網膜ニューロンの緑内障性障害 ―それに対する保護と再生―

文献情報

文献番号
200500617A
報告書区分
総括
研究課題名
網膜ニューロンの緑内障性障害 ―それに対する保護と再生―
課題番号
H15-感覚器-003
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
新家 眞(東京大学医学部外科学専攻感覚運動機能医学眼科学)
研究分担者(所属機関)
  • 三嶋 弘(広島大学医学部)
  • 阿部 春樹(新潟大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特に本邦で有病率が高い正常眼圧緑内障に対して、エビデンスのある治療は眼圧下降のみであるがそれに反応しない症例も多く存在することが知られており、眼圧下降に代わる治療法の確立が急務となっている。緑内障の病態の本質は進行性かつ不可逆性の網膜神経節細胞(RGC)の減少であるが、本研究ではRGCとその周囲に存在するグリア系細胞という網膜ニューロンの単独、及び共同での生理的活動及び障害機転の検討を行うことで、緑内障における網膜神経細胞死の本態を明らかにし新しい神経保護薬物治療の開発につなげるとともに、網膜ニューロンの移植・再生の端緒となる基礎研究を行うことを目的とした。
研究方法
①RGCに蛍光色素を発する遺伝子改変マウスを高眼圧にするため高眼圧マウスと掛け合わせることを試み生体内でRGCの経時的変化を観察した。②ラットの高眼圧緑内障モデルの確立を試みた。③培養ラットRGCの酸化ストレス誘導細胞死に対するフラボノイドの神経保護効果を検討した。④ラット網膜下腔への網膜幹細胞、間葉系幹細胞の移植を行った。⑤グルタミン酸トランスポータのノックアウトマウス網膜のプロテオミクス解析を行い緑内障関連タンパク質を検索しその機能解析を行った。⑥NMDA受容体ε1サブユニット受容体ノックアウトマウスを用いと緑内障性RGC障害の関連を検討した。⑦RGC細胞表面抗体Thy-1に螢光物質を遺伝子導入したマウスを用いて新たなRGC死生体内評価法を検討した。
結果と考察
①RGC蛍光マウスのRGC障害を経時的に観察可能であり、視神経挫滅モデルなどで定量的な評価も可能であった。②ラットでは上強膜静脈焼灼法などにより持続的な眼圧上昇が安定的に得られないことが明らかになった。③酸化ストレスをうけたRGCに対し、各種フロボノイドは用量依存的に生存率を上昇させ、フラボノイドは酸化ストレスをうけたRGCに対して神経保護効果を有することが明らかになった。④網膜幹細胞の性状を明らかとなり取得可能な間葉系幹細胞の神経保護作用が確認された。⑤グルタミン酸神経毒性に関連する候補タンパク群が明らかになり、その網膜内局在なども明らかとなった。⑥NMDA受容体がRGC死に主要な役割を果たしていることが直接的に示され、更にε1サブユニットが重要な働きを持つことが証明された。⑦独自の蛍光RGCマウスモデルを確立し、虚血再潅流モデルでのRGC死を経時的に観察可能であった。
結論
緑内障モデル動物と培養網膜ニューロンを用いた上記の検討の結果、緑内障性視神経障害の病態解明及び新しい治療法開発に直接つながり得る多くの新しい知見を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2006-06-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200500617B
報告書区分
総合
研究課題名
網膜ニューロンの緑内障性障害 ―それに対する保護と再生―
課題番号
H15-感覚器-003
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
新家 眞(東京大学医学部外科学専攻感覚運動機能医学眼科学)
研究分担者(所属機関)
  • 阿部 春樹(新潟大学医学部)
  • 三嶋 弘(広島大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特に本邦で有病率が高い正常眼圧緑内障に対して、エビデンスのある治療は眼圧下降のみであるがそれに反応しない症例も多く存在することが知られており、眼圧下降に代わる治療法の確立が急務となっている。緑内障の病態の本質は進行性かつ不可逆性の網膜神経節細胞(RGC)の減少であるが、本研究ではRGCとその周囲に存在するグリア系細胞という網膜ニューロンの単独、及び共同での生理的活動及び障害機転の検討を行うことで、緑内障における網膜神経細胞死の本態を明らかにし新しい神経保護薬物治療の開発につなげるとともに、網膜ニューロンの移植・再生の端緒となる基礎研究を行うことを目的とした。
研究方法
新しい緑内障モデル動物の確立、RGC死の生体内観察、RGCやミューラー細胞の神経細胞死の機序解明とそれに対する薬剤の神経保護作用、不可逆的なRGC障害に対する幹細胞移植、などを実現するために下記の「結果」に示す種々の実験を行った。
結果と考察
①安定且つ定量的なマウス高眼圧モデルの作成法と眼圧測定法を開発した。②RGCに蛍光色素を発する遺伝子改変マウスに高眼圧負荷を与えRGC死を生体内で経時的に観察した。③ラット実験緑内障モデルの作成を試みた。④低酸素、酸化、高大気圧誘導培養ラットRGC死に対する各種薬剤の神経保護効果を検討した。⑤ミューラー細胞での神経栄養因子の発現等を検討した。⑥網膜幹細胞の取得とラット網膜下腔への網膜幹細胞、間葉系幹細胞の移植の条件を検討した。⑦グルタミン酸トランスポータノックアウトマウス網膜のプロテオミクス解析による緑内障関連タンパク質の検索と機能解析を行った。⑥NMDA受容体ε1サブユニット受容体ノックアウトマウスを用いと緑内障性RGC障害の関連を検討した。⑦RGC細胞表面抗体Thy-1に螢光物質を遺伝子導入したマウスを用いて新たなRGC死生体内評価法を検討した。
結論
緑内障モデル動物や培養網膜ニューロン、網膜幹細胞などを用いた種々の基礎実験の結果、緑内障性視神経障害の病態解明及び新しい治療法開発に直接つながり得る多くの新しい知見を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2006-06-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500617C

成果

専門的・学術的観点からの成果
高眼圧マウスや神経節細胞蛍光マウスなど新規の緑内障モデル動物の安定した作製及びその評価法を確立し、またin vitroの実験ではグリア系細胞も含めた培養網膜ニューロン、網膜幹細胞などを用いた種々の基礎検討を行い、その結果、緑内障性視神経障害の病態解明及び新しい治療法開発に直接つながり得る多くの新しい知見を得ることができた。
臨床的観点からの成果
本邦では特に正常眼圧緑内障が多いことが特徴的であるが、正常眼圧緑内障患者のうちには従来の眼圧下降療法が奏効せず視野障害が進行し日常生活が高度に障害されることも少なくない。そこで今回の一連の研究から、各種β遮断薬、プロスタグランジン系薬剤、植物系フラボノイド、などの緑内障モデル動物における神経保護作用が確認され、今後の臨床的応用が期待される。又、緑内障関連タンパクの検索やグルタミン酸による網膜ニューロン障害の機序の検討により全く新規の神経保護薬の開発につながるの重要な知見が得られた。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
緑内障は日本における中途失明原因の第1位または第2位を占めており、緑内障による失明者に対する社会的ケアも重要な課題となっている。本研究では、重篤な失明までに至る患者数をできるだけ減少させることに直結する新しい神経保護治療の開発を行うとともに、失明者の視機能回復につながり得る幹細胞移植などによる神経再生治療の開発に必要な新規の知見を多く得ることができた。
その他のインパクト
平成14年12月18日、有楽町朝日ホール(東京都千代田区)において緑内障患者を対象として「緑内障の治療と研究の最前線」と題した研究成果等普及啓発事業発表会を行った。400名以上の緑内障患者及びその家族の参加を得ることができ、今回の研究成果を含めた緑内障に関する基礎研究がどのように(近い)将来の新しい緑内障治療につながっていくかなどについて、理解をふかめていただけたと考えている。また、その発表会に関して朝日新聞を始め複数のマスコミで紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
平成14年12月18日、有楽町朝日ホール(東京都千代田区)において緑内障患者を対象として「緑内障の治療と研究の最前線」と題した研究成果等普及啓発事業発表会を行った。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Inoue Y, Yanagi Y, Tamaki Y, Uchida S, Kawase Y, Araie M, Okochi H.
Clonogenic analysis of ciliary epithelial derived retinal progenitor cells in rabbits.
Exp Eye Res , 81 , 7-45  (2005)
原著論文2
Yanagi Y, Inoue Y, Kawase Y, Uchida S, Tamaki Y, Araie M, Okochi H
Properties of growth and molecular profiles of rat progenitor cells from ciliary epithelium
Exp Eye Res , 82 , 471-478  (2006)
原著論文3
Ota T, Aihara M, Narumiya S, Araie M.
The effects of prostaglandin analogues on IOP in prostanoid FP-receptor-deficient mice.
Invest Ophthalmol Vis Sci , 46 , 4159-4163  (2005)
原著論文4
Jin Y, Uchida S, Yanagi Y, Aihara M, Araie M.
Neurotoxic effects of trypan blue on rat retinal ganglion cells
Exp Eye Res , 81 , 395-400  (2005)
原著論文5
Ota T, Murata H, Sugimoto E, Aihara M, Araie M
Prostaglandin analogues and mouse intraocular pressure: effects of tafluprost, latanoprost, travoprost, and unoprostone, considering 24-hour variation.
Invest Ophthalmol Vis Sci. , 46 , 2006-2011  (2005)
原著論文6
Yamada H, Chen YN, Aihara M, Araie M
Neuroprotective effect of calcium channel blocker against retinal ganglion cell damage under hypoxia.
Brain Res. , 1071 , 75-80  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-