がん検診に有用な新しい腫瘍マーカーの開発

文献情報

文献番号
200500465A
報告書区分
総括
研究課題名
がん検診に有用な新しい腫瘍マーカーの開発
課題番号
H15-3次がん-018
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
山田 哲司(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 前川 真人(浜松医科大学)
  • 中山 淳(信州大学)
  • 佐々木 一樹(国立循環器病センター研究所)
  • 近藤 格(国立がんセンター研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
65,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年急速に進歩したバイオテクノロジーの先端技術を応用し、従来の概念とは全く異なる腫瘍マーカーを開発しがん検診に応用する事で、難治がんの早期発見による治療成績の向上をさせることを目的とした。
研究方法
下記の1から3のアプローチにて難治性の高い膵がんを中心として新規腫瘍マーカーの検索を行った。
1.プロテオーム解析を用いた腫瘍マーカーの開発
2.糖鎖遺伝子をターゲットとした分子診断法の開発
3.がん特有の遺伝子発現の検出
結果と考察
1.プロテオーム解析を用いた腫瘍マーカーの開発
1)子宮体がんの新規腫瘍マーカー開発
子宮体がん患者92例と対照者34例(子宮脱患者17例、健常者17例)の血清からアルブミン結合ペプチドを四重極搭載の飛行時間型質量分析法にて解析し、感度65% (60/92)、特異度94% (32/34)で子宮体がん患者を検出することが可能であった。

2)膵がんの腫瘍マーカー開発
昨年度までに高精度・高分解能の質量分析と機械学習法で、94% (207/220)の判別率で膵がん患者を診断できる方法を開発した。他施設症例、特に膵がんと鑑別が問題となる慢性膵炎患者を含め25例の解析を行い、再現性を確認した。

3)膵がん培養株の上清ペプチドーム解析
膵がん培養株の上清から同定された1330のペプチドが344種の前駆タンパク質に帰属することを明らかにした。

4)多次元液体クロマトグラフィーによる血清タンパク質のプロテオーム解析
肺癌患者の血清タンパク質を多次元液体クロマトグラフィーで分画し、高感度の蛍光色素で標識後、二次元電気泳動で定量解析し、健常者と比較して発現差のある58種のタンパク質を質量分析にて明らかにした。

2.糖鎖遺伝子をターゲットとした分子診断法の開発
胃癌患者56例の術中腹水洗浄細胞のα4GnT mRNA発現をRT-PCRで検討し、細胞診の結果と比較した。細胞診が陰性であった44例中14例(32%)はPCRのみが陽性であり、さらにその内13例(93%)は漿膜浸潤があった。

3.がん特有の遺伝子発現の検出
新規RT-PCR-SSCP法を開発し、各種アミラーゼ遺伝子の発現を分別定量した。

結論
今後発生頻度の高い腫瘍を含め、より汎用性の高い腫瘍マーカーの開発に発展させる必要がある。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200500465B
報告書区分
総合
研究課題名
がん検診に有用な新しい腫瘍マーカーの開発
課題番号
H15-3次がん-018
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
山田 哲司(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 前川 真人(浜松医科大学)
  • 中山 淳(信州大学)
  • 佐々木 一樹(国立循環器病センター研究所)
  • 近藤 格(国立がんセンター研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん検診で無症状の段階でがんを発見し、早期に治療を開始することが有効ながん対策法の一つと考えられる。近年急速に進歩したプロテオーム等のバイオテクノロジーの先端技術を応用し、流血中や尿中等に存在する核酸、タンパク質、ペプチドを高感度に検出・定量解析し、腫瘍マーカーとしてがん検診に応用できる可能のある分子を特定することを目的に研究を行った。
研究方法
下記の1から3のアプローチにて難治性の高い膵がんを中心として新規腫瘍マーカーの検索を行った。
1.プロテオーム解析を用いた腫瘍マーカーの開発
2.糖鎖遺伝子をターゲットとした分子診断法の開発
3.がん特有のメチル化DNAの検出
結果と考察
1.プロテオーム解析を用いた腫瘍マーカーの開発
膵がん患者71例と対照者71例の結果を学習セットとして質量と発現量を、support vector machineにて機械学習法を行い、がん患者に固有に見られるタンパク質発現パターンを同定した。このパターンは別の検証セット(膵がん患者33例と健常者45例)の血漿を判別率91.0%(71/78)と高精度に診断できた。さらに既存の腫瘍マーカーであるCA19-9と組み合わせることで病期I期の早期症例を含めた膵がん症例の100%が検出可能であった。
 膵がん血清サンプルにおいてはleucine-rich alpha 2 glycoprotein (LRG)の発現が亢進していることを見出した。

2.糖鎖遺伝子をターゲットとした分子診断法の開発
膵癌患者群の末梢血におけるα4GnT mRNAの陽性率は76.4% でありその発現量は37.50 ± 5.44 (平均 ± 標準誤差)であった。さらに膵癌における各病期別の陽性患者数は, 0期 0% (0/1例)、II期 66.7%(2/3例)、III期 87.5%(7/8例)、IV期 76.7%(33/43例)であり、またα4GnT mRNAの発現量は病期の進行とともに増加の傾向にあった。

3.がん特有のメチル化DNAの検出
SARP2遺伝子のメチル化は膵癌細胞株3/12、白血病細胞株6/6、消化器系癌細胞株12/12、脳腫瘍4/6に認められた。
結論
現在までに上記以外に胃がん、膵がん、腎細胞がん、子宮体がんの早期診断や病態の診断に応用が期待できる腫瘍マーカーを開発した。今後発生頻度の高い腫瘍を含め、より汎用性の高い腫瘍マーカーの開発に発展させる必要がある。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500465C

成果

専門的・学術的観点からの成果
がん検診で無症状の段階でがんを発見し、早期に治療を開始することが有効ながん対策法の一つと考えられる。本研究班では発見が困難であり、難治性の高い膵がんを早期に診断できる血液診断法の開発を行った。高分解能質量分析法にて膵がん患者と対照者の血漿のプロテオーム解析を行い、機械学習法にて膵がん患者を94.1%(207/220)の判別率で診断できるタンパク質発現パターンを同定した。さらに既存の腫瘍マーカーであるCA19-9と組み合わせることで病期I期の早期症例を含めた膵がん症例の100%が検出可能であった。
臨床的観点からの成果
Computerized tomography (CT)やpositron emission tomography (PET)などの機器は設置・運営に高額な経費がかかり、また放射線被爆の問題も指摘されており、高危険群(high-risk group)でない無症状者に対する検診として行うには問題がある。本研究班の成果は全国どの医療施設でも同じ条件で、被験者の負担が少なく、非浸襲的に得られる血液を検体に用い、精密検診を行うべき症例を効率良く絞るプレスクリーニングに現実性があることを示した。
ガイドライン等の開発
該当しない。
その他行政的観点からの成果
平成18年1月26日、首相官邸にて開かれたBT戦略会議第8回会合にて、内閣総理大臣、関係閣僚及び有識者メンバーに垣添忠生国立がんセンター総長から、本研究班で得られた成果である「プロテオーム解析を用いた膵がんの新規血液診断法の開発」について報告した。同会合の詳細な内容は次のWebに記載されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/bt/dai8/8gijisidai.html
その他のインパクト
平成17年10月18日にNHKテレビ・ラジオで「すい臓がんの早期診断法開発」との表題で全国放送された以外、日本経済新聞(平成17年9月14日付、同年9月26日付)、日経産業新聞(平成17年9月27日付、同年11月7日付)、Japan Medicine(平成17年11月14日付、平成18年1月16日付)などで報道された。またこれらの報道により一般の方から多くの問い合わせが国立がんセンターに直接あった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
82件
その他論文(和文)
27件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
80件
学会発表(国際学会等)
36件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計9件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Miyakura Y, Maekawa M, et al.
Methylation profiles of the MLH1 promoter region and its relationship to colorectal carcinogenesis.
Genes, Chromosomes & Cancer , 35 , 17-25  (2003)
原著論文2
Fujii K, Kondo T, Yamada T, et al.
Database of two-dimensional polyacrylamide gel electrophoresis of proteins labeled with CyDye DIGE Fluor saturation dye.
Proteomics , 6 , 1640-1653  (2006)
原著論文3
Mori Y, Kondo T, Yamada T, et al.
Two-dimensional electrophoresis database of fluorescence-labeled proteins of colon cancer cells.
J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. , 823 , 82-97  (2005)
原著論文4
Seike M, Kondo T, Yamada T, et al.
Proteomic signatures for histological types of lung cancer.
Proteomics , 5 , 2939-2948  (2005)
原著論文5
Maekawa M, et al.
Methylation of mitochondrial DNA is not a useful marker for cancer detection.
Clin Chem , 50 , 1480-1481  (2004)
原著論文6
Maekawa M, et al.
Pilot study of arbitrarily primed PCR-single stranded DNA conformation polymorphism analysis for screening genetic polymorphisms related to specific phenotypes.
Clin Chim Acta , 355 , 181-184  (2005)
原著論文7
Ishikawa J, Maekawa M, et al.
Increased creatine kinase BB activity and CKB mRNA expression in patients with hematologic disorders: relation to methylation status of the CKB promoter.
Clin Chim Acta , 361 , 135-140  (2005)
原著論文8
Izumi M, Maekawa M. et al.
Increased serum alkaline phosphatase activity originating from neutrophilic leukocytes.
Clin Chem , 51 , 1751-1752  (2005)
原著論文9
Shimizu F, Nakayama J, et al.
Usefulness of the real-time reverse transcription-polymerase chain reaction assay targeted to a1,4-N-acetylglucosaminyltransferase for the detection of gastric cancer.
Lab Invest , 83 , 187-197  (2003)
原著論文10
Nakajima K, Nakayama J, et al.
Expression of gastric gland mucous cell-type mucin in normal and neoplastic human tissues.
J Histochem Cytochem , 51 , 1689-1698  (2003)
原著論文11
Ishizone S, Nakayama J, et al.
Clinical utility of quantitative RT-PCR targeted to a1,4-N-acetylglucosaminyltransferase mRNA for detection of pancreatic cancer.
Cancer Sci , 97 , 119-126  (2006)
原著論文12
Maekawa M, et al.
Hypermethylation of the promoter for the LDHB gene in cancer causes silencing of lactate dehydrogenase isoenzymes 1 to 4.
Clin Chem , 49 , 1518-1520  (2003)
原著論文13
Seike M, Kondo T, Yamada T, et al.
Proteomic signature of human cancer cells.
Proteomics , 4 (9) , 2776-2788  (2004)
原著論文14
Yokoo H, Kondo T, Yamada T, et al.
Proteomic signature corresponding to alpha fetoprotein expression in liver cancer cells.
Hepatology , 40 (3) , 609-617  (2004)
原著論文15
Hagisawa S, Nakayama J, et al.
Expression of core 2 b1,6-N-acetylglucosaminyltransferase facilitates prostate cancer progression.
Glycobiology , 15 , 1016-1024  (2005)
原著論文16
Honda K, Yamada T, et al.
Possible Detection of Pancreatic Cancer by Plasma Protein Profiling.
Cancer Res. , 65 (22) , 10613-10622  (2005)
原著論文17
Hayashida Y, Yamada T, et al.
E-Cadherin Regulates the Association between b-Catenin and Actinin-4.
Cancer Res. , 65 (19) , 8836-8845  (2005)
原著論文18
Hara T, Yamada T, et al.
Identification of 2 serum biomarkers of renal cell carcinoma by surface enhanced laser desorption/ionization mass spectrometry.
J Urol. , 174 (4) , 1213-1217  (2005)
原著論文19
Fujii K, Kondo T, Yamada T, et al.
Proteomic study of human hepatocellular carcinoma using two-dimensional difference gel electrophoresis with saturation cysteine dye.
Proteomics , 5 (5) , 1411-1422  (2005)
原著論文20
Nitori N, Yamada T, et al.
Prognostic significance of Tissue Factor in Pancreatic Ductal Adenocarcinoma.
Clinical Cancer Research , 11 (7) , 2531-2539  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-10-06
更新日
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