角膜移植の安全性及び角膜移植ネットワークに関する研究

文献情報

文献番号
199700056A
報告書区分
総括
研究課題名
角膜移植の安全性及び角膜移植ネットワークに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
眞鍋 禮三(多根記念眼科病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
角膜移植の安全性を確保するためには提供者から死後採血を実施し、血清学的検査の結果が分かるまで強角膜片保存法により提供角膜を保存し、安全性を確認したもののみを移植することが求められている。 わが国のアイバンクの死後採血による血清学的検査の実施状況を調査する。 もし不十分であれば、死後採血や強角膜片保存法の講習会を開いてその有用性を実証する。 また、海外のアイバンクから提供される角膜についても同様の調査を行い、国内で提供される角膜と同等の安全性を確保し、公平で公正な配分を行うための準備委員会を発足させ、アイバンクコーディネーターを育成する。
研究方法
1)全国のアイバンクに対し1997年12月末現在の死体採血実施状況を調査し、提供者の感染症有病率を求める。2)死後採血法と強角膜片保存法のマニュアルを作成し、全国十数カ所で講習会を開き、その前後に於ける実施状況を調査する。3)臓器移植ネットワークに倣って角膜移植ネットワーク構築準備委員会を発足させ、アイバンク・コーディネーターマニュアルを作成する。4)海外のアイバンクより提供された角膜の使用状況を調査し、海外ドナー角膜の使用基準を作成する。
結果と考察
1)全国50行のアイバンクの中、回答のあったアイバンクは36行(72.0%) で、死後採血による血清学的検査を全てのドナーに対して実施しているアイバンクは 4行(11.1%) に過ぎなかった。生前のカルテによってのみドナーの感染症を検索しているアイバンクが6行(16.7%) あり、死後採血を調査時までに1度も行ったことのないアイバンクが22行(61%) もあった。死後採血による血清学的検査を受けたドナー(140人) 中、梅毒は3人(2.1%)、B型肝炎2人(1.4%)、C型肝炎6人(4.3%)、T細胞白血病2人(1.4%)、エイズ0人(0%)であった。米国のポテンシャルドナーの有病率に較べ、C型肝炎がやや高かったのは肝硬変や肝癌が角膜移植のドナーとして禁忌疾患になっていないため、生前のカルテによる検索で除外されなかったためと考えられる。また、C型肝炎が角膜移植によって感染するかどうかに付いてはまだ結論がでていないので、当分は「疑わしきは使わない」を続けつつ、HCV-抗体(+) で使用しなかった角膜からPCR-法でHCV-RNA が検出できないかどうかについて研究しているが、現時点では全て陰性である。2)1997年12月末までに本研究協力者らによって実施された講習会は13回で、受講対象者は計 644人であった。アイバンクの中で講習会前から死後採血を行っていたアイバンクは20% しかなかったが。講習会受講後は80% のアイバンクが死後採血と強角膜片保存法を実施するようになっていた。そこで、1998年2 月15日に名古屋市で第1回「提供角膜の安全性確保のための講習会」を開催したところ 161名もの参加者を得て、十分な効果を挙げることができた。3)本来のアイバンクの業務(・充分なドナーを確保する。・安全な角膜を提供する。・公平、公正に供給する。)を達成するためには、臓器移植ネットワークに倣って角膜移植ネットワークを構築しなければならないが、まず、そのネットワークで活動するアイバンク・コーディネーターを育成する事が必要である。日本角膜移植学会と日本角膜学会及び日本眼球銀行協会から推薦された専門家で委員会を作り、コーディネーター育成マニュアルを作成した(別冊)。4)海外のアイバンクから提供されるドナー角膜の使用については国内のアイバンクが斡旋することを許されていないため、各医療施設が緊急避難的に個々に行っているが、どの様な条件で使用すべきかの基準は設定されていない。そこで、上記の委員会で先ず実情を把握し、海外ドナー角膜を使用する場合の問題点を検討し、次の様な「海外ドナー角膜の使用基準」を作成した。・手術
を必要とする眼の実用矯正視力が 0.3未満の場合で、かつ、3ヵ月以上に渡って角膜移植を待機している場合。・眼痛が認められ、角膜移植によりこの疼痛を取り除くことができる場合。・角膜穿孔が生じているか、穿孔の危険性がある場合。・医学的理由により、早急に角膜移植を行う必要がある場合。今後はこの基準が守られているかどうかを委員会で監視し、角膜移植患者の安全性を国内ドナーと同等の基準で守り、ドナー角膜の公平で公正な配分を実現して行きたいと考えている。
結論
角膜移植の安全性を確保するためは、ドナーの感染症をチェックし、陽性者からの移植を避けなければならない。 それにはドナーの死後採血と血清学的検査結果が出るまでの間、ドナー角膜を安全に保存できる強角膜保存を行うことが必要である。全国50カ所のアイバンクの実施状況は1997年12月末現在では極めて低率であったが、本研究協力者らが死後採血と強角膜片保存法についての講習会を開いたところ、計 644名の受講者が集まり、受講後には死後採血によるドナーの感染症チェックが格段に上昇するのを認めた。又、本来のアイバンク業務の充実を図るため、臓器移植ネットワークに倣って角膜移植ネットワーク準備委員会を作り、アイバンク・コーディネーター育成マニュアルを作成し、海外のアイバンクから提供されるドナー角膜の使用基準を作って国内外からのドナー角膜の安全性と公平・公正な提供を確保することにした。 

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