先天色覚異常の診断ならびに程度判定に関する研究

文献情報

文献番号
199700050A
報告書区分
総括
研究課題名
先天色覚異常の診断ならびに程度判定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
北原 健二(東京慈恵会医科大学眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 郡司久人(東京慈恵会医科大学眼科)
  • 山口朋彦(東京慈恵会医科大学眼科)
  • 山本真喜子(東京慈恵会医科大学眼科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天色覚異常においては、その診断法や程度判定が心理物理学的方法によってなされているが、検査機器やその検査手技によって、また被検者の心理状態により色覚異常の診断や程度判定が異なる欠点を有している。このため、色覚異常者におけるプライバシーの問題や職業適性、さらに民間療法とも言える治療法に関する社会的な諸問題が生じていることが指摘される。したがって本研究は、分子生物学的手法を用いた客観的な診断法および程度判定法について検討することにより、これらの社会的混乱の回避に寄与することを目的とするものである。
そこで、正常色覚の個人差ならびに先天赤緑色覚異常の診断および程度判定について、心理物理学的方法と分子生物学的方法により、その表現型と遺伝型について比較検討する。
研究方法
正常色覚の男性72名を対象とし、末梢静脈血からヒトゲノムDNAを抽出し、定量的PCR-SSCP法を用いて赤錐体視物質をコードする遺伝子(赤遺伝子)一個に対する緑錐体視物質遺伝子(緑遺伝子)の数を分析した。また180番目のアミノ酸がセリンまたはアラニンという多型性を含む各エキソンの多型性について分析した。一方、心理物理学的方法として、アノマロスコープによりRayleigh等色および分光感度測定を施行し、緑遺伝子の数および視物質遺伝子の多型性と比較検討した。 
先天赤緑異常21名を対象とし、正常色覚と同方法により視物質遺伝子について分析した。心理物理学的分析としては、アノマロスコープによるRayleigh等色と色相配列検査であるpanel D-15によって診断ならびに程度判定を行った。
結果と考察
正常色覚者における緑遺伝子数は個人差があり、赤遺伝子一個に対し、緑遺伝子は1個から4個を有する被検者が存在することが判明した。その内訳は、緑遺伝子1個の被検者が38%、2個が40%、3個が18%、4個が4%であった。これらの緑遺伝子数とRayleigh等色ならびに分光感度測定結果と比較検討した結果、相関はみられなかった。
視物質遺伝子の多型性については、現在まで報告されている多型性が日本人男性においても存在することが確認された。しかし、その頻度は、白人に比べ少ないことが解った。これらの多型性と心理物理学的測定結果と比較した結果、赤遺伝子の180番目のアミノ酸におけるセリンとアラニンの多型性とRayleigh等色とにおいて相関がみられらた。以上の結果から、色覚の個人差の要因として、視物質遺伝子の多型性が関与していることが確認された。この視細胞(視物質)の個人差以外に視物質の発現量、および視神経伝達過程にも個人差があることが推察されるため、色感覚は個々人により異なることが明らかにされたといえる。
先天赤緑色覚異常については、赤または緑遺伝子の欠失、および一つの赤または緑遺伝子が赤遺伝子部分と緑遺伝子部分からなるハイブリッド(融合)遺伝子説が提唱されている。本研究においても、赤・緑融合遺伝子または緑・赤融合遺伝子の存在が確認された。また、第1異常では、頭側が赤遺伝子、尾側が緑遺伝子からなる赤・緑融合遺伝子のみのタイプ、これに正常緑遺伝子が続くタイプが存在した。一方、第2異常においては、赤遺伝子のみで緑遺伝子が欠失しているタイプ、赤遺伝子に緑・赤融合遺伝子が続くタイプが確認された。これらの遺伝子型と心理物理学的結果と比較した結果、21例中18例においては、遺伝子型て心理物理学的診断および程度判定の説明が可能であった。しかし、3例においては遺伝子型から診断および程度判定の説明が困難であった。
以上、先天赤緑異常の遺伝子型と表現型を比較検討した結果、現行の検査器の結果は、遺伝子構造から説明困難な例が存在することが判明した。つまり、現行の検査器では、アノマロスコ-プといえども、2色型(色盲)と異常3色型(色弱)の鑑別は困難であることが示された。したがって、職業適性などで、色弱は可、色盲は不可とする基準には問題があること、程度判定は、色弱と色盲の2群より、現存する程度判定器のうち最も理論的で、信頼があるパネルD-15テストにより、軽度と強度の2群に区分することが無難であることをが示唆された。
今後、分子生物学的診断法の精度を向上させる方法や、女性保因者の遺伝子型の解析などさらに検索を要するものと考える。
結論
日本人の色覚正常者において視物質の多型性が存在し、赤遺伝子の180番目のセリンとアラニンの多型性が、色覚の個人差に関与ていることが証明された。また先天赤緑色覚異常については、遺伝子型から心理物理学的診断および程度判定の説明が困難な例が存在した。したがって、現時点では分子生物学的検査と心理物理学的検査の併用により、より正確な臨床診断を行えることが示唆された。

公開日・更新日

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