医療の現場におけるいわゆるチーム医療の推進に関する研究

文献情報

文献番号
199700052A
報告書区分
総括
研究課題名
医療の現場におけるいわゆるチーム医療の推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
末舛 恵一(済生会中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 坂上正道(北里大学)
  • 伊野宮興志(東京大学医学部附属病院)
  • 伴信太郎(川崎医科大学)
  • 福井次矢(京都大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医学・医療技術の進歩とともに、医療はますます守備範囲を広げ、深化する一方である。これに対応するため、医療の専門分化が進み、一方で、集学的治療(Multidisciplinary Treatment)が導入され、様々な専門医・専門職種が互いによく相談した上で結論を出し、医療を進めて行くことが必要となってきた。
集学的医療においては、異なる分野、それぞれの専門職種としての立場からの意見と提出・取捨選択・総合→決定というプロセスが必要である。実臨床の場において、「一人の医療従事者がすべてを」というようなことの不可能な状況と遭遇することは、ますます増えている。
例えば、手術中の術者(医師)と助手、ナースとの間では、殆ど反射的に行われ、最良の結果をもたらす協同作業(=チーム医療)の経験がつまれてきた。このような、瞬時の判断を必要とすることはそう多くはないが、同様な協同作業はさまざまな医療の現場で必要となってきている。
最近では、医療が病医院(入院・外来)から離れ、在宅の形を取る方向性をとり始めた。病状の安定(軽快・固定)した患者、終末期で治療の可能性がなく在宅を希望する患者など、さまざまな病状のものが訪問看護ステーションを利用するようになりつつある。
すでに、全国で数千ヶ所に訪問看護ステーションが作られ、日常の在宅での介護を受け持ち、活動を行っている。ここには、医師、病院派遣の看護婦、ステーション専属の看護婦・保健婦、OT、PT、ケースワーカーなど様々なスタッフが集まって、在宅医療の下にある患者の生活の質(QOL)、活動度(ADL)の改善と向上のため活動を行っている。ひとりの在宅患者を囲んで、複数の専門職種がかかわりながら、患者と家族にとって最も価値のある医療を、効率良く提供できるように計画を立て、介護と医療を行う。
しかし、このようにして多くの専門職種を含むチームにおいて、各職種の意見を反映・調整・総合しつつ、介護と医療の方針決定を行うことには、多くの問題がある。今後、さまざまな専門職種の役割分担とコーディネーションの手法を、医療の質と効率性の面から検討し、さらに、情報システムなどの活用によってより良い実現を目指さねばならない。
今回、訪問看護を例にとって、チームの中で個々のスタッフの能力と役割を統合していく上での、問題点の検討を行った。
研究方法
訪問看護ステーションとして、済生会三田訪問看護ステーションを研究遂行の場とした。
イ)訪問看護婦(4名)の訪問記録を集め分析し、ケースワーカー、作業療法士に面接し、業務内容の説明をうけた。
ロ)訪問看護ステーション所長(看護婦)の座長のもとに、主治医師、看護婦、PT、OT、ケースワーカーによる週1回、又は二週に1回の総合検討会を行っているが、これに参加して、訪問看護遂行上の問題点を理解することから始めた。
結果と考察
訪問看護ステーションの業務は病状、点滴、褥創、吸引、リハビリに注意しながら、ほぼ週2-3回の訪問、ホームヘルパー、介護機器の世話、近隣のドクターへのつなぎ、家人の介護の指導、等を行っている。毎週のステーションスタッフの合同ミーティングをもって、訪問看護を旨く遂行しているかどうか問題点を総合討論して、改善し将来の訪問看護ステーションの活動の戦略、戦術としても活用できるよう備える。しかし最も大切で、難しいのは入院から在宅ケアに移行する時点といえる。
イ)主治医は、訪問看護ステーションの患者受け入れの仕事、内容を充分理解していない場合がある。又、患者を訪問看護ステーションに頼むことを遠慮しながらということがある。いつも中心ではないが、在宅となっても主治医として情報を得て、適切な対応をすることが大切である。がんの末期近くの患者では告知がなされておらず、家人にもなされない場合がある。末期になる程患者は納得が行かず不安が増強し、家族もどう答えればよいか苦労をすることとなる。患者が在宅になって、病院主治医、近隣の開業医と連絡を取って、上手にやって来ているが、病歴情報提供書と電話では、限界がありそうである。
ロ)同様に入院中の病棟の婦長や看護婦が在宅を希望し、退院して行く折に、療養指導が充分なされていないことが少ない。手違いもあるためか、全くなされていない様にみえることさえある。
ハ)以後ケアの主役となるべき家人も病棟又は、訪問看護ステーション側とよく話し合いをすることが不可欠となる。やって来たからOKという話が他の病人での経験ということもあり、混乱する。又、がんの末期の患者に家の人が告知を拒否する場合があり、心の訪問看護に問題は沢山存する。
ニ)点滴薬の混乱の処方を病院薬局でせずということがあり、理解を得て行く必要がある。院外処方をもっと取り入れること。
ホ)訪問看護ステーションの話し合いは、今までの所(1年間)何とか旨く乗り切って来たが、問題がおきてきて、解決すべき時のリーダー、誰からの情報が最も大切かの判断を下すことの難しさがある。仲好しクラブか真のよい意見かは疑うべきだし、タイラントが差配することも不可である。チーム医療のむつかしさの最大のものはここにあると思われる。小人数の色々な専門をもつ人々が集まって行われる討論の良い点、困難な点についても考慮してみたい。
へ)今まではおきていないが、将来、医療過誤に類する訴えが生ずる可能性もなしとしない。その時の責任は、どこにあるか。この問題は病院内のそれとは異なる。医師がその中心であることはむしろ少ないと思われるからである。外国の事例等も参考になろう。
結論
病院という限られた場から、医療が在宅へと広げられ、介護が実践されていく中で、様々な専門職種からなるチームのかかえる問題点を考慮し、問題の解決を図るべきである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)