文献情報
文献番号
199700055A
報告書区分
総括
研究課題名
保険医療研究遂行に際しての事前評価、倫理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
平良 専純(放射線影響研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
厚生行政に関連した保健医療研究の中で、疫学研究は、広く行われ、かつ重要な役割を持っている。疫学研究は、集団を対象とするものであるので、研究対象者の権利保護の観点から特有の倫理規範を作る必要がある。そこで、本年度は疫学研究における倫理規範の作成を目的とした。
研究方法
?. 指針の作成は、国際医科学評議会が作成した「疫学研究の倫理審査のための国際的指針」 (1991年)、「被験者に対する生物医学研究についての国際的倫理指針」( 1993年)、米国厚生省が作成した「ヒトを対象とする研究に関する合衆国の規則」(合衆国規則第45編第46部 ヒト被験者の保護)、イギリス政府の作成したガイドライン「地方研究倫理委員会」、および放射線影響研究所の「人権擁護調査委員会運営要領」を参考にした。 ?. コメディカル分野の大学のうち43校について「倫理委員会」が設置されているかどうかについて郵便調査した。
結果と考察
?.疫学研究に際しての倫理に関する指針の案を作成した。その内容の抜粋を以下に示した。
疫学研究に際しての倫理に関する指針(案)(抜粋)
第1章 はじめに: 研究は,適切な資格および経験のある研究者により,目的と方法などを明確に記述した研究計画に従って実施されなければならない。その研究計画は、研究者から独立して構成された審査機関により、その科学的有用性および倫理が評価されるべきである。また、研究者は、研究の倫理問題すべてに常に責任を負い、倫理審査委員会の指示に従わなければならない。
第2章 倫理審査基準 :倫理審査基準は、提案されている研究計画が、倫理的に受け入れられるかどうかを判断するためのもので、インフォームド・コンセントを得ること、秘密が保護されていること、研究参加による利益を最大にすること、研究参加による不利益を最小にすることの4点から成る。
2.1 インフォームド・コンセント: インフォームド・コンセントに関して研究者は次の義務を負う。a) 承諾能力が明らかにある者のみを研究対象者にすることを原則とする。 研究対象候補者に対し、 b)インフォームド・コンセントに必要なすべての情報を伝えること c) 質問をする十分な機会を与えること d) 同意は、研究対象候補者が十分な知識を得て考える期間を与えた後に求めること e)強制、威圧、脅迫および誤魔化しの可能性を取り除くこと f)インフォームド・コンセントは、書面によらなければならないこと g)研究の条件、手順に重要な変更がある場合は、それぞれの研究対象者からインフォームド・コンセントを改めて取得すること
2.2 秘密の保護: 研究者は、研究のすべての過程において秘密保護のための確実な手段を講じなければならない。また、研究者は、秘密保護における研究者の能力の限界および予想される秘密漏洩の危険について研究対象者に説明しなければならない。
2.3 研究参加による利益を最大にすること: 研究対象者が研究参加によって期待しうる利益の中には、健康に関する研究結果が知らされることが含まれる。研究結果が、地域社会の保健医療対策に利用可能な場合には、個人の秘密を保護しつつ関係保健当局に報告されるべきである。研究計画書には情報の地域社会および研究対象者への伝達条項が含まれるべきである。また、研究結果を個々の対象者に報告できない場合には、予めその旨を対象者に知らせて説明しておく必要がある。
2.4 研究参加による不利益を最小にすること: 研究者は、研究対象者が研究に参加することによって被る不利益や危険性を事前に把握し、それらを最小にしなければならない。研究の過程において研究対象者に権利の侵害を与えた場合には、事前に提示した条件に従い、適性に対応しなければならない。
第3章 本指針の適用対象: 本指針は、すべての疫学研究に適用される。 疫学研究計画は、本指針の要件に従って運営される倫理審査委員会(以下「委員会」という)によって、審査および承認されなければならない。委員会は、研究が 1)既存のデータ、文書、記録、病理標本、または診断標本等の資料を利用した研究で、それらの資料が一般に公開されている場合 2)研究対象者に対して倫理的問題を惹起しないことが明らかな場合 3) 1)、2)以外に委員会が認めた場合 には、簡易審査(第4章4.2 5))によることができる。
第4章 倫理審査委員会
4.1 倫理審査委員会の設置と構成: 1) 委員会の長および委員は施設長が委嘱 2) 施設内外からの異なる分野の委員から構成 3) 男性または女性だけで構成されることがないように努める 4) 委員が研究計画に関係する場合は、その委員を審査に参加させてはならないが、意見を求めることはできる 5) 委員会は、委員以外の専門家の出席を求めることができるが、委員会の審査決定に参加することはできない。
4.2任務:1)委員会は研究許可の権限を持つ者からの諮問により、研究計画が人権擁護上、道義的及び法律的見地から適切であるか否かを審査する。なお、委員会は、研究実施の段階で、中間報告あるいは2年1回の審査により監視し、必要に応じて適正な是正措置を勧告する。 2) 研究結果が学術誌等に発表される場合、その発表内容が、委員会が当初承認した研究計画によって行われた研究であるか否かについて審査することが望ましい。 3)申請書類、申請方法、中間報告、危害の発生の報告、運営方法について規則を定め、公表する。 4)審査結果は、研究許可権限を持つ者に報告される。 5)委員長が簡易審査手続きに適していると判断した研究は、委員長が委員から任命した2名以上の審査委員により審査を行う。研究の審査にあたっては、審査委員は委員会のすべての権限を行使することができる。簡易審査による結果は直近の委員会に報告され、承認を受けなければならない。研究の不承認は簡易審査でなく、委員会の手続きに従った審査の後にのみなすことができる。 6)委員会は、審査基準に従って実施されていない研究や、研究対象者に対する重大な危害が発生した研究について承認を停止または撤回することが適切であると判断された場合には、これらの判断をした理由の説明を含め、研究許可権限をもつ者に勧告する。
4.3 会議の成立要件:1)委員会は、委員の3分の2以上の出席が必要。 2) 委員会の決定は、出席委員の3分の2以上の意見の一致が必要。
4.4. 研究に対する倫理審査委員会の承認決定:1)委員会は、研究計画を承認するために、第2章の「審査基準」の要件が満たされていることを確認しなければならない。
2) 審査結果は、次の区分のいずれかの決定を行うものとする。a)承認 b)条件を付けて承認 c)承認を保留、研究許可の許可権限をもつ者に変更の勧告 d)審査基準に適合しないときは不承認とし、その理由を文章で明示する。
4.5記録: 1) 委員会は、次の記録を作成し保存しなければならない。 a) 審査した研究計画、その評価内容、研究対象者の同意書の書式の写し、研究対象者に危害が発生した場合その報告のすべての写し b)委員会の議事録 c)その他の審査内容の記録 d)委員会と研究者との間の通信文書のすべての写し e)委員の名簿。 2)本指針で要求される記録および実施される研究に関連する記録は少なくとも5年間保存されなければならない。
?.コメディカル大学における「倫理委員会」設置状況の調査結果: コメディカル分野の教育・研究に従事している4年制の大学または大学の学部あるいは学科(合計43施設)において、「委員会」等を設置 9(21.0 %), 未設置 23(53.4 %), 無回答 11(25.6 %)であった。「委員会」等が設置されていた9施設のうち、7施設は医学部、医科大学全体として設置された「委員会」に参加していた。コメディカルのみの大学で委員会を設置していたのは2施設のみであった。倫理的審査の必要性を保健医療研究に携わるヒトすべてに徹底することが強く望まれた。
疫学研究に際しての倫理に関する指針(案)(抜粋)
第1章 はじめに: 研究は,適切な資格および経験のある研究者により,目的と方法などを明確に記述した研究計画に従って実施されなければならない。その研究計画は、研究者から独立して構成された審査機関により、その科学的有用性および倫理が評価されるべきである。また、研究者は、研究の倫理問題すべてに常に責任を負い、倫理審査委員会の指示に従わなければならない。
第2章 倫理審査基準 :倫理審査基準は、提案されている研究計画が、倫理的に受け入れられるかどうかを判断するためのもので、インフォームド・コンセントを得ること、秘密が保護されていること、研究参加による利益を最大にすること、研究参加による不利益を最小にすることの4点から成る。
2.1 インフォームド・コンセント: インフォームド・コンセントに関して研究者は次の義務を負う。a) 承諾能力が明らかにある者のみを研究対象者にすることを原則とする。 研究対象候補者に対し、 b)インフォームド・コンセントに必要なすべての情報を伝えること c) 質問をする十分な機会を与えること d) 同意は、研究対象候補者が十分な知識を得て考える期間を与えた後に求めること e)強制、威圧、脅迫および誤魔化しの可能性を取り除くこと f)インフォームド・コンセントは、書面によらなければならないこと g)研究の条件、手順に重要な変更がある場合は、それぞれの研究対象者からインフォームド・コンセントを改めて取得すること
2.2 秘密の保護: 研究者は、研究のすべての過程において秘密保護のための確実な手段を講じなければならない。また、研究者は、秘密保護における研究者の能力の限界および予想される秘密漏洩の危険について研究対象者に説明しなければならない。
2.3 研究参加による利益を最大にすること: 研究対象者が研究参加によって期待しうる利益の中には、健康に関する研究結果が知らされることが含まれる。研究結果が、地域社会の保健医療対策に利用可能な場合には、個人の秘密を保護しつつ関係保健当局に報告されるべきである。研究計画書には情報の地域社会および研究対象者への伝達条項が含まれるべきである。また、研究結果を個々の対象者に報告できない場合には、予めその旨を対象者に知らせて説明しておく必要がある。
2.4 研究参加による不利益を最小にすること: 研究者は、研究対象者が研究に参加することによって被る不利益や危険性を事前に把握し、それらを最小にしなければならない。研究の過程において研究対象者に権利の侵害を与えた場合には、事前に提示した条件に従い、適性に対応しなければならない。
第3章 本指針の適用対象: 本指針は、すべての疫学研究に適用される。 疫学研究計画は、本指針の要件に従って運営される倫理審査委員会(以下「委員会」という)によって、審査および承認されなければならない。委員会は、研究が 1)既存のデータ、文書、記録、病理標本、または診断標本等の資料を利用した研究で、それらの資料が一般に公開されている場合 2)研究対象者に対して倫理的問題を惹起しないことが明らかな場合 3) 1)、2)以外に委員会が認めた場合 には、簡易審査(第4章4.2 5))によることができる。
第4章 倫理審査委員会
4.1 倫理審査委員会の設置と構成: 1) 委員会の長および委員は施設長が委嘱 2) 施設内外からの異なる分野の委員から構成 3) 男性または女性だけで構成されることがないように努める 4) 委員が研究計画に関係する場合は、その委員を審査に参加させてはならないが、意見を求めることはできる 5) 委員会は、委員以外の専門家の出席を求めることができるが、委員会の審査決定に参加することはできない。
4.2任務:1)委員会は研究許可の権限を持つ者からの諮問により、研究計画が人権擁護上、道義的及び法律的見地から適切であるか否かを審査する。なお、委員会は、研究実施の段階で、中間報告あるいは2年1回の審査により監視し、必要に応じて適正な是正措置を勧告する。 2) 研究結果が学術誌等に発表される場合、その発表内容が、委員会が当初承認した研究計画によって行われた研究であるか否かについて審査することが望ましい。 3)申請書類、申請方法、中間報告、危害の発生の報告、運営方法について規則を定め、公表する。 4)審査結果は、研究許可権限を持つ者に報告される。 5)委員長が簡易審査手続きに適していると判断した研究は、委員長が委員から任命した2名以上の審査委員により審査を行う。研究の審査にあたっては、審査委員は委員会のすべての権限を行使することができる。簡易審査による結果は直近の委員会に報告され、承認を受けなければならない。研究の不承認は簡易審査でなく、委員会の手続きに従った審査の後にのみなすことができる。 6)委員会は、審査基準に従って実施されていない研究や、研究対象者に対する重大な危害が発生した研究について承認を停止または撤回することが適切であると判断された場合には、これらの判断をした理由の説明を含め、研究許可権限をもつ者に勧告する。
4.3 会議の成立要件:1)委員会は、委員の3分の2以上の出席が必要。 2) 委員会の決定は、出席委員の3分の2以上の意見の一致が必要。
4.4. 研究に対する倫理審査委員会の承認決定:1)委員会は、研究計画を承認するために、第2章の「審査基準」の要件が満たされていることを確認しなければならない。
2) 審査結果は、次の区分のいずれかの決定を行うものとする。a)承認 b)条件を付けて承認 c)承認を保留、研究許可の許可権限をもつ者に変更の勧告 d)審査基準に適合しないときは不承認とし、その理由を文章で明示する。
4.5記録: 1) 委員会は、次の記録を作成し保存しなければならない。 a) 審査した研究計画、その評価内容、研究対象者の同意書の書式の写し、研究対象者に危害が発生した場合その報告のすべての写し b)委員会の議事録 c)その他の審査内容の記録 d)委員会と研究者との間の通信文書のすべての写し e)委員の名簿。 2)本指針で要求される記録および実施される研究に関連する記録は少なくとも5年間保存されなければならない。
?.コメディカル大学における「倫理委員会」設置状況の調査結果: コメディカル分野の教育・研究に従事している4年制の大学または大学の学部あるいは学科(合計43施設)において、「委員会」等を設置 9(21.0 %), 未設置 23(53.4 %), 無回答 11(25.6 %)であった。「委員会」等が設置されていた9施設のうち、7施設は医学部、医科大学全体として設置された「委員会」に参加していた。コメディカルのみの大学で委員会を設置していたのは2施設のみであった。倫理的審査の必要性を保健医療研究に携わるヒトすべてに徹底することが強く望まれた。
結論
疫学研究に際しての倫理に関する指針(案)を作成した。 疫学研究は、実質的には科学的有用性と、研究対象者の承諾によって、手続き的には倫理審査によって正当なものになる。この指針は、研究計画を人権擁護上、道義的および法律的見地から適切であるか否かを審査する倫理審査委員会について、およびその審査基準[ 1)インフォームド・コンセント、2)秘密の保護、3)研究参加による利益を最大にすること、4)研究参加による不利益を最小にすること]について定めた。日本国内の43ヵ所のコメディカル大学で倫理委員会を設置していたのは9施設(21%)であった。
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