移植歯および再植歯の凍結保存に関する研究

文献情報

文献番号
199700051A
報告書区分
総括
研究課題名
移植歯および再植歯の凍結保存に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
花田 晃治(新潟大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中島民雄(新潟大学歯学部)
  • 前田健康(新潟大学歯学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
歯の自家移植は、人工物ではなく自分の歯で再び咬合が可能になる画期的な治療方法である。歯の自家移植は、本来の健康な歯周組織を自分自身に移植するものであるので、健康な歯に近い機能を有するものであり、歯本来の生体防御反応が期待できると考えられる。歯の欠損を有する場合には、当然そのような歯を利用することができる。現在一部でおこなわれている自家移植は即時移植であるが、様々な理由で即時移植が不可能な症例でも、他臓器においても研究が進められている凍結保存が実用化すれば歯の移植の適応をより拡大できる。自分の歯による咬合機能の回復は、人工物と比較して審美的にも機能的にも著しい向上が見込まれるので、本研究の目的は、凍結保存歯の自家移植を安全に行うことができるような基礎的データを確立し、臨床術式を確立すると同時に、凍結保存を実際に稼働させ、臨床応用を安全に行える体制を確立することである。また移植歯を対象とした矯正治療を行う上で、最適な開始時期を決めるのに必要な基礎データを得る目的で、イヌを用いて歯根膜の治癒過程、特に歯根膜神経の再生過程について組織学的に検索した。さらに凍結保存の影響についてラットを用いて検討した。
研究方法
動物実験で、予備的にラットおよびイヌを用いて、組織学的に再植時の歯根膜の変成や再生状態を観察した。ラットについては、頭頂骨に移植窩を形成し、即時移植した群、根面を乾燥させてその後移植した群、また細胞培養液に浸漬しプログラムフリーザーにて凍結操作を行い、1週間液体窒素中に凍結保存したもの、凍害防止剤中で急速凍結を行った群について検討を行った。イヌを用いた研究では、第一前臼歯を抜歯し、生理食塩水にて洗浄後、直ちに抜歯窩に戻した。再植後1、2、3、4週目に切片作成し、組織観察を行った。また、歯の実際に使用する条件下で凍結保存の機器を用いて、凍結保存の臨床応用の際のプロトコールを作成するために、温度曲線を測定した。同時に、凍結器材については、長期間フルタイムの稼働可能であるか確認した。また凍結保存しない即時自家移植の蓄積臨床データを分析を加えた。
結果と考察
イヌの実験では、歯頚部と根尖部付近では、既に再植後1週において歯槽骨と歯根を繋ぐ線維連絡が認められた。ま再植後2週では根尖部付近の既存の太い神経線維束が歯根中央部まで観察された。ラットの実験では、60%の歯で歯髄の生存が確認された。歯髄壊死が観察された群では、炎症性歯根吸収や置換性歯根吸収が観察された。プログラムフリージングした群では、即時移植群と同様な傾向がみられた。また凍結の際のプログラムフリーザー曲線では大きな凝固潜熱を回収することが可能であった。また、従来の即時移植を行った矯正関連症例について分析を行ったところ、100%が生着しており、歯根膜治癒でも70%以上の値が確認された。したがって歯の凍結保存は、歯の自家移植の適応症例を拡大し、自分の歯で咬合する可能性を伸ばすために有効な手段である可能性がさらに示唆された。これまでの研究結果により、DMSOを凍結防止剤として用いプログラムフリーザーによって緩速凍結を行うことにより、歯の凍結保存が可能であることが明らかになった。再植後の神経繊維の治癒経過の観察を行い、凍結保存後の移植歯の障害や歯根膜再生についてより詳細な形態学的研究を行うための予備的な研究を完了した。これらの動物実験による検討の結果、動物種による変異が大きいことは明らかになったが、その点を考慮して実験を継続する必要がある。さらに自家移植歯を用いた臨床結果から、移植歯の生着率が高いことが確認され移植歯の利用により歯槽骨の増加が可能である可能性も示唆された
結論
歯の凍結保存は、歯の自家移植の適応症例を拡大し、自分の歯で咬合する可能性を伸ばすために有効な手段である可能性が強く示唆された。DMSOを凍結防止剤として用いプログラムフリーザーによって緩速凍結を行うことにより、歯の凍結保存が可能であることが明らかになった。しかし、最近の新しい凍結防止剤や凍結保存方法などに関する検討は不十分であるので、さらに基礎的にも組織化学、免疫化学的手法を用いたより詳細な形態学的研究を行い、凍結保存後の移植歯の障害や歯根膜再生についてより詳細な形態学的研究を行う必要がある。歯の凍結保存とその歯の自家移植および再植を実際に臨床応用する体制を維持し、臨床応用に備えて凍結装置および凍結保存装置を常に稼働しておく必要がある。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)