ごとにばらつきがあり、流動的であると言える。また、代替手段についても差違が少なくないが、使用防止努力を効果的なものとするためには、次の2点を特に強調するべきであると考えられる。(1)国や社会の薬物乱用防止対策にプライオリティが付与されることが必要であり、これにより、諸活動に対する大きな追い風となる。(2)法的な使用禁止の有無に関わらず、その他の多角的抑止手段を強化することが肝要であるが、例えば、治療およびリハビリテーション、啓発活動と強い世論の形成等の充実が望まれる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)