手関節運動の神経機構の研究

文献情報

文献番号
199700047A
報告書区分
総括
研究課題名
手関節運動の神経機構の研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
角田 尚幸(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
  随意運動、特に巧緻運動の調節には、感覚器からの末梢の情報が重要である。筋紡錘は筋の中に存在し、その数・求心性線維の太さ・中枢神経における線維連絡から、運動調節に最も密接に関与する感覚器であると考えられている。従って、手関節運動の神経機構の研究において筋紡錘の機能を調べることが極めて重要である。
筋紡錘は筋の長さとその変化に反応する。その反応は動的および静的紡錘運動神経から大きな影響を受ける。即ち、動的紡錘運動神経は筋紡錘Ia線維の動的反応を増加させる。一方、静的紡錘運動神経はIa・II線維の平均発火頻度を増加させ、動的反応を減少させる。随意運動における筋紡錘の機能を解明するには、2種類の紡錘運動神経の活動状態を知る必要がある。
ヒトの随意運動時、紡錘運動神経の活動が増加することが知られている。しかし、動的・静的紡錘運動神経の効果を分離して調べた研究はない。本研究では、ヒト筋紡錘の活動を記録し、筋の受動的伸展・短縮に対する動的反応を調べた。実験結果から、随意収縮時、動的・静的紡錘運動神経の両者の活動が増加することが示された。
研究方法
  健康被験者15人(男4、女11、20-37才)で実験を行った。実験の目的・手順を説明し承諾書を得た。被験者は安楽椅子に座り、左前腕を回内・回外の中間位で固定した。手はトルク・モーターにつながれ、手関節の角度・速度・トルクを計測した。タングステン微小電極を肘関節から5cm近位で橈骨神経に刺入し、橈側手根伸筋由来の筋紡錘求心性IaおよびII線維の活動を記録した。同筋の活動を表面電極で記録した。
トルク・モーターにより、手関節を振幅16度で受動的に屈曲(0.94s)・保持(3.87s)・伸展(1.45s)させ、筋紡錘IaおよびII線維の反応を調べた。安静時と、一定の随意収縮時で反応を記録した。筋の伸展に対する求心性線維の反応を定量的に測定した。即ち、伸展終了直前と終了後の発火頻度の差を測定し、ダイナミック・インデックス dynamic index とした。
結果と考察
  34ヶの筋紡錘求心性線維を記録した。23ヶのIa線維、5ヶのII線維で、等尺性収縮中、活動の増加を認めた。これら28ヶの求心性線維の筋の伸展・屈曲に対する動的反応を調べた。
Ia線維は、随意収縮に伴って、伸展時および伸展後の発火頻度が増加した。しかし、伸展時および伸展後の関係は個々の線維で異なっていた。その範囲は、伸展時の活動のみ増加、伸展時および伸展後筋長一定時の活動が増加、筋長一定時の活動のみ増加、とまとめられた。前者では筋の伸展に対する動的反応が増加、後者では低下した。II線維は筋長一定時の活動だけが増加し、動的反応が低下した。
動的反応の変化を定量的に調べるため、安静時と随意収縮時の dynamic index の差を、個々の線維で測定した。23ヶのIa線維の内、10ヶで dynamic index が増加、13ヶで低下した。範囲は -10 imp/s から 20 imp/s であった。5ヶのII線維では dynamicindex の変化は小さく、2 imp/s 以下であった。dynamic index の変化は、収縮力、筋長一定時の発火頻度の増加とは関係がなかった。
次に、筋を受動的に短縮させた時の反応について調べた。安静時、Ia線維の活動は筋短縮時に突然停止する。しかし、随意収縮時には、Ia線維の活動は維持された。これは、23ヶのIa線維の内17ヶで観察された。
さて、筋伸展に対する動的反応 dynamic index の増加は、動的紡錘運動神経の作用が十分強いことを意味し、約半数のIa線維で認められた。Dynamic index の低下は、静的紡錘運動神経の作用がより強いことを意味する。筋の短縮時のIa線維の活動の維持は、紡錘運動神経の強力な作用によってもたらされ、静的紡錘運動神経の作用を意味する。これは、大部分のIa線維で観察された。
結局、随意運動中、動的・静的紡錘運動神経双方の活動が増加することが示された。これは、ヒト中枢神経系が筋紡錘の平均発火頻度だけでなく、同時に、伸展に対する反応性も調節していることを意味する。今回の実験では、動的紡錘運動神経の作用が簡単な運動課題でも認められた。これは、動的紡錘運動神経の活動が筋の収縮と並行し、運動の調節に関与していることを示唆する。"新しく、難しい運動課題、あるいは高度の注意力を要求される状況において、動的紡錘運動神経の活動が増加する"、という仮説とは反するものであった。
結論
  ヒト随意運動中、動的・静的紡錘運動神経双方の活動が増加する。これは、ヒト中枢神経系が筋紡錘の平均発火頻度と同時に、伸展に対する反応性を調節していることを意味する。

公開日・更新日

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更新日
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