食中毒等による経済的損失の評価に関する経済疫学的研究

文献情報

文献番号
199700061A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒等による経済的損失の評価に関する経済疫学的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小川 益男(東京農工大学)
研究分担者(所属機関)
  • 品川邦汎(岩手大学)
  • 山本茂貴(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1996年の腸管出血性大腸菌O-157による食中毒事件は我が国の細菌性食中毒史上類を見ない大規模のものであり、その福祉的、社会的被害もさることながら、食品等の生産、製造、流通及び消費等に係る経済的損失には計り知れないものがある。一般に食中毒の発生に際して行政はこのような面にも配慮して対策を行っているが、その対策を決定する際の科学的根拠並びに有効性の評価は全くないといっても良い状況にある。これらは近年国際的に注目されつつある経済疫学分野の主要な課題と思われるが、我が国ではこれまでほとんど関心が持たれなかった。そこで本研究では、今後の行政施策決定に反映させていくことのできる知見と技術の確立を目的として、食中毒事例並びにと畜検査による廃棄処分に伴う経済損失及び消費段階の経済的影響等を主な対象として、経済疫学的手法によって解析する。
研究方法
1.食中毒による経済損失に関連した文献及び解析方法に関連した資料の収集と解析に関しては、主としてアメリカで行われている研究成果に関する文献及び方法論に関する資料を収集し、解析を行った。
2.食中毒関連既存データの検索、収集及び解析を行った。
3.病原大腸菌を含む食中毒事例をモデルとした経済損失の解析に関しては、平成3年から7年までの5年間に全国で発生した賠償共済加入施設及び休業補償契約を結んでいた施設における細菌性及び原因不明食中毒について、菌種別及び原因不明の食中毒の事件数、患者数、入院患者数、患者に対する賠償金額(488件)及び食品業者の休業補償金額(98件)のデータから、患者が受けた経済損失金額及び食品営業施設の休業による損失金額を算出した。
4.と畜場における廃棄処分に伴う経済損失の解析に関しては、と畜場における廃棄処分に伴う経済損失をモデル地域の1988年8月から1990年1月に出荷された豚8077頭と1995年から1997年に出荷された豚172,147頭のデータを用いて、廃棄対象となった疾病ごとに農家の損失金額として経済損失を推計した。
5.経済損失の評価方法に関しては、収集した文献及び資料を基に検討した。
結果と考察
1.食中毒による経済損失に関連した文献及び解析方法に関連した資料の収集と解析に関しては、経済損失に関連したデータの集積方法がアメリカと日本で異なるため、医療費を中心 としたアメリカの方法をそのまま日本に適用するのはかなり困難であると思われた。
2.食中毒関連既存データの検索、収集及び解析に関して、日本において利用可能なデータは、患者への賠償金額及び業者の休業補償金額、菌種別及び原因不明の食中毒事件数、患者数、入院患者数であり、それらを基に損失の推計が可能と考えられた。
3.病原大腸菌を含む食中毒事例をモデルとした経済損失の解析行ったところ、日本における1993年から1997年までの過去5年間の食中毒による損失額は、年平均で最低106,104,036円から最高12,382,557,790円であった。
4.と畜場における廃棄処分に伴う経済損失の解析を行ったところ、年間の損失金額は主要なものから順にアクチノバチルス等を疑うもの3,412,640円、豚流行性肺炎を疑うもの2,563,773円、関節炎病変1,218,172円、寄生虫性肝炎を疑うもの447,440円、豚赤痢を疑うもの42,525円及び抗酸菌症を疑うもの12,772円であった。
5.経済損失の評価方法に関しては、現時点では、3.において用いた方法が有効であると考えられるが、今後は有効性の検証を行い、補正が必要であるとした場合の収集すべきデータの検索と収集システムの検討が必要と考えられた。
結論
食中毒による経済損失に関してその評価方法について検討したところ、以下の結論が得られた。
1.アメリカと同様の方法で分析するのは現時点では困難であり、データの整備、収集方法について検討が必要と考えられた。
2.日本では、現時点で食中毒の損害賠償補償金及び休業補償金のデータが利用可能であった。しかしながら、賠償補償制度に加盟している業者は全国で約20%であり、全体像を把握するには不備があると考える。今後は、アメリカで行われている医療費からの推計データを加味して検討する必要があると思われた。
3.と畜場での廃棄による経済損失は農家の経済損失を推計可能であったが、社会的損失の推計には、廃棄により、食中毒が未然に防御できたことで得られる利益についても考慮する必要があると考えられた。また、検査に要する費用等は、社会的費用として加算すべきものと考えられ、さらに検討を進める必要がある。

公開日・更新日

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