院内感染の発症リスクの評価及び効果的な対策システムの開発に関する研究

文献情報

• 文献番号: 200500654A
• 報告書区分: 総括
• 研究課題名: 院内感染の発症リスクの評価及び効果的な対策システムの開発に関する研究
• 課題番号: H15-新興-011
• 研究年度: 平成17(2005)年度
• 研究代表者(所属機関): 倉辻 忠俊(国立成育医療センター研究所)

研究分担者(所属機関)

• 切替　照雄(国立国際医療センター研究所感染制御研究部)
• 荒川　宜親(国立感染症研究所細菌第二部)
• 宮崎　久義(国立病院機構熊本医療センター)
• 人見　重美(筑波大学臨床医学系感染制御学)

• 研究区分: 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
• 研究開始年度: 平成15(2003)年度
• 研究終了予定年度: 平成17(2005)年度
• 研究費: 15,000,000円
• 研究者交替、所属機関変更: -

研究報告書（概要版）

研究目的

医療の現場を重視し、事例解析により院内感染発症のハイリスクポイントを評価し、エビデンスに基づいた効果的かつ効率的に院内感染防止を実践できる手順、教育研修システムを開発し、もって国民に安全な医療を提供することを目的とした。

研究方法

国立病院機構の急性型及び療養型病院１２、及び３ナショナルセンターの現場及び事例を対象に、事例収集・分析、臨床疫学、微生物分離・分子疫学、薬剤耐性分析、ハイリスクポイント評価を行った。事例分析によるエビデンスの創出、国際学術雑誌の論文のメタアナリシスした。院内感染事例報告・検討について、厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」「疫学研究に関する倫理指針」を遵守し、また個人情報管理者の協力も得て「個人情報保護法」を遵守した。

結果と考察

１．適切な時期に、必要項目について派遣を含む全ての職員及び患者・家族に教育研修は必要である。２．カテーテル関連感染などの防止は、クリティカルパス導入により効果をあげ、費用対効果も高い。３．SARS, MRSA, 高度多剤耐性緑膿菌、バンコマイシン耐性腸球菌（VRE）感染の臨床疫学、微生物ゲノム解析により、SARSではマスクの完全着用、MRSAは定着しやすいAクローンの制御、緑膿菌とVREはゾーンコントロールと接触感染予防策の徹底で伝播防止可能である。４．MRSAは結核患者ではリファンピシン、開発途上国ではトリメトプリムの耐性関連遺伝子rpoB, dfrGが発現することから、一定の抗菌薬多用の環境では特別の注意が必要である。５．Clostridium difficileのtoxinA-/toxinB+につき、LAMP法導入により簡易検出法を開発した。欧米並みに存在する可能性が示唆された。７．論文メタアナリシスと事例解析による新しいエビデンス、及び現場からの要請により、「院内感染防止手順」改定第2版を刊行し、また国立国際医療センターのホームページに掲載して普及を図っている。

結論

１．派遣を含む医療施設全職員並びに患者及び家族に対して、院内感染に関する教育研修を、ハイリスクポイントに基づいて時期、項目、方法を提案した。２．医療現場の事例、特にSARS, MRSA, 高度多剤耐性緑膿菌、VREの院内感染事例解析により、新しいエビデンスを創出、感染伝播防止に役立てた。３．C. difficileの毒素の簡易検出法を開発した。５．新しいエビデンスを基に、先に刊行した「院内感染防止手順」を修正・追加し、改定第2版を出版、国立国際医療センターホームページにも掲載した。

公開日・更新日

• 公開日: 2006-05-22
• 更新日: -

文献情報

• 文献番号: 200500654B
• 報告書区分: 総合
• 研究課題名: 院内感染の発症リスクの評価及び効果的な対策システムの開発に関する研究
• 課題番号: H15-新興-011
• 研究年度: 平成17(2005)年度
• 研究代表者(所属機関): 倉辻 忠俊(国立成育医療センター研究所)

研究分担者(所属機関)

• 切替　照雄(国立国際医療センター研究所感染症制御研究部)
• 荒川　宜親(国立感染症研究所細菌第二部)
• 宮崎　久義(国立病院機構熊本医療センター)
• 人見　重美(筑波大学臨床医学系)

• 研究区分: 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
• 研究開始年度: 平成15(2003)年度
• 研究終了予定年度: 平成17(2005)年度
• 研究者交替、所属機関変更: -

研究報告書（概要版）

研究目的

効果的、効率的に院内感染を防止し、患者に安全な質の高い医療を提供するために、現場で直ぐに利用できる「院内感染防止手順」を開発することを目的とした。

研究方法

ナショナルセンター３、国立病院機構の急性期型および療養型病院11の合計14施設を対象とした。協力施設における院内感染事例収集・解析とその起因菌の分子疫学から院内感染発症のハイリスクポイント（時期、場所、職種、医療行為等）を同定し、また学術論文のキーワード検索とその内容検討、ピアレビューからエビデンスを集積した。

結果と考察

１．MRSAは、分子解析の結果、大部分のクローンは一過性に出現するがまもなく消滅し、医療施設に定着して院内感染を起こすクローンはA1やA9株の少数である。2．療養型病院や重症身障者施設では多剤耐性のMRSAが検出され、また未熟児室での消毒剤耐性遺伝子qacA、結核病棟のRifampicin耐性遺伝子rpoB 変異、開発途上国のTrimethoprim耐性遺伝子dfrB などが検出された。特定な環境におけるMRSAの特異な耐性菌には特別の注意が必要である。3．脳外科病棟での高度多剤耐性緑膿菌に対するゾーニングと手洗い・接触感染予防策、長期療養型あるいは精神病棟でのVancomycin耐性腸球菌に対する早期スクリーニングと接触感染予防策、SARS, インフルエンザの早期認識とマスク・飛沫感染予防策、結核病棟での抗酸菌の多剤耐性に対する陰圧室の使用、等の感染予防策実施が感染拡散を防止が可能である。4．欧米で増加しているClostridium difficile は、本邦でも抗菌薬使用状況から厳重な注意が必要である。対処できるよう、toxinBの簡易検査法を開発した。5．これらの事例解析と論文ピアレビューによるエビデンスを基に、チェックリスト、フローチャートを多用した「院内感染防止手順－すぐ実践できる」を刊行すると共に、国立国際医療センターホームページ上に掲載し、更にその画面から直接質問し、回答できるようにした。6．クリティカルパスを導入すると更に効果が確実で、費用対効果にも大きく寄与する。7．院内感染に関する教育・研修は派遣職員を含む全職種・全職員に対し必要で、ハイリスク時期の前にそれぞれ必要な項目について実施することが効果的である。

結論

院内感染の効果的防止は、ハイリスクポイントに基づくメリハリのある対策と、エビデンスに基づいた対策を、誰でも現場で判断し、行動の選択がとれるチェックリストやフローチャートを多用した「手順」をした。手順を利用することにより、安全な医療を提供でき、かつ経済効果は大きい。

公開日・更新日

• 公開日: 2006-05-24
• 更新日: -

行政効果報告

• 文献番号: 200500654C

成果

• 専門的・学術的観点からの成果: MRSAは、分子疫学解析により病院内に定着し感染を起しやすいクローンを、療養型病院で多剤耐性のMRSA、未熟児室での消毒剤耐性遺伝子qacA、結核病棟でRifampicin耐性遺伝子rpoB 変異、開発途上国でTrimethoprim耐性遺伝子dfrB 保有菌など、環境特異のMRSAを証明した。ベトナムのSARSの感染疫学数理モデルで飛沫感染の証明し、また重症化に関わる宿主の遺伝因子ACE1, OAS1, MxAを明らかにした。
• 臨床的観点からの成果: 院内感染の事例を臨床疫学および起因菌の分子疫学解析により、科学的エビデンスに基づいた感染源、伝播経路その他を解析し、ハイリスクポイント（時期、場所、医療行為、職種、状況等）を同定し、具体的防止手順を提示した。脳外科病棟、NICU、結核病棟等の消毒剤や特定抗菌薬の耐性遺伝子を持った菌を証明し、環境により特異な防止対策を示した。クリティカルパス導入により、院内感染数を減少させ、費用対効果も上がった。「院内感染防止手順」を刊行し、またホームページに掲載し、誰でも利用出来るよう普及させている。
• ガイドライン等の開発: 「院内感染防止手順－すぐ実践できる」改訂第2版を出版した。これはガイドラインやマニュアルではなく、誰でもが現場で直ぐに判断し、行動を選択できるよう、チェックリストやフローチャートを多用したものである。米国CDCの環境感染ガイドラインを翻訳し、出版した。
• その他行政的観点からの成果: 開発した「院内感染防止手順－直ぐ実践できる」を他の研究で開発した感染制御に関するエビデンス集やガイドラインと共に、国立国際医療センターのホームページのトピックス欄「院内感染」に掲載した。同画面に質問欄を設け、アクセスした利用者が疑問を持った時に質問を入力してクリックすると担当者に自動的に届き、回答を直ぐに発信できる方法を導入した。中小規模の病院からの質問が多く、専門家のいない病院に多く利用されている。波があるが、月平均20の質問が来る。
• その他のインパクト: 成果報告会を一般公開し、150名の参加があった。院内感染防止手順の作成の考え方が、日本経済新聞に取り上げられた。

発表件数

• 原著論文（和文）: 6件
• 原著論文（英文等）: 27件
• その他論文(和文): 12件
• その他論文(英文等): 0件
• 学会発表(国内学会): 3件
• 学会発表(国際学会等): 0件
• その他成果(特許の出願): 0件 ; 「出願」「取得」計1件
• その他成果(特許の取得): 0件 ; クロストリジウム・ディフィジールの毒素ＢのLAMP法による簡易検出法
• その他成果(施策への反映): 0件
• その他成果(普及・啓発活動): 2件 ; 1.国立国際医療センターホームページでの院内感染欄公開及び質疑応答実施、2.成果報告会１

主な原著論文20編（論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る）

• 原著論文1: Sekiguchi J, Kuratsuji T, Kirikae T, et al; Emergence of rifampicin resistance in methicillin-resistant Staphylococcus aureus in tuberculosis wards. ; J Infect Chemother , 12 , 47-50 (2006)
• 原著論文2: Obata S, Kuratsuji T, Kirikae T et al; Association of rpoB mutations with rifampicin resistance in Mycobacterium avium.; Intl J Antimicrobial Agents , 27 , 32-39 (2006)
• 原著論文3: Otsuka Y, Kuratsuji T, Kirikae T et al; Survey of human immunodeficiency virus (HIV)-seropositive patients with mycobacterial infection in Japan.; J Infect , 51 , 364-374 (2005)
• 原著論文4: Sekiguchi J, Kuratsuji T, KirikaeT, et al; Cloning and characterization of a novel trimethoprim-resistant dihydrofolate reductase from a nosocomial isolate of Staphylococcus aureus CM.S2 (IMCJ1454). ; Antimicrob Agents Chemother , 49 , 3948-3951 (2005)
• 原著論文5: Sekiguchi J, Kuratsuji T, KirikaeT, et al; Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa strain that caused an outbreak in a neurosurgery ward and its aac(6’)-Iae gene cassette encoding a novel aminoglycoside acetyltransferase. ; Antimicrob Agents Chemoth. 49: 3734-3742 , 49 , 3734-3742 (2005)
• 原著論文6: Kato H, Yokoyama T, Arakawa Y et al; Rapid and simple method for detecting the toxinB gene of Clostridium difficile in stool specimens by loop-mediated isothermal amplification.; J Clin Microbiol , 43 , 6108-6112 (2005)
• 原著論文7: Nishimura H, Kuratsuji T, Quy T et al; Rapid awareness and transmission of severe acute respiratory syndrome in Hanoi French Hospital, Vietnam.; Am J Trp Med Hyg , 73 , 17-25 (2005)
• 原著論文8: Itoyama S, Keicho N, Kuratsuji T et al; Identification of an alternative 5’-untranslated exon and new polymorphism of angiotensin-converting enzyne 2 gene: lack of association with SARS in the Vietnamese population.; Am J Med Genet , 136 , 52-57 (2005)
• 原著論文9: Hamano E, Hijikata M, Kuratsuji T et al; Polymorphisms of interferon-inducible genes OAS-1 and MxA associated with SARS in the Vietnamese population.; Biochem Biophys Res Commun , 329 , 1234-1239 (2005)
• 原著論文10: Kawana A, Teruya K, Kuratsuji T et al; Trial of surveillance of cases with acute respiratory symptoms at IMCJ hospital.; Jpn J Infect Dis , 58 , 241-243 (2005)
• 原著論文11: Shichijo S, Keicho N, Kuratsuji T et al; Assessment of synthetic peptides of severe acute respiratory syndrome coronavirus recognized by long-lasting immunity.; Tissue Antigens , 64 , 600-607 (2004)
• 原著論文12: Itoyama S, Keicho N, Kuratsuji T et al; ACE1 polymorphism and progression of SARS. ; Biochem Biophys Res Commun , 323 , 1124-1129 (2004)
• 原著論文13: Otsuka Y, Kuratsuji T, Kirikae T et al; Characterization of a trinucleotide repeat sequence (CGG)5 and its potential use in restriction fragment length polymorphism typing of Mycobacterium tuberculosis. ; J Clin Microbiol , 42 , 3538-3548 (2004)
• 原著論文14: Toyota E, Kuratsuji T, Kirikae T et al; Further Acquisition of Drug-Resistance in Multidrug-Resistant Tuberculosis during Chemotherapy. ; Jpn J Infect Dis , 57 , 292-294 (2004)
• 原著論文15: Sekiguchi J, Kuratsuji T, Kirikae T et al; Detection of the antiseptic- and disinfectant-resistance genes qacA, qacB, and qacC in methicillin-resistant Staphylococcus aureus isolated in a Tokyo hospital.; Jpn J Infect Dis , 57 , 288-291 (2004)
• 原著論文16: Kirikae T, Tokunaga O, Kuratsuji T et al; Molecular epidemiology of methicillin-resistant Staphylococcus aureus, Pseudomonas aeruginosa and Serratia marcescens in a long-term care facility for patients with severe motor and intellectual disabilities.; Jpn J Infect Dis , 57 , 226-228 (2004)
• 原著論文17: Otsuka Y, Kuratsuji T, Kirikae T et al; Detection of mycobacterium bovis bacillus calmette- guerin using quantum dot immuno-conjugates.; Jpn J Infect Dis , 57 , 183-184 (2004)
• 原著論文18: Asagi T, Kuratsuji T, Kirikae T et al; Molecular epidemiology of methicillin-resistant Staphylococcus aureus in a Sendai hospital in 2003. ; Jpn J Infect Dis , 57 , 88-90 (2004)
• 原著論文19: Takai S, Tharavichitkul P, Kirikae T et al; Molecular epidemiology of Rhodococcus equi of intermediate virulenceisolated from patients with and without AIDS in Chiang Mai. ; J Infect Dis , 188 , 1717-1723 (2003)
• 原著論文20: Takahara M, Kuratsuji T, Kirikae T et al; Molecular epidemiology of intra-familial Tuberculosis transmission. ; Jpn J Infect Dis , 56 , 132-133 (2003)

公開日・更新日

• 公開日: 2016-06-27
• 更新日: -