重油含有物質による人体影響及び危急時の健康管理体制に関する研究

文献情報

文献番号
199700054A
報告書区分
総括
研究課題名
重油含有物質による人体影響及び危急時の健康管理体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
日下 幸則(福井医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 出口洋二(福井医科大学)
  • 森田明美(福井医科大学)
  • 伊木雅之(近畿大学医学部公衆衛生学教授)
  • 中永悠子(福井県金津保健所)
  • 宮崎茂和(福井県坂井郡医師会長)
  • 内山厳雄(国立公衆衛生院)
  • 後藤純雄(国立公衆衛生院)
  • 富澤一郎(福井県健康増進課)
  • 西正美(石川県保健環境センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナホトカ号からの流出重油に汚染された海岸部の環境リスク・アセスメントを行うこと、その回収作業に従事した人々の健康影響を追跡調査すること。
研究方法
事故後6ヶ月経った時点で、海岸部の表層砂中のPAHを分析し、また抽出液の変異原性をAmes法により測定した。同時に、砂の中に存在する油分解菌の数を調べた。 船首漂着地の住民と、周辺地域の漁業および旅館、民宿等観光関連の組合に所属する者の計1214人を対象に、経済的および精神的影響を含めた健康状態についてのアンケート調査を行った。また、重油回収作業当時に坂井郡の医療機関を受診した人々で、一年後に追跡可能であった者から無作為に81名を選び、身体的健康を調べた。また、平成9年10月において、福井県、石川県の三地点で重油漂着した海岸部の地域において、基本健康診査の受診者を対象に、コントロール地区をとって、健康調査と血液検査を行った。
結果と考察
海岸の砂に付着した有機成分のPHA含有量及び変異原性は、共に東京都の道路端の土砂のそれらよりも大幅に低かった。試験管内では、東京都港区内の土砂中から分離された細菌Mycobacterium sp. H2-5株により、市販C重油及び漂着重油に含まれるPAH、特に環数の低いPAHが分解されることが確かめられた。重油漂着海岸の海水並びに海浜砂中の油分解細菌数と従属栄養細菌数は、採取地点や採取時期によって大きく異なっていて、一定の傾向は認められなかった。
試験管内でも、ある種の細菌により重油が分解され、PAH濃度も減少することが確認されたので、実際の海岸部でも、この過程が進行することが期待出来よう。海浜表層砂の重油に、東京都内の土砂よりもはるかに少ないPAHや変異原性しか認められないので、人体への健康影響はさしたることは無いだろう。
安島住民の中でも、世帯の収入源に漁業・観光関連の職業を含めている人は77.4%が収入が減ったと答えたのに対し、その他の職業からのみ収入を得ている人では16.2%と、両者に明らかな差が見られた。無職の人と漁業・観光関連の職業従事者はその他の職業の人に比べ「不安」と答える人の割合が高かった。「肩・首のこり」「腕・腰・足のだるさや痛み」「疲労感」「頭痛」などの身体症状を訴えた人は全回答者の75.6%に上り、男性より女性の方が症状を訴える率が高く、また漁業・観光関連の職業の人の方が無職やその他の職業の人よりも症状を訴える率が高かった。GHQにより得られた精神的健康度は、漁業・観光関連の人達に問題が多く、ロジスティック回帰分析により抽出された危険因子は、年齢が若いこと、女性であること、収入に悪影響があったこと、健康状態に不安があることであった。医療機関受診者で、一年後の率は著しく改善していた。石川県で老人保健法の受診者での健康は、従事していない人々と比べて、差が無かった。なお、福井県の結果、血液検査の解析は、三年度に計画されている。
漁業・観光関連の人達は、経済的影響のみならず、健康状態や身体症状の異状を強く訴えていた。従って、これら漁業・観光関連従事者の健康状態の変化については十分に注意を払う必要がある。経済的影響の緩和には国や県による補償問題の迅速な解決が必要かつ有効であるし、身体症状のフォローアップは地元医師会を中心とした診療体制や地域の保健婦による健康指導を通じて、今後も継続して行うべき課題である。
結論
ナホトカ号から重油流出して一年余経った時点で、実際の海岸部からサンプリングした重油と土砂の混合物からの抽出物では、東京都でサンプリングされた土砂と比較して、それほどの変異原性、PAH量は認められなかった。さらに、重油の漂着した海岸部では、自然に存在するある細菌が当該重油を分解することが確認されたが、実際の環境改善はモニターされる必要があろう。
福井県において、回収作業を終了してから1ヶ月後に、船首漂着地域住民及び周辺地域の漁業・観光関連の組合員に対し健康調査を実施したところ、漁業・観光関連の職業にある人が、経済的に悪影響をうけており、健康状態への不安や身体症状を訴える率も高値であった。この収入減少が、精神的健康度に有意に関連していた。ただし、急性症状の殆どは、改善していることが示唆された。また、作業終了7ヶ月後の石川県でも、回収作業当時にあった健康影響は殆ど残存していないことが示唆された。
以上から、沈着した重油の毒性、発癌性は減少していて、それそのものによる人体影響は軽度であろうが、地域の受ける経済的打撃、精神心理的影響を介した健康影響は、尚、追跡調査を要すると思われる。

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