SARSの感染・発症・重症化の分子機構

文献情報

文献番号
200500646A
報告書区分
総括
研究課題名
SARSの感染・発症・重症化の分子機構
課題番号
H16-新興-016
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
笹月 健彦(国立国際医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 慶長 直人(国立国際医療センター )
  • 小笠原 康悦(国立国際医療センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
26,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
SARSの感染・発症・重症化には宿主側の要因が深く関与するものと考えられているが、その機構についてはほとんど解明されていない。本研究においては、遺伝子の変異検索と関連解析、関連分子の機能解析により、SARSの病態解明をめざし、SARS発症、重症化予防法開発への道を拓くことを目的とする。
研究方法
ベトナムにおいてSARSと診断された62例のうち、書面による同意を得られた44例、SARS患者との接触があったがSARSを発症しなかった病院スタッフ103例、別の病院のスタッフ50例、合計197例を解析した。血球からゲノムDNAを抽出し、遺伝子多型タイピングは、RFLP法、SSCP法、直接シークエンス法を併用した。
結果と考察
SARSの重症化に関連する遺伝子として、平成17年度来、血管内皮傷害に関連の深いアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 遺伝子、インターフェロンにより誘導されて抗ウイルス作用を発揮するMxA, OAS1遺伝子を同定してきた。そこで、平成18年度は、初めにACE遺伝子のD/I遺伝子多型の機能的意義を検討した。Dアリル由来のmRNAはIアリル由来のmRNAに比べて、有意に発現が亢進していることが示された。このアリルによる発現量の違いは、末梢血細胞より、ヒト血管内皮や気管支上皮細胞など組織構成細胞で顕著にみられ、病態との関連をさらに示唆するものと考えられた。オーストリアの研究者らにより、最近、ACEとACE2のノックアウトマウスを用いた研究で、急性肺傷害の程度は、局所におけるACEとACE2のimbalanceによって、大きな影響を受けることが報告されたが、我々のヒトでの成果はそれを裏付けるものとなった。
HLAについては、これまでSARSで報告されていないアリルとの関連が認められた。一方、SARSの宿主側レセプターとして報告されたACE2とLSIGN、病原体の免疫系細胞への接着の際に重要な分子として知られるMBL、肺の界面活性物質で、急性肺傷害との関連が指摘されているSP-Bについては、SARS感染と有意な関連を示すような遺伝子変異は見いだされなかった。
他方、SARSウイルスのRNAには、炎症性サイトカインの分泌を促進する領域があることを明らかにした。
結論
ベトナムとの国際共同研究によって、SARSの感染・発症・重症化に関連する遺伝子多型を平成16年度に引き続き検索するとともにその機能的意義を明らかにした。これら一連の研究により、SARSに関わる宿主側の抗ウイルス応答と肺における炎症病態の特異性を、一層明らかにし、重症化阻止法開発への道を拓きたい。

公開日・更新日

公開日
2006-04-17
更新日
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