アフラトキシンの告示試験法の改良に関する研究

文献情報

文献番号
199700060A
報告書区分
総括
研究課題名
アフラトキシンの告示試験法の改良に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
合田 幸広(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では、カビ毒(マイコトキシン)の食品汚染による国民の健康被害を防止するため、マイコトキシンの中で動物実験により発ガン性が明らかにされているアフラトキシン(AF)について、食品中の規格基準が定められ、その分析法が公定法として通知(環食128 号)されている。しかし本公定法は、分析行程が極めて煩雑で、分析方法の習熟に時間がかかる上、クロロホルム、ベンゼンといった毒性の高い溶媒を多用しているという問題が指摘されていた。本研究では、この公定法の改良を目的として、毒性の低い溶媒を利用した迅速分析法及び、スクリーニング試験のためのELISAを利用したカード分析法について、マイコトキシン分析に詳しい研究者の協力を得て検討を行った。
研究方法
毒性の低い溶媒を利用した迅速分析法として、穐山らが既に報告(食品衛生学雑誌37(4), 195-201(1996))している、多機能固相抽出カラムで精製し分析に蛍光検出HPLCを利用した方法を検討した。多機能固相抽出カラムとしては、Isolute multimode及び、Bond elute Accu CATを、HPLCとしては、Shimadzu LC-10ADに、蛍光検出器として、JASCO FP-920S、Shimadzu RF-10AXL、Hitachi L-7480または、Hitachi F-1080を使用した。HPLCの分析条件は以下の通りである。移動相: acetonitrile-methanol-water(50:150:300), カラム:Inertsil ODS-3 (4.6x150mm + 4.6x250mm)温度:40℃, 流速:1.0 mL/min, 励起波長: 365 nm, 検出波長: 450nm。カード法として、米国 EDI Tek社製のEZ-スクリーンアフラトキシン5 ppb 基準を利用する方法を検討した。アフラトキシンカラムは、ドイツR-Biopharm GmbH 社製 RIDA Aflatoxin column (Art. 5001)を使用した。AF標準品は、Sigma chemicalから購入した。
結果と考察
1.多機能カラム法について 
1.1.市販多機能カラムの検討:前述の2社の市販多機能固相抽出カラムについて検討した結果、Isolute multimode のみ、良好な添加回収率が得られることが判明した。また、製品間のロットにより吸着度に差があることが確認され、論文記載の操作方法の一部を、「acetonitrile-water(9:1)で抽出した試料2 mLをカラムに賦し、得られる溶出液に、acetonitrile-water(9:1)1 mLで溶出される溶出液を加え、そのうち1. 5mLをとり、蒸発乾固させる方法」に変更する方が、安定した回収率が得られることが判った。
1.2対象資料:複数の研究機関の追試を含め本法で、各種ナッツ(ピーナッツ、ピスタチオ、アーモンド、カシューナッツ)及びトウモロコシ中の4種AF(B1, B2, G1,G2)が問題なく定量分析可能なことが判明した(1 ppb 添加回収率82%以上)。一方、赤トウガラシにおいては、B1、G2の定量に影響を与える可能性のある妨害ピークが出現することがあり、また、アイソクラティックな溶出条件では、40分後でも目的物以外のピークが溶出し終わらず、カラム洗浄が必要となることが判明した。また、白コショウにおいては、B1に妨害ピークが出現する上、添加回収率も悪いことが判明した。
1.3.抽出溶媒の検討:メタノール、アセトン使用では、妨害ピークが多く良好な分析結果が得られなかった。
1.4.感度の検討:検討した全ての検出器で、0.1~1ppb レベル(公定法の検出限界10 ppb)で良好な定量結果が得られることが判明した。また、AFG1の定量では、蛍光強度を増強するため加える無水トリフルオロ酢酸(TFAA)のテーリングピークが妨害となり、0.01 ppbレベルの定量性に難点が生じるが、TFAA処理により、妨害ピークを取り除いていることも確認され、TFAA処理は不可欠であることが判明した。
1.5.確認法:HPLCで検出されたピークが間違いなくAFであることを確認するには、以下の方法が考えられる。1)カード法と組み合わせ、ELISAによる確認する。2)アフィニティーカラムと組み合わせTLCまたはHPLCで確認する。3)HPLCの検出蛍光波長を変え、強度比で確認する。4)HPLCで、異なったカラム(フルオロカーボンカラム)等を使用し分離モードを変え確認する。もし、スクリーニング法として、カード法を併用している場合には、異なった2つの手法で化合物を検出したことになり、検出されたAFは、確実なものである可能性が非常に高い。また、アフィニティーカラムの併用でTLCを行えば、展開溶媒として毒性の高い溶媒を使用することになるが、公定法熟達者には、馴染みやすい確認法となる。3),4) の確認法は、HPLCのみで確認する方法である。強度比で確認する方法は、複数の検出波長設定の選択が重要となる。また、強度比の幅の許容度をどの程度にとるか、検討課題となる。異なったカラムで確認する方法は、簡便安価な方法と考えられるが、今後適当なカラムを選択、指定する必要がある。
2.カード法について
2.1.対象試料:すでに、スクリーニング法として検査を行っている協力研究者がこれまでに対象とした試料を以下に記す。コショウ類、小麦、ソバ、マスタード類、コーヒー豆、インゲン豆、大豆、緑豆、エンドウ、コリアンダー、竹小豆、ゴマの種子、カレー粉、小豆、ターメリック、栗、クミン、ミックススパイス、マッペ、米類、ピーナッツ及びピーナッツ製品、マカダミアナッツ、カシューナッツ、ニンニク、月桂樹の葉、カシア、ヘーゼルナッツ、トウガラシ(パプリカ)、ケイヒ(シナモン)。別に、ピーナッツ、コーン、トウガラシ、コショウ、焙煎コーヒーについて添加回収実験を行った。
2.2.アフィニティーカラムの利用の検討:ピーナッツ、トウガラシなど、80%メタノール抽出エキスが着色している場合、ガラス繊維濾紙(GB-140)で濾過することで、カード法の色での判定が容易になった。また、さらに濃く着色している試料(ナツメグ、黒コショウ、ターメリック、シナモン、マスターシード等)では、アフィニティーカラムであるアフラトキシンカラムを併用し試料を精製することで、カード法の利用が可能となった。
2.3.添加回収実験:ピーナッツ、コーン、トウガラシ、コショウでは、AF添加(5 ppb B1 +.5 ppb G1)試料はすべて無色となり、良好な検出結果が得られた。一方、焙煎コーヒーでは、AFを添加しても、発色し、コーヒーからAFが抽出されていないことが判明した。また、バジルなどでは、抽出溶媒が葉に吸収されてしまい、濾過すら出来ないことが判った。
結論
多機能固相抽出カラムとHPLCを利用した方法を検討した。その結果、本法は、毒性の高い溶媒を利用せずに多種類の試料で分析可能であるが、赤トウガラシ、コショウの一部試料で妨害ピークが出現すること、確認法をどのように設定するか等の若干の問題点があることが判明した。また、簡易法としてELISAを利用したカード法を検討した。その結果、ガラス繊維濾紙及び、市販アフィニティーカラムを利用することで、多くの試料が分析可能となることが明らかとなった。以上の結果より、公定法の改良には、さらに細部について、検討することが必要と考えられた。

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