眼疾患に対する遺伝子・細胞治療に関する研究

文献情報

文献番号
200500616A
報告書区分
総括
研究課題名
眼疾患に対する遺伝子・細胞治療に関する研究
課題番号
H15-感覚器-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
東 範行(国立成育医療センター 病院第二専門診療部 眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩田 岳(国立病院機構 東京医療センタ- 感覚器センター)
  • 奥山 虎之(国立成育医療センタ-病院 特殊診療部 遺伝診療科)
  • 山田 正夫(国立成育医療センタ-研究所 成育遺伝研究部)
  • 仁科 博史(東京医科歯科大学 難病治療研究所 発生再生生物学分野)
  • 岡野 栄之(慶應義塾大学医学部 生理学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
14,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 眼の構造は複雑で、薬物は組織特異的効果を示さず、手術は微細で限界がある。本研究は、組織特異的に発現する遺伝子導入法や、幹細胞と形態形成遺伝子を用い眼組織を再生・移植する技術開発を目的とする。これにより、組織独自または微細領域で行う眼疾患の効果的な治療が期待される。
研究方法
1)遺伝性眼疾患の細胞治療:神経幹細胞をムコ多糖症VII型マウス脳内に移植。
2)緑内障遺伝子オプチニュリンの機能解析:変異をもつトランスジェニックマウスを作成、眼底、病理を解析。
3)眼形成異常の原因遺伝子機能: PAX6とPAX2の影響を生化学的解析。(2)塩基やアミノ酸配列に微細変化を生じる選択的スプライスを検証。
4)視細胞の分化調節機構:マウス網膜培養で、CNTFの下流シグナル機構を解析。
5)幹細胞から眼組織への分化誘導能: PAX6-5a誘導マウスES細胞を樹立。神経分化に関する遺伝子をマイクロアレイで検討。
6)眼形態形成遺伝子を用いた網膜再生:鶏あるいマウス胚網膜色素上皮へPax6遺伝子を導入。
結果と考察
1)幹細胞移植後、脳の病理所見は著明に改善した。
2)マウスはヒト緑内障類似の神経乳頭陥凹、神経節細胞死、神経線維萎縮があり、初の正常眼圧緑内障モデル作製となった。
3)PAX6はPAX2に影響するが、相互作用は両者間の転写調節に加え他因子介在も想定される。微細な選択的スプライスを200例以上確認した。
4)Notchは、視細胞分化のため最終分裂後直ちに不活性化され、NumbはNotch抑制し、視細胞分化を促進する。
5)PAX6-5aは神経細胞分化誘導能が強い。PAX6-5a発現誘導ES細胞株は標的遺伝子同定など機能解明に有用である。
6)Pax6導入により、鶏でほぼ完全な、マウスでやや不完全な網膜を作ることができ、網膜色素変性の視覚改善のための移植応用が期待できる。
結論
 ムコ多糖症で神経幹細胞の脳内移植治療を検証した。ヒト正常眼圧緑内障に類似する疾患マウスの作製に成功した。発生時期に作動する転写因子と病態の関係を明らかにし、。微細なスプライスの意義を示した。視細胞のcrxとロドプシンの発現に活性化STAT3の発現低下が必要で、Notchは視細胞分化負に、Numbは正に調節する。PAX6-5aは網膜形成誘導に重要で、ES細胞を用いた再生医療の重要なツールになる。Pax6を色素上皮細胞に導入して神経網膜を作ることに成功した。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

文献情報

文献番号
200500616B
報告書区分
総合
研究課題名
眼疾患に対する遺伝子・細胞治療に関する研究
課題番号
H15-感覚器-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
東 範行(国立成育医療センター 病院第二専門診療部 眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩田 岳(国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター)
  • 奥山 虎之(国立成育医療センター病院 特殊診療部 遺伝診療科)
  • 山田 正夫(国立成育医療センター研究所 成育遺伝研究部)
  • 岡野 栄之(慶應義塾大学医学部 生理学教室)
  • 仁科 博史(東京医科歯科大学 難病治療研究所 発生再生生物学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 組織特異的に発現する遺伝子導入法や、幹細胞と形態形成遺伝子を用い眼組織を再生・移植する技術を開発し、複雑な構造の眼で組織独自または微細領域で行う。
研究方法
1)ムコ多糖症角膜混濁の遺伝子・細胞治療:VII型マウス角膜に欠損遺伝子導入または骨髄細胞移植。
2)眼組織特異的遺伝子治療:特異的遺伝子プロモータをもつCre/loxPシステムをマウス眼に投与。
3)緑内障遺伝子オプチニュリンの解析:変異トランスジェニックマウスを作成。
4)眼形成遺伝子の機能:PAX6-PAX2、DRPLA-REREの転写調節能を解析。選択的スプライスの微細変化を収集。
5)視細胞分化調節機構:CNTFの下流シグナル、Notch-Numbシグナルの分化調節機構を解析。
6)幹細胞から眼組織への分化:マウスES細胞でMAPキナーゼとPax6の分化誘導を検討。PAX6-5a誘導マウスES細胞で神経分化遺伝子を解析。
7)眼形成遺伝子を用いた網膜再生:鶏とマウス胚網膜色素上皮へPax6遺伝子を導入。
結果と考察
1)角膜内に遺伝子発現、骨髄細胞生着、蓄積物消失が得られ、局所遺伝子・細胞治療が有用。
2)隅角、水晶体、網膜に遺伝子が特異的発現し、アポトーシス遺伝子導入で緑内障手術、後発白内障予防、網膜芽細胞腫治療など組織特異的遺伝子治療。
3)トランスジェニックマウスは乳頭陥凹、神経節細胞死、神経線維萎縮などの緑内障所見を示した。
4)PAX6-PAX2は相互に影響する。DRPLA-REREは神経変性部位決定に関わる。微細選択的スプライスを200例以上確認し、病態変動、新たな治療法開発につながる。
5)CNTFはcrxとロドプシン抑制、STAT3活性化、除去でSTAT3低下、ロドプシン発現。Notchは視細胞分化抑制、Numbは亢進。
6)MAPキナーゼはES細胞の生存維持と分化誘導。PAX6-5aは神経細胞分化誘導があり、この発現誘導ES細胞は標的遺伝子同定に有用。
7)Pax6導入で鶏で完全なマウスで不完全な網膜を作成し、網膜色素変性の細胞移植に応用可能。
結論
 ムコ多糖症で局所遺伝子・細胞治療を行った。Cre/loxPシステムによる組織特異的遺伝子導入法を開発した。正常眼圧緑内障の疾患モデルを作製した。発生で働く転写因子と病態の関係、微細スプライスの重要性を示した。視細胞分化に、STAT3の発現低下、Notch抑制、Numb亢進が関わる。ES細胞の生存、分化に関わるシグナルとPAX6-5aの網膜形成能を明らかにした。Pax6を色素上皮に導入して神経網膜を作った。

公開日・更新日

公開日
2006-04-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2006-10-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500616C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)角膜で初めて局所的遺伝子・細胞治療の有用性を示した
2)複雑な構造を持つ眼で組織特異的遺伝子治療法を開発した。
3)正常眼圧緑内障のモデルマウスを初めて作成した。
4)眼形成に関わる遺伝子システムの一端を解明した。
5)視細胞分化に関わる遺伝子システムの一端を解明した。
6)ES細胞における神経細胞分化誘導機序の一端を解明した。
7)形態形成遺伝子導入で初めて完全な網膜を作成した。
臨床的観点からの成果
1)ムコ多糖症角膜混濁の遺伝子・細胞治療は、倫理委員会に申請し、臨床応用準備中。
2)組織特異的遺伝子治療法は手術や腫瘍治療の補助療法に応用可能。
3)正常眼圧緑内障モデルマウスは、疾患病態解明や神経保護治療開発につながる。
4)眼形成、視細胞分化に関わる遺伝子システムの解明は、再生医学に寄与する。
5)ES細胞の研究は細胞移植に寄与する。
6)遺伝子導入で作成した再生網膜は、網膜色素変性などの網膜移植に応用可能。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
新たな治療技術により、視覚障害の軽減が期待できる。
その他のインパクト
眼形成遺伝子の研究、ことに黄斑形成の遺伝子システムは、しばしば科学雑誌や新聞を含むマスコミに採りあげられた。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
102件
その他論文(和文)
39件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
52件
学会発表(国際学会等)
19件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
12件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishina H, Nakagawa K, Azuma N, Katada T.
Activation mechanism andphysiological roles ofstress-activated proteinKinase/c-Jun NH2-terminalkinase in mammalian cells.
J Biol Regul Homeost Agents , 17 , 295-302  (2003)
原著論文2
Nishitai G, Azuma N, Nishina H, Katada T, et al.
Stress induces mitochondria-mediated apoptosis independent of SAPK/JNK activation in embryonic stem cells.
J Biol Chem , 279 , 1621-1626  (2003)
原著論文3
Kamata Y, Yamada M, Azuma N, Okuyama T, et al.
Long-term normalization in the central nervous system, ocular manifestations, and skeletal deformities by a single systemic adenovirus injection into neonatal mice with mucopolysaccharidosis VII.
Gene Ther , 10 , 406-414  (2003)
原著論文4
Okamura-Oho Y, Miyashita T, Nagao K, Shima S, Ogata Y, Katada T, Nishina H, Yamada M, et al.
Dentatorubral-pallidoluysian atrophy protein is phosphorylated by c-Jun NH2- terminal kinase.
Hum Mol Genet , 12 , 1535-1542  (2003)
原著論文5
Nakamura Y, Yamamoto M, Oda E, Okano H, et al.
Expression of tubulin beta II in neural stem/progenitor cells and radial fibers during human fetal brain development.
Lab Invest , 83 , 479-489  (2003)
原著論文6
Azuma N, Yamaguchi Y, Handa H, Yamada M, et al.
Mutations of the PAX6 gene detected in patients with a variety of optic nerve malformations
Am J Hum Genet , 72 , 1565-1570  (2003)
原著論文7
Tanaka Y, Utsumi J, Matsui M, Iwata T, et al.
Purification, molecular cloning, and expression of a novel growth promotive factor for retinal pigment epithelial cells, REF-1/TFPI-2.
Invest Ophthal Vis Sci , 45 , 245-252  (2004)
原著論文8
Obazawa M, Mashima Y, Sanuki N, Iwata T, et al.
Comparable analysis of porcine optineurin and myocilin expression in trabecular meshwork cells and astrocytes from optic nerve head.
Invest Ophthal Vis Sci , 45 , 2652-2659  (2004)
原著論文9
Funayama T, Ishikawa K, Ohtake Y, Iwata T, et al.
Variants in optineurin gene and their association with tumor necrosis factor-alpha (-857C>T) polymorphisms in Japanese patients with glaucoma.
Invest Ophthal Vis Sci , 45 , 4359-4367  (2004)
原著論文10
Ozawa Y, Nakao K, Shimazaki T, Okano H, et al.
Downregulation of STAT3-activation is required for presumptive rod photoreceptor cells to differentiate in the postnatal retina.
Mol Cell Neurosci , 26 , 258-270  (2004)
原著論文11
Nagao K, Fujii K, Yamada M, Miyashita T.
Identification of a novel polymorphism involving a CGG repeat in the PTCH gene and a genome-wide screening of CGG-containing genes.
J Hum Genet , 49 , 97-101  (2004)
原著論文12
Umeda S, Ayyagari R, Allikmets R, Iwata T, et al.
Early onset macular degeneration with drusen in a cynomolgus monkey (Macaca fascicularis) pedigree caused by a novel gene mutation.
Invest Ophthal Vis Sci , 46 , 683-691  (2005)
原著論文13
Umeda S, Suzuki MT, Okamoto H, Iwata T, et al.
Molecular composition of drusen and possible involvement of anti-retinal autoimmunity in two different forms of macular degeneration in cynomolgus monkey (Macaca fascicularis).
FASEB J , 19 , 1683-1685  (2005)
原著論文14
Nagao K, Togawa N, Yamada M, Miyashita T, et al.
Detecting tissue-specific alternative splicing and disease-associated aberrant splicing of the PTCH gene with exon junction microarrays.
Hum Mol Genet , 14 , 3379-3388  (2005)
原著論文15
Nagao K, Toyoda M, Yamada M, Miyashita T, et al.
Identification and characterization of multiple isoforms of a murine and human tumor suppressor, patched, having distinct first exons.
Genomics , 85 , 462-471  (2005)
原著論文16
Okano H., Kawahara H., Toriya M, Nakao K, Shibata S, Imai T.
Function of RNA binding protein Musashi-1 in stem cells.
Exp Cell Res , 306 , 349-356  (2005)
原著論文17
Azuma N, Tadokoro K, Yamada M, Nakafuku M, et al.
The Pax6 isoform bearing analternative spliced exon promotes the development of the neural retinal structure.
Hum Mol Genet , 14 , 735-745  (2005)
原著論文18
Azuma N, Tadokoro K, Yamada M, Nakafuku M, et al.
Transdifferentiation of the retinal pigment epithelia to the neural retina by transfer of the Pax6 transcriptional factor.
Hum Mol Genet , 14 , 1059-1068  (2005)
原著論文19
Fukuhara Y, Li XK, Kitazawa Y, Okuyama T, et al.
Histopathological and behavioral improvement of murine mucopolysaccharidosis type VII by intracerebral transplantation of neural stem cells.
Mol Ther , 13 , 548-555  (2006)
原著論文20
Goto K, Yasuda M,Azuma N, Ito M, et al.
Small eye phenotypes observed in a human tau gene transgenic rat.
Curr Eye Res , 31 , 107-110  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-