感染性医療廃棄物中間処理における新技術の安全性および有効性に関する評価研究

文献情報

文献番号
199700062A
報告書区分
総括
研究課題名
感染性医療廃棄物中間処理における新技術の安全性および有効性に関する評価研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
配島 由二(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 感染性廃棄物の中心的な処理方法である焼却処分は塵灰や強力な毒性を持つダイオキシンの発生などの大気汚染を伴うため、現在、大きな社会的問題となっている。米国においては、1990 年に連邦や州の関連機関が厳重な大気汚染基準(クリーン・エア連邦法)が敷設され、これにより、ほとんどの医療関係機関で使用していた焼却施設は強化された基準に適合せず、莫大な費用をかけて新たな施設を購入するか、或いは既存の焼却炉の使用を停止するに至った。例えば、1990 年のニューヨーク州では、医療機関で使用されていた焼却炉は約 150 箇所あったが、1997 年までにその数は 18 箇所を残すのみとなっている。このように、近年の米国における医療廃棄物処理方法の劇的な変化は、本国においてもすでに顕著化してきており、今後、焼却処理以外の方法で処理するか、または処理業務を外部業者に委託するようになると見られている。
近年、これらの問題を解消するための新技術として病院内型およびプラント型高周波処理装置が開発された。同装置は大気汚染を生じることなく高周波照射により医療廃棄物のおよそ 90% を非感染化することができ、且つコストパフォーマンスも焼却処理よりもすぐれていると言われている。すでにアメリカでは同装置の使用が認可され、その感染性廃棄物中間処理段階における全般的な導入に期待がかけられているため、本国においても大気汚染を伴う焼却処理に代わる新技術として早急に対応する必要性があるものと思われる。しかし、本国では、廃棄物処理分野における高周波照射処理に関する情報がほとんどなく、また、このような新技術を評価する適切な基準もないのが現状である。そこで、本研究では、同処理装置の外国における認定基準、使用状況、安全性および有効性を実験並びに資料調査などにより検討することにより、焼却処分の代替法としての処理能力を総合的に評価することを目的とする。 
研究方法
 高周波処理装置の有効性および安全性に関する資料は装置の製造元である米国ステリサイクル社(代理店:バクスタージャパン)および米国サニテック社(代理店:日東商事およびユニテックジャパン)の協力を得て収集した。米国における医療廃棄物新処理技術のガイドラインや承認基準・審査方法などに関しては、ニューヨーク州衛生局など米国の関係機関の協力を得て情報を収集した。既存技術に関する調査研究は京都大学・酒井伸一博士に依頼した。実際の医療廃棄物のバイオバーデンは文献調査により検討した。高周波処理における各種微生物のD値はそれぞれ 1 x 106 CFU の Bacillus subtilis 芽胞、B. stearothermophilus 芽胞、Clostridium sporogenes 芽胞、Staphylococcus aureus、Pseudomonas aeruginosa、Escherichia coli、Salmonella typhimurium、Yersinia pseudotuberculosis、Micobacterium smegmatis および Candida albicans を使用し、0、2、4、7、10 分間高周波を照射した後、生菌数を測定し、生存曲線を作成して算出した。
結果と考察
(1) 高周波処理装置の処理有効性に関する調査:高周波処理装置の概要を調査した結果、高周波処理は焼却処理に比較して各種微生物の不活性化能力、廃棄物の減容化率・減量化率などに関して劣る反面、装置の立ち上げ、運転経費およびコストパフォーマンスなどに関する経済性、環境汚染の回避などについて勝っていることが判明した。通常の稼働条件下において高周波処理装置は 1 x 106 ~ 1 x 109 程度の各種微生物を不活性化することが可能である。同装置から排出される有害物質の排出状況を調査した結果、揮発性物質や重金属などの排出量は米国の環境基準を遥かに上回っていることが明らかになった。日常管理における滅菌バリデーション方法、故障や事故発生時の対応計画および作業員訓練内容なども文書化されている。環境上、職業上の安全が損なわれた事例に関して調査した結果、装置との関連性は明らかにされていないが、ステリサイクル社の Morton プラントにおいて集団結核感染事例があったことが判明した。同装置により処理される廃棄物はプラスチック製品が主であるため、処理残渣からプラスチックを回収しリサイクルすることが可能である。これらの知見から、高周波処理装置は臓器などの病理廃棄物、放射性廃棄物、大量の液体廃棄物など特定の廃棄物を除くその他の医療廃棄物処理において焼却処理の代替法になり得るものと思われる。
(2) 医療廃棄物のバイオバーデンに関する調査:病院から排出される医療廃棄物のバイオバーデンの実態を文献調査により検討した結果、同廃棄物のバイオバーデンは 1 x 102 ~ 1 x 106 CFU であり、一般の家庭塵よりも少ないことが判明した。また、医療廃棄物から分離される微生物種は家庭塵とほぼ同様であるが、病原微生物の検出率は医療廃棄物より家庭塵の方が高いとの報告もあった。バイオバーデンから医療廃棄物処理における微生物不活性化レベルを考えた場合、処理装置は最低でも 1 x 106 個の微生物を不活性化する能力を持つことが必要と思われる。
(3) 滅菌能力に関する調査:実際の高周波処理装置を用いて各種微生物のD値に関して検討し、生物指標菌とその他の微生物との滅菌相関性を明らかにする実験に着手した。
(4) 既存技術に関する調査:焼却処理を中心とした既存技術の現状と問題点を把握し、その改善法および改善に関する諸問題などを明らかにした。
(5) 承認基準および承認方法に関する調査:米国における医療廃棄物処理の微生物不活性化レベル基準値は EPA、STAATT および各州により異なるが、栄養型細菌に関しては 1 x 106 個以上、細菌芽胞については 1 x 103 ~ 1 x 104 個以上の減少を示すことを要求している。また、設置前の初期試験においては 1 x 106 個以上の細菌芽胞を死滅させる能力を証明することを要求している州もある。滅菌判定に使用する生物指標(BI)としては Bacillus subtilis、Bacillus stearothermophilus などの細菌芽胞が共通して選択されているが、その他に栄養型細菌、真菌、ウイルス、線虫および抗酸菌を指定いる州も存在する。ニューヨーク州における新処理技術の審査方法を調査した結果、同州では 1) 初期試験(装置の使用承認申請時に提出される趣致概要・微生物不活性化試験結果などの各書類を科学的根拠に基づいて審査するものであり、この段階が済めば装置の使用が許可される)、2) 現場試験(装置の設置場所における単発の BI 試験)および 3) 品質コントロール試験(装置設置後一定期間に渡っての BI 試験)の 3 段階により同技術を審査していることが判明した。本研究により得られた知見は本国の「感染性廃棄物中間処理新技術の承認に関するガイドライン」の作成に利用された。
参照資料:
・W.L. Turnberg. (1996). Biohazardous waste: Risk assessment, policy, and management. JohnWiley &Sons,    Inc., New York.
・EPA guideline. (1993). Guidance for evaluating medical waste treatment technologies.
・EPA guideline. (1993). Evaluation of medical waste treatment technologies.
・W.A. Rutala and C.G. Mayhall. (1992). Medical waste. Infection control and hospital epidemiology, 13, 38-48.
・S. Weinstein, H.R. Kotilainen, D. Moore and N. Gantz. (1988). Microbiologic contaminatin of hospital trash  from patients on isolation precautions versus standard care. The 15th Annual Educational Conference, Dallas, Texas.
・J.R. Mose and F. Reinthaler. (1985). Microbial contaminatin of hospital waste and household refuse. Zbl. Bakt.  Hyg. I. Abt. Orig. B, 181, 98-110.
・State regulations: New York, Illinois, Arkansas, California, Indiana, New Jersey, New Mexico, Oregon,      Washington and Wisconsin.
・第 13 改正日本薬局方. 厚生省.
・第 13 改正日本薬局方第 1 追補. 厚生省.
・古橋正吉. (1996). 医療用品の滅菌方法/滅菌バリデーション/滅菌保証. 日本規格協会.
・滅菌ガイドライン:高圧蒸気滅菌、放射線滅菌および EO 滅菌.
・サニテック社およびステリサイクル社提出資料.
結論

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)