蝸牛内の外有毛細胞に発現するタンパク質モータPrestinの活性部位の探求に関する研究:Prestin改変による感音難聴とその治療戦略

文献情報

文献番号
200500618A
報告書区分
総括
研究課題名
蝸牛内の外有毛細胞に発現するタンパク質モータPrestinの活性部位の探求に関する研究:Prestin改変による感音難聴とその治療戦略
課題番号
H15-感覚器-004
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
和田 仁(東北大学大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 俊光(東北大学大学院医学系研究科)
  • 熊谷 泉(東北大学大学院工学研究科)
  • 池田 勝久(順天堂大学医学部)
  • 津本 浩平(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々の聴覚の鋭敏さは内耳に存在する外有毛細胞(OHC)の伸縮運動により実現されている.老人性難聴等,多くの内耳疾患の原因がOHCの機能不全であることからも聴覚におけるOHCの重要性が分かる.OHCの伸縮運動の源は細胞側壁に存在するタンパク質モータPrestinの変形だと推察されている.従って,Prestinの機能を解明し,OHCの駆動メカニズムを明らかにすれば,OHC機能不全由来の内耳疾患の原因解明及びその治療につながると考えている.本研究では遺伝子工学的手法を用いて,Prestinの活性部位の同定を目指した.
研究方法
昨年度までにPrestinの機能に重要であることを明らかにした,N末端細胞内領域,STASドメイン及びGTSRH配列への変異導入によるPrestinが受ける糖修飾の変化を,脱糖鎖酵素処理により調べた.また,Prestin特有のアミノ酸である122番目のメチオニン(M)をイソロイシン(I),192番目のシステイン(C)をアラニン(A),225番目のMをグルタミン(Q),415番目のCをA, 428番目のスレオニン(T)をロイシン(L)にそれぞれ変異させ,その陰イオン輸送機能をパッチクランプ法により評価した.
結果と考察
N末端細胞内領域またはGTSRH配列へ変異を加えると,糖修飾のパターンが野生型に対し変化した.一方,STASドメインへの変異導入では糖修飾のパターンに変化がなかった.糖修飾のパターンはタンパク質の構造と関わっており,Prestinの構造が変異により変化したことが示唆された.新たに作製した変異体の機能評価から,C192A,C415A,T428Lは機能を維持していることが示された.この結果はC192とC415がジスルフィド結合を作らないこと及びT428は機能に関連していないことを示唆している.また,M122I及びM225Qでは有意に機能が上昇した.この結果は興味深く,変異により,Prestinの構造がより安定した可能性が考えられる.
結論
N末端細胞内領域またはGTSRH配列が変異するとPrestinの構造が変化することが示された.また,C192とC415はジスルフィド結合を作らないこと及びM122をIに,またはM225をQに変異させるとPrestinの構造が安定し機能が上昇することが示唆された.

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500618B
報告書区分
総合
研究課題名
蝸牛内の外有毛細胞に発現するタンパク質モータPrestinの活性部位の探求に関する研究:Prestin改変による感音難聴とその治療戦略
課題番号
H15-感覚器-004
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
和田 仁(東北大学大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 俊光(東北大学大学院医学系研究科)
  • 熊谷 泉(東北大学大学院工学研究科)
  • 池田 勝久(順天堂大学医学部)
  • 津本 浩平(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々の聴覚は,内耳に存在する外有毛細胞(OHC)の伸縮運動により鋭敏になっている.老人性難聴等,多くの内耳疾患の原因がOHCの機能不全であることからもOHCの重要性が分かる.OHCの伸縮運動の源は細胞側壁に存在するタンパク質モータPrestinの変形だと推察されている.従って,Prestinの機能を解明し,OHCの駆動メカニズムを明らかにすれば,OHC機能不全由来の内耳疾患の原因解明及び治療につながると考えている.本研究では遺伝子工学的手法を用いて,Prestinの活性部位の同定を目指す.
研究方法
以下に示す変異体の機能をパッチクランプ法により評価した.
N末端細胞内領域またはSTASドメインをそれぞれ欠損させた変異体.
127番目のアミノ酸から始まるGTSRH配列のグリシン(G),スレオニン(T),セリン(S),アルギニン(R),ヒスチジン(H)を,それぞれアラニン(A)に変異させた変異体.
122番目のメチオニン(M)をイソロイシン(I),192番目のシステイン(C)をA,225番目のMをグルタミン(Q),415番目のCをA,428番目のTをロイシン(L)にそれぞれ変異させた変異体.
結果と考察
N末端細胞内領域またはSTASドメインを欠損した変異体は機能が消失していた.また,GTSRH配列に関する変異体では,機能が消失または有意に低下していた.この結果は, N末端細胞内領域,STASドメイン及びGTSRH配列はPrestinの機能に不可欠であることを示している.一方,C192A,C415A,T428Lは機能を維持した.この結果は,C192とC415がジスルフィド結合を作らないこと及びT428は機能に関連していないことを示唆している.また,M122I及びM225Qでは有意に機能が上昇し,変異によりPrestinの構造がより安定した可能性が考えられる.
結論
N末端細胞内領域,STASドメイン及びGTSRH配列がPrestinの機能に不可欠であることが明らかになった.また,C192とC415はジスルフィド結合を作らないこと及びM122をIに,またはM225をQに変異させるとPrestinの機能が上昇することが示唆された. 本研究では,Prestinの活性部位が同定され,その部位に変異が加わるとPrestinの機能が失われ,難聴が引き起こされる可能性があることが示唆された.

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500618C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遺伝子工学的手法を用いた研究により,PrestinのN末端細胞内領域,STASドメイン及びGTSRH配列が機能に不可欠であること,またこれらの部位に変異が加わるとPrestinが受ける糖修飾のパターンが変化することが明らかになった.さらに,C192とC415はジスルフィド結合を作らないこと及びM122をIに,またはM225をQに変異させるとPrestinの機能が上昇することが示唆された.
臨床的観点からの成果
本研究で,変異によりPrestinの機能が低下した場合,その原因の多くは変異によりPrestinの構造が乱れ,細胞のQuality controlによって分解された,または,細胞膜まで輸送されたが,構造が正しくないため機能を発揮できなかったためであることが示唆された.そのような場合,化学シャペロンとして働く物質を投与すると,Prestinが正しく折りたたまれ,その機能が回復する可能性がある.本研究で得られた結果は上記のような遺伝子変異による病気の治療法研究の基礎となると考えられる.
ガイドライン等の開発
本研究によって,Prestinの活性部位が同定され,その部位に変異が加わるとPrestinの活性が失われることが明らかになった.この結果は突然変異によってPrestin内に変異が加わると難聴を引き起こす可能性があることを示唆している.このことから今後,今回重要であることが明らかになった部位に特に注目しながら難聴患者におけるPrestinの変異の探索をすべきである.
その他行政的観点からの成果
保存配列であるGTSRHやSTASドメインへの変異によりPrestinの機能が低下したという結果は,相同性の高いPendrinにおいても同様の変異により機能が低下し難聴が引き起こされる可能性を示唆している,実際に,難聴を症状として持つPendred症候群や,前庭水管拡大を伴う非症候群性難聴の原因となる遺伝子変異が数々報告されている.本研究で確立した技術はPendrin研究にも応用可能なものであり,現在数多く発見されているPendred症候群の治療法開発にも有益である.
その他のインパクト
本研究の成果を,昨年台湾で開催された2nd Asian Pacific Conference on Biomechanicsで発表し,Graduate student awardを受賞.
本研究の成果がJSME international journal, 48(C), 403-410 (2005) に掲載.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
21件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Murakoshi, M., Yoshida, N., Wada, H., et al.
Local mechanical properties of mouse outer hair cells: atomic force microscopic study
Auris Nasus Larynx  (2006)
原著論文2
Kumano, S., Iida, K., Wada, H., et al.
Effects of mutation in the conserved GTSRH sequence of the motor protein prestin on its characteristics
JSME Int. J. , 48 , 403-410  (2005)
原著論文3
Iida, K., Tsumoto, K., Wada, H., et al.
Construction of an expression system for the motor protein prestin in Chinese hamster ovary cells
Hear. Res. , 205 , 262-270  (2005)
原著論文4
Andoh, M., Nakajima, C., and Wada, H.
Phase of the neural excitation relative to the basilar membrane motion in the organ of Corti: Theoretical considerations
J. Acoust. Soc. Am. , 118 , 1554-1565  (2005)
原著論文5
Andoh, M. and Wada, H.
Prediction of the characteristics of two types of pressure waves in the cochlea: Theoretical considerations
J. Acoust. Soc. Am. , 116 , 417-425  (2004)
原著論文6
Iida, K., Nagaoka, T., Wada, H., et al.
Relationship between fluorescence intensity of GFP and the expression level of prestin in a prestin-expressing Chinese hamster ovary cell line
JSME Int. J. , 47 , 970-976  (2004)
原著論文7
Sugawara, M., Ishida, Y. and Wada, H.
Mechanical properties of sensory and supporting cells in the organ of Corti of the guinea pig cochlea - study by atomic force microscopy
Hear. Res. , 192 , 57-64  (2004)
原著論文8
Wada, H., Kimura, K., Kobayashi, T., et al.
Imaging of the cortical cytoskeleton of guinea pig outer hair cells using atomic force microscopy
Hear. Res. , 187 , 51-62  (2004)
原著論文9
Andoh, M. and Wada, H.
Dynamic characteristics of the force generated by outer hair cell motility in the organ of Corti (theoretical consideration)
JSME Int. J. , 46 , 1256-1265  (2003)
原著論文10
Iida, K., Konno, K., Wada, H., et al.
Stable expression of the motor protein prestin in Chinese hamster ovary cells
JSME Int. J. , 46 , 1266-1274  (2003)
原著論文11
Wada, H., Usukura, H., Kobayashi, T., et al.
Relationship between the local stiffness of the outer hair cell along the cell axis and its ultrastructure observed by atomic force microscopy
Hear. Res. , 177 , 61-70  (2003)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-