医療従事者に対するMRIによる健康障害に関する文献学的研究

文献情報

文献番号
199700065A
報告書区分
総括
研究課題名
医療従事者に対するMRIによる健康障害に関する文献学的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中田 力(新潟大学脳研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 大友邦(東京大学医学部附属病院放射線部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日常診療の場で不可欠の存在と成ったMRI装置が、画像検査の実施に携わる医師、診療放射線技師、看護婦など医療従事者の健康障害に影響を与えるか否かの系統的な研究はなされていない。本研究は、長期の静磁場被爆が与える人体への影響とその安全性を検討することを目的とする。
研究方法
主任研究者(中田)が国外を分担研究者(大友)が国内を担当し、現在まで発表されたMRIの安全性に関する国内外の文献の検討を行った。
結果と考察
検討可能な国内外の文献には現在まで、MRIとの因果関係が明らかにされた報告も、また、その可能性を示唆した報告も為されていない。MRIの安全性は一般に、静磁場強度(gaussもしくはtesla)、磁場の変化率(dB/dt)、高周波被爆(specific absorption ratio:SAR)の点から検討されている。被検者にとっては三要素すべてが影響を与えるが、医療従事者にとっては静磁場強度のみが重要な要素である。静磁場が存在を安全性の立場から検討した時に大切なことは、静磁場そのものが人体に与える生物学的影響と、静磁場の存在にともなう強磁性体ferromagnetic物質の磁石への吸着事故との問題をはっきりと区別することにある。前者は学術的問題点であり、後者はMRI施行における管理体制に関する問題である。MRIの安全性全体を考慮したとき、磁石への吸着事故が最重要課題である。現在までに生じたMRIの安全性に関する報告の殆どと言っても過言ではない。被検者、医療関係者のみならず、磁石に近づく可能性のある人間(消防士、警察官なども含む)にとって重篤な外傷を引き起こす可能性がある。しかし、前述の通り、これはMRI装置そのものではなく、その管理体制に関した問題であり、本研究の対象ではない。現時点で検討可能なMRIの安全性に関する文献には、静磁場被爆が明らかな障害を引き起こしたとの報告も、その可能性を示唆する報告もなされていない。欧米各国および本邦におけるMRIの普及から15年が経過したことを考慮すれば、この結果は、MRIが基本的に安全な装置であることを意味すると考えられる。加えて、強度の静磁場環境に従事する他の職業、例えば、核磁気共鳴の研究者、リニアモーターカーの研究者、物理学者などにも静磁場による健康障害が報告されていないこと、基礎実験において静磁場の生物学的影響そのもののが否定的である事実を合わせて考えれば、静磁場への被爆そのものが健康障害を引きおこく可能性は殆どないと結論づけることができる。その反面、非常に長い時間(10年20年の単位)で静磁場にさらされた生体がどのような反応を示すかの検討は全く為されていない。従って、静磁場の生物学的影響を完全に否定することは現在、不可能である。技術革新に伴うMRI装置の磁場強度の向上が図られている現在、今後も静磁場のもたらす生物学的影響の可能性を継続して検討してゆくことが重要であると考えられる。
結論
現時点で、静磁場そのものが医療従事者の健康に影響を与える可能性は否定的である。本研究の対象ではないが、MRI装置の安全性全体を考慮した時、吸着事故を予防するための教育、管理体制の確立が重要な要素となる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)