わが国における飲食に起因する経口感染症の被害推計の精密化に関する研究

文献情報

文献番号
200500635A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国における飲食に起因する経口感染症の被害推計の精密化に関する研究
課題番号
H16-新興-005
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
谷原 真一(島根大学医学部環境保健医学講座公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 畝 博(福岡大学医学部)
  • 岡本 悦司(国立保健医療科学院経営科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民皆保険が実施され、保険診療であれば診療報酬請求明細書(以後レセプト)によって情報が自動的に集積されるというわが国の特長を活かし、レセプトから経口感染症の健康被害の推計を行うこと。
研究方法
1)9組合からなる被保険者および被扶養者総数約45万5000人のレセプトデータベースにより、レセプト傷病名を用いた時間的地理的な流行状況を把握した。
2)組合員数約1万人の健康保険組合における1995-2004年度のレセプトを毎月検討し、年齢階級別の腸管感染症罹患率と入院外診療費に占める割合を算出した。
3)ある県における複数の自治体の国保加入者について、平成17年5月診療分のレセプトに記載された傷病名を3つまでに限定した場合と全ての疾病をデータ化した2種類のデータベースを用い、比例配分法によって腸管感染症が診療実日数及び点数に占める割合を推計した。同じ県の感染症サーベイランスから「感染性胃腸炎」の各月の報告患者数と平成17年5月における報告患者数の比を、比例配分法によって推計した割合に乗じて、平成16年10月-17年9月の医療費に「腸管感染症」が占める割合を推計した。
結果と考察
1)レセプトによるインフルエンザの流行曲線と感染症サーベイランスによるインフルエンザの流行曲線の形状はほぼ完全に一致し,腸管感染症においてもきわめて類似していた。
2)腸管感染症の年齢別罹患率は、年齢が高くなるにつれて低下していく傾向が認められた。また、入院外診療費の0.47%が腸管感染症に由来していた。
3)傷病名が3つのデータからは診療実日数の0.279%、医療費の約0.247%が「腸管感染症」によると推計され、全ての疾病を用いたデータからはそれぞれ0.44%、0.76%と推計された。感染症サーベイランス報告数の月間変動を考慮するとK県国保の平成16年10月-17年9月の医療費総額に「腸管感染症」が占める割合は0.74-2.28%と推計され、医療費は13.8-42.6億円と推計された。流行状況や年齢構成の影響が存在するが、この推計をわが国全体に適用すると「腸管感染症」による直接費用は2,300-7,100億円/年と推計された。
結論
食品に由来する経口感染症の被害推計をさらに精密化する上では、わが国における食中毒事件の届け出制度や感染症サーベイランスの問題点を踏まえた上で、レセプト情報活用の体制を充実させることが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2006-04-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200500635B
報告書区分
総合
研究課題名
わが国における飲食に起因する経口感染症の被害推計の精密化に関する研究
課題番号
H16-新興-005
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
谷原 真一(島根大学医学部環境保健医学講座公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
  • 畝 博(福岡大学医学部)
  • 岡本 悦司(国立保健医療科学院経営科学部)
  • 小林 廉毅(東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学)
  • 中村 好一(自治医科大学医学部疫学・公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はわが国における飲食に起因する経口感染症の被害推計の精密化を主な目的とした。初年度はレセプトを被害推計に用いる上での方法論の検討を目的とした。最終年度は初年度の方法論に関する問題点を踏まえ、データベースの規模や内容を拡大し、精度を向上させた推計を目的とした。
研究方法
主な方法を以下に示す。
1)9組合からなる被保険者および被扶養者総数約45万5000人のレセプトデータベースによるレセプト傷病名を用いた時間的地理的な流行状況の把握。
2)組合員数約1万人の健康保険組合における1995-2004年度の毎月分のレセプトによる年齢階級別の腸管感染症罹患率と入院外診療費に占める割合の算出。
3)複数の自治体の国保加入者について、平成17年5月診療分のレセプトに記載された全ての傷病名をデータベース化し、比例配分法によって腸管感染症が診療実日数及び点数に占める割合を推計した。また、感染症サーベイランスから「感染性胃腸炎」の毎月の報告患者数を考慮して平成16年10月-17年9月の各月における「腸管感染症」の医療費に占める割合を県レベルで推計した。
結果と考察
1)レセプトデータからでもインフルエンザや腸管感染症の流行曲線は感染症サーベイランスによるものとほぼ一致する結果を得た。比例配分法により特定の傷病が保険者における医療費と受診日数の全体に占める割合を推計可能なことを示した。
2)腸管感染症の年齢別罹患率は年齢が高くなるにつれて低下していく傾向が認められた。また、入院外診療費の0.47%が腸管感染症に由来していた。
3)全ての傷病名を用いたデータベースからは診療実日数の0.44%、医療費の0.76%が「腸管感染症」によると推計された。感染症サーベイランス報告数の月間変動を考慮するとK県国保の平成16年10月-17年9月の医療費総額に「腸管感染症」が占める割合は0.74-2.28%と推計され、医療費は13.8-42.6億円と推計された。流行状況や年齢構成の影響が存在するが、この推計をわが国全体に適用すると「腸管感染症」による直接費用は2,300-7,100億円/年と推計された。
結論
食品に由来する経口感染症の被害推計を実施する上では、わが国における食中毒事件の届け出制度や感染症サーベイランスの問題点を踏まえた上で、レセプト情報を活用した推計を行うことの重要性を示すことができた。

公開日・更新日

公開日
2006-04-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500635C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究はわが国における飲食に起因する経口感染症の被害推計の精密化を主な目的とし、レセプトを用いる方法論の検討を行い、国保における通常のレセプトデータによる統計は腸管感染症の医療費および診療実日数を実際の2分の1以下の水準程度まで過小評価している可能性を示した。
全ての傷病名を用いたデータベースとの比較検討を行った上で、感染症サーベイランス報告数の月間変動を考慮した上である県の国保全体の平成16年10月-17年9月の医療費総額に「腸管感染症」が占める割合は0.74-2.28%と推計された。
臨床的観点からの成果
感染症法により届出が義務づけられている疾病であっても、全てが届出されているわけではなく、疾病の種類によって実際に届出される割合が異なることが報告されている。また、定点医療機関からの報告によるサーベイランスでは流行状況の把握が大きな目的の一つであるが、報告の精度および定点の配置状況を評価するためには別経路からの情報が重要である。
本研究は、レセプトに記載された情報と感染症サーベイランスの比較検討を行うことで、臨床現場からの届出に基づくサーベイランスシステムの評価指標となりうることを示した。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
新興・再興感染症研究推進事業により、台湾国立衛生研究院医療保健政策学部の徐醒哲(Shiing-Jer Twu)教授を招へいし、新興・再興感染症発生時の危機管理における国際協力のあり方に関して主任・分担研究者と議論を行った。その成果の一部は平成16年12月7日に東京医学会第2352回集会「International Collaboration in the Health Crisis Management of SARS Outbreaks」として公開された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
井上まり子、小林廉毅
米国における経口感染症の調査システム
公衆衛生  (2006)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-