文献情報
文献番号
199700044A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者(視覚・聴覚障害者等)の保健福祉に関する研究事業の動向に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山内 繁(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
- 矢野英雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
- 数藤康男(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
- 佐藤忠(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
- 柴田貞雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
- 簗島謙次(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
- 岡田喜篤(国立秩父学園)
- 北村俊則(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
障害者の自立と社会参加を促進する施策を立案するに当たって、限られた資源を有効活用するためには、障害者の保健福祉に関する最新の研究成果を取り入れる必要がある。 我が国における障害者の保健福祉に関する研究は、欧米に比べて十分には組織化されてはこなかったため、その成果を障害者施策に取り入れて活用するためには、最近における研究動向を調査、総括して基礎資料としておくことが必要である。本研究はこのような基礎資料として研究動向を明らかにすると共に、さらに研究情報を整備するための方策を検討することを目的とする。
研究方法
障害者の保健福祉に関する研究領域を以下の7領域に分担してその動向の調査を行った。
1. リハビリテーション医学関連研究
2. 視覚障害の医学関連研究
3. 聴覚・言語障害の医学関連研究
4. 知的障害の研究
5. 精神障害の研究
6. 福祉機器関連研究
7. 障害者の心理学・社会学的研究
本年度は、昨年度範囲が広すぎるために十分に調査することが困難であった外部・内部障害を中心とするリハビリテーション医学における研究動向を重点的に調査し、その他の分野については1997年度における動向についてそれ以前の10年間との比較を行い、新規動向が現れていないかどうかについて検討した。
1. リハビリテーション医学関連研究
2. 視覚障害の医学関連研究
3. 聴覚・言語障害の医学関連研究
4. 知的障害の研究
5. 精神障害の研究
6. 福祉機器関連研究
7. 障害者の心理学・社会学的研究
本年度は、昨年度範囲が広すぎるために十分に調査することが困難であった外部・内部障害を中心とするリハビリテーション医学における研究動向を重点的に調査し、その他の分野については1997年度における動向についてそれ以前の10年間との比較を行い、新規動向が現れていないかどうかについて検討した。
結果と考察
1) 研究領域毎の特徴
研究領域毎の具体的な動向については分担研究者の報告に詳しいが、概要をまとめると以下のようになる。
(i)リハビリテーション医学関連領域
リハビリテーション医学関連領域としては、日本リハビリテーション医学会、日本理学療法士学会、日本作業療法士学会の3つの学会に着目し、最近5年間にこれら学会の機関誌上に発表された論文ならびに学術研究集会において発表された論文について、対象・疾患、対象への接近方法、学問的分野の3つの切り口における共通の分類法を用いて解析した。
これらの3つの学会において特徴的であったのは、脳卒中に関する研究がどの領域においても大きな比重をもっていることである。加えて、理学療法では骨関節疾患が、作業療法では精神心理的疾患が主要な疾患となっている。
研究方法についてはいずれの学会においても基礎研究、病態、リハビリテーション評価、治療法などが上位を示している。作業療法では、職域の特徴から日常生活活動に多くの研究が見られる。
研究分野では、どの学会における論文においても運動学にかかわるものが多い。
( ii )視覚障害
昨年までの10年間に引き続き中途失明とロービジョンに関する論文が大勢を占めているが、重複障害に関する論文が増えているのが新しい特徴である。
疾患としては、糖尿病網膜症、高次脳機能障害、網膜色素変性症に関するものが多かった。
( iii )聴覚・言語障害
聴覚障害では基礎、検査・評価に関する論文が多いが、新しい医療的アプローチの臨床応用および聴覚・言語訓練との連携の傾向が見られ、今後更に期待される。聴覚障害以外では、音声障害・嚥下障害に関する基礎研究、臨床応用、訓練法の開発などの活発な報告が目立った。
( iv)知的障害
本年はアメリカにおける最近の動向との比較を行った。アメリカにおいては家族の問題と行動面に困難をともなう人の問題に関する研究が進められており、これらのための援助システムの構築を切り開きつつあるのが特徴的であった。
(v) 精神障害
昨年の報告においても指摘したことであるが、我が国における精神障害に関する研究のあまりに少ないことが特徴としてあげられる。精神障害に対する支援体制の確立のためにも、この分野の研究が活発になることが期待される。昨年、日本精神障害者リハビリテーション学会の機関誌として「精神障害とリハビリテーション」が刊行されたが、精神障害に関する研究の中心として期待される。
(vi ) 福祉機器関連
この領域では昨年までの動向に引きつづき、肢体不自由者のための移動・コミュニケーション機器の実用化研究を軸として展開している。最近の傾向としては、病院・リハセンターでの研究に比べて大学や国公立研究所の研究が増え、実用化研究は減って評価研究と基礎研究が増える傾向にある。これらは、研究費の配分、工学系大学における福祉関連部門の新設などを反映していると思われるが、今しばらく見守るべきであろう。
(vii ) 心理・社会学的研究
この領域の動向を一口で表現するのは困難であるが、従来の研究に加え、脳・認知科学、家族や地域などの新しいアプローチが見られる。
(viii )研究情報整備のための施策
2年間にわたって障害に関わる各領域の最近の研究動向に関する調査研究を行ってきたが、単年度の調査研究には限界があることを痛感した。
メインストリームの学問分野に比べて、障害研究における研究情報の問題点は、学際的性格のために、関連する文献が広範な雑誌に分散しており、かつ、その存在が希薄なところにある。そのため、論文の収集だけでも多大の費用と時間を要する点にある。
アメリカにおいては NIDRR の委託によって Macro International によって RehabData が障害研究に関する文献データベースとして公開され、広く活用されている。障害研究に関する同様な文献データベースを構築するためには、関連する図書、雑誌を所蔵したライブラリーとそれより障害研究に関連した文献を収集、提供できるよう整理する作業を組織することである。このような作業は、ドクメンテーションの専門家によるべきであり、研究者はそのためのアドバイザーとしての役割を果たすべきであろう。
研究領域毎の具体的な動向については分担研究者の報告に詳しいが、概要をまとめると以下のようになる。
(i)リハビリテーション医学関連領域
リハビリテーション医学関連領域としては、日本リハビリテーション医学会、日本理学療法士学会、日本作業療法士学会の3つの学会に着目し、最近5年間にこれら学会の機関誌上に発表された論文ならびに学術研究集会において発表された論文について、対象・疾患、対象への接近方法、学問的分野の3つの切り口における共通の分類法を用いて解析した。
これらの3つの学会において特徴的であったのは、脳卒中に関する研究がどの領域においても大きな比重をもっていることである。加えて、理学療法では骨関節疾患が、作業療法では精神心理的疾患が主要な疾患となっている。
研究方法についてはいずれの学会においても基礎研究、病態、リハビリテーション評価、治療法などが上位を示している。作業療法では、職域の特徴から日常生活活動に多くの研究が見られる。
研究分野では、どの学会における論文においても運動学にかかわるものが多い。
( ii )視覚障害
昨年までの10年間に引き続き中途失明とロービジョンに関する論文が大勢を占めているが、重複障害に関する論文が増えているのが新しい特徴である。
疾患としては、糖尿病網膜症、高次脳機能障害、網膜色素変性症に関するものが多かった。
( iii )聴覚・言語障害
聴覚障害では基礎、検査・評価に関する論文が多いが、新しい医療的アプローチの臨床応用および聴覚・言語訓練との連携の傾向が見られ、今後更に期待される。聴覚障害以外では、音声障害・嚥下障害に関する基礎研究、臨床応用、訓練法の開発などの活発な報告が目立った。
( iv)知的障害
本年はアメリカにおける最近の動向との比較を行った。アメリカにおいては家族の問題と行動面に困難をともなう人の問題に関する研究が進められており、これらのための援助システムの構築を切り開きつつあるのが特徴的であった。
(v) 精神障害
昨年の報告においても指摘したことであるが、我が国における精神障害に関する研究のあまりに少ないことが特徴としてあげられる。精神障害に対する支援体制の確立のためにも、この分野の研究が活発になることが期待される。昨年、日本精神障害者リハビリテーション学会の機関誌として「精神障害とリハビリテーション」が刊行されたが、精神障害に関する研究の中心として期待される。
(vi ) 福祉機器関連
この領域では昨年までの動向に引きつづき、肢体不自由者のための移動・コミュニケーション機器の実用化研究を軸として展開している。最近の傾向としては、病院・リハセンターでの研究に比べて大学や国公立研究所の研究が増え、実用化研究は減って評価研究と基礎研究が増える傾向にある。これらは、研究費の配分、工学系大学における福祉関連部門の新設などを反映していると思われるが、今しばらく見守るべきであろう。
(vii ) 心理・社会学的研究
この領域の動向を一口で表現するのは困難であるが、従来の研究に加え、脳・認知科学、家族や地域などの新しいアプローチが見られる。
(viii )研究情報整備のための施策
2年間にわたって障害に関わる各領域の最近の研究動向に関する調査研究を行ってきたが、単年度の調査研究には限界があることを痛感した。
メインストリームの学問分野に比べて、障害研究における研究情報の問題点は、学際的性格のために、関連する文献が広範な雑誌に分散しており、かつ、その存在が希薄なところにある。そのため、論文の収集だけでも多大の費用と時間を要する点にある。
アメリカにおいては NIDRR の委託によって Macro International によって RehabData が障害研究に関する文献データベースとして公開され、広く活用されている。障害研究に関する同様な文献データベースを構築するためには、関連する図書、雑誌を所蔵したライブラリーとそれより障害研究に関連した文献を収集、提供できるよう整理する作業を組織することである。このような作業は、ドクメンテーションの専門家によるべきであり、研究者はそのためのアドバイザーとしての役割を果たすべきであろう。
結論
昨年十分に調査できなかった内部・外部障害を中心としたリハビリテーション医学関連研究の研究動向をあきらかにすることによって、わが国における障害関連研究の趨勢を概観することができた。その他の分野においては基本的な傾向は変わっていなかったが、一部に新たな傾向がうかがえた。
障害研究が広範な領域に分散しており、かつ、存在が希薄であるため、全体を概観するためには comprehensive に研究情報の収集、提供を行うための、何らかの施策が必要であり、RehabData はそのためのモデルの一つとして位置づけるべきであろう。
また、本報告書に見られるように、障害者の保健福祉に関する研究は極めて学際的性格が求められているにもかかわらず、研究の最先端における交流が少なく、それぞれの分野内部での交流に限られているのが現状である。障害者リハビリテーションにおける holistic approach の重要性が世界的にも強調されつつある現在、関連分野間の交流はますます必要となっている。このような現状を打破し、分野間の交流の促進を図ることによって、わが国における障害者保健福祉の研究は質的に向上することが期待される。
このためには、障害者保健福祉の全分野を網羅するような研究集会を組織することが有効であるが、現在、そのような任に堪える学術組織は存在していない。行政、国立試験研究機関、障害者関連組織などの共催による研究集会の組織化に期待するものである。
障害研究が広範な領域に分散しており、かつ、存在が希薄であるため、全体を概観するためには comprehensive に研究情報の収集、提供を行うための、何らかの施策が必要であり、RehabData はそのためのモデルの一つとして位置づけるべきであろう。
また、本報告書に見られるように、障害者の保健福祉に関する研究は極めて学際的性格が求められているにもかかわらず、研究の最先端における交流が少なく、それぞれの分野内部での交流に限られているのが現状である。障害者リハビリテーションにおける holistic approach の重要性が世界的にも強調されつつある現在、関連分野間の交流はますます必要となっている。このような現状を打破し、分野間の交流の促進を図ることによって、わが国における障害者保健福祉の研究は質的に向上することが期待される。
このためには、障害者保健福祉の全分野を網羅するような研究集会を組織することが有効であるが、現在、そのような任に堪える学術組織は存在していない。行政、国立試験研究機関、障害者関連組織などの共催による研究集会の組織化に期待するものである。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-