公衆衛生従事者の研修体制と保健所の教育機能

文献情報

文献番号
199700041A
報告書区分
総括
研究課題名
公衆衛生従事者の研修体制と保健所の教育機能
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
久道 茂(東北大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域保健法の施行などに伴って、地域保健に関わるすべての公衆衛生従事者の専門的機能(特に、健康問題の把握と分析、健康政策の立案と評価に関する調査・研究機能)の質的水準の向上が望まれている。しかしながら、公衆衛生行政に関わる職種に対する養成・生涯教育のシステムは、わが国では十分に整備されているとは言い難い現状である。全国の医科系大学の衛生学・公衆衛生学分野の講座担当教授を組織している衛生学・公衆衛生学教育協議会は医学生に対する卒前の公衆衛生学の教育のみならず、公衆衛生関連分野の幅広い各種専門職種に対する卒後教育および生涯研修体制を確立し整備するために教育研修内容と実施体制について組織的な調査・研究活動を続けている。全国の衛生学・公衆衛生学講座スタッフおよび公衆衛生院における人材と施設が全国的な保健所網と協力することにより独自の公衆衛生従事者の教育・研究システムを整備することが本研究の目的である。
研究方法
衛生学・公衆衛生学教育協議会の会員を研究協力者として以下の研究を行った。全国の医学生を対象としたサマーセミナーを開催し、衛生学・公衆衛生学に関する卒前教育のあり方と大学における衛生学公衆衛生学の教育研究者の養成・確保のあり方について検討した。さらに全国の衛生学・公衆衛生学の担当教授を対象に、卒後教育としての大学院教育とくに連合大学院に関するアンケート調査を実施し、そのカリキュラムの内容及び関与の可能性などに関する実態を明らかにした。行政職としての公衆衛生医における調査・研究能力の向上にむけた支援のあり方に関して検討した。衛生学・公衆衛生学関連学会の協力を得て、衛生学・公衆衛生学の教育と研究に関する用語の統一を試みた。以上の研究成果をまとめる形で、全国の医科系大学の衛生学・公衆衛生学の担当教官を対象とするワークショップを開催し、公衆衛生従事者の生涯研修体制の確立のためのカリキュラムと体制、衛生学・公衆衛生学の教育と研究に関する諸問題について検討した。
結果と考察
全国の医学生を対象としたサマーセミナーは、平成9年8月4-6日に九州地区国立大学島原共同研修センターにおいて、竹本泰一郎・長崎大学医学部公衆衛生学教授、齋藤 寛・同衛生学教授、二塚 信・熊本大学医学部公衆衛生学教授を中心に開催され、医学生(医科系大学院生を含む)31名と全国の衛生学・公衆衛生学の教官14名の参加を得た。その中で、衛生学・公衆衛生学に関する卒前教育のあり方、その将来展望などについて活発な意見の交換が行われた。これに関する報告書を別途添付する。全国の衛生学・公衆衛生学の担当教授を対象に、国立公衆衛生院をコアとし、医科系大学の衛生学・公衆衛生学関連講座を結ぶ連合大学院構想についてアンケート調査を青山英康・岡山大学医学部衛生学教授を中心に実施した。連合大学院構想とは、「基礎研修(3ヵ月程度)」のコア・カリキュラムに続いて、国立公衆衛生院または医科系大学の衛生学・公衆衛生学関連講座で9ヵ月程度の「専門研修」及び個別課題での特別研修を行うものである。コア・カリキュラムの内容(公衆衛生学総論、疫学総論、生物統計学、プライマリ・へルスケア、健康教育、行動科学、環境保健学、健康政策学、社会福祉、国際保健)を示したうえで、これでよいかどうか(名称の是非や追加すべき科目があるかどうか)、講義などで協力できる科目があるかどうかを尋ねた。その結果、過半数の回答者がコア・カリキュラムの内容を是認していた。追加すべき科目として寄せられた回答の中では、名称に対する意見として「生物統計学」に対するものが多く、「保健衛生統計」とか「情報科学」などの提案があった。追加すべき項目として行攻学や法学などの提案があったが、これらは
「公衆衛生学総論」や「健康政策学」などに組み込めるし、医療経済学、情報管理学、経営管理学などの提案もコア・カリキュラムに組めるものと考えられる。産業保健、精神保健、感染症学、人口学などの提案もあったが、これらも同様にコア・カリキュラムの中で取り上げることができる課題と思われる。回答した100名中67名から、具体的な講義テーマを記して、協力の意志が表示された。したがって、これらを登録と見なして、教育協議会と国立公衆衛生院及び厚生省の担当課の三者によって構成されるカリキュラム編成にかかわる協議の場での審議資料として活用することになるであろう。国立及び公立大学においては「兼業」としての取り扱いが認可されれば協力可能であるとの回答が多く、私立大学においては大学間の差が認められた。特に、「専門研修」への協力については大学間のみならず講座別の体制による差が認められた。同じアンケートにおいて学会認定医制度あるいは公衆衛生・予防専門医制度の設立について意見を求めたところ、国立と私立との間に差が認められ、私立大学で肯定的であるのに対して国立では否定的な回答が多かった。Academic degreeというよりはProfessional degreeとしての保健所長や行政職との関連での“Master of Public Health"の認定には肯定的でも、公衆衛生学の幅広い分野での実践と結びつけての「認定医」や「専門医」については、各学会での取り組みに期待せざるを得ないと考えられた。衛生学・公衆衛生学関連学会の協力を得て、衛生学・公衆衛生学の教育と研究に関する用語の統一を試みており、稲葉 裕・順天堂大学医学部衛生学教授を中心にその成果を用語集として今後、とりまとめる予定である。医師国家試験における衛生学・公衆衛生学関連問題に対する検討は、岡崎 勲・東海大学医学部地域保健学教授を中心に行われた。以上の研究成果をまとめる形で、全国の医科系大学の衛生学・公衆衛生学の担当教官を対象とする公開ワークショップを三角順一・大分医科大学公衆・衛生医学教授を中心に平成10年1月31日に開催し、公衆衛生従事者の生涯研修体制の確立のためのカリキュラムと体制、衛生学・公衆衛生学の教育と研究に関する諸問題について検討した。
結論
優秀な人材を公衆衛生分野(教育・研究職および行政職)に確保するとともに、地域における健康問題の解決に必要な保健所の医師および公衆衛生従事者の行政能力および調査・研究機能を強化するためには、衛生学・公衆衛生学教育体制(卒前および卒後)の強化が必要である。この趣旨のもとに、全国の医科系大学の衛生学・公衆衛生学教授により構成される衛生学・公衆衛生学教育協議会の会員を研究協力者として組織し、調査研究を行った。その結果、衛生学・公衆衛生学教育体制(卒前および卒後)の強化を図るうえで、国立公衆衛生院と医科系大学の衛生学・公衆衛生学関連講座を結ぶ連合大学院構想の重要性が示され、その設立と運営に対して協力する意向を持つ衛生学・公衆衛生学教授が多いことが明らかとなった。連合大学院におけるコア・カリキュラムの内容について検討を行った。今後、連合大学院の実現と対応する資格認定に向けた取り組みを強化する必要がある。

公開日・更新日

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