生命表における高齢者の死因別死亡率に関する研究

文献情報

文献番号
199700037A
報告書区分
総括
研究課題名
生命表における高齢者の死因別死亡率に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
澤井 章(さくら情報システム株式会社)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の死亡状況の推移や地域差を死因別に詳細に分析しようとするときには、その人口集団の年齢構成の違いを考慮する必要がある。生命表によらない方法としては年齢調整死亡率(ADR)、標準化死亡比(SMR)などの手法があるが、年齢調整死亡率の場合には、標準人口としてどのようなものを用いるかという問題があり、年齢構成が年々変化していくなかでは標準人口もその時々の状況に応じて適宜見直していく必要がある。また、標準化死亡比の場合には、標準的な死亡率として何を用いるかという問題があり、死亡率が年々変化していくなかでは、標準的な死亡率をその時々の状況に応じて適宜見直していく必要がある。
これに対し、生命表は、一定期間におけるある人口集団の死亡状況を、死亡率、生存数、定常人口、平均余命などにより表現したものであり、標準的な人口構成あるいは標準的な死亡率を仮定する必要がない。このため、生命表による死亡状況の分析は、時系列で分析をする際、国際的な比較をする際などに極めて有用な手法となる。
本研究では、平成7(1995)年都道府県別生命表を材料に、死亡率の地域差に焦点をあて、高齢者の死亡状況を分析する際の指標としてはどのようなものが考えられるか、また、そのような指標を用いたとき、どのような知見が得られるのかといった点について考察することを目的とした。
研究方法
1.わが国高齢者の死亡状況の概要
平成7年都道府県別生命表により、わが国における65歳の平均余命、死因別死亡確率および特定死因を除去した場合の平均余命の延びの地域差を概括した。
2.死亡状況の年齢構造を考慮した指標の検討
第一に、65歳~69歳、70歳~74歳、75歳~79歳、80歳~84歳の各5歳階級年齢階級別の死亡確率および65歳~74歳の10歳階級および65歳~79歳の15歳階級の死因別死亡確率について、これらを算定することの意義を検討した。第二に、特定死因を除去した場合の平均余命の延びを年齢階級別に分解する方法を検討し、そうして得られた指標がどのような要因が折り重なったものと考える必要があるか、理論的に分析した。
3.算定結果の分析
65歳の平均余命と各年齢階級での(全死因による)死亡確率の相関関係を確認した上、これら2つと年齢階級を特定した死因別死亡確率の関係を分析した。また、年齢階級を特定して特定死因の死亡率を除去した場合の平均余命の延びと平均余命の相関が一般に低いことを踏まえて、この指標の意義について検討した。
結果と考察
第1に、年齢階級を特定した場合の死因別死亡確率は、「ある年齢階級ではどの死因」といったように健康政策上のターゲットを絞りやすくなり、より実戦的な指標になると考えられる。また、この指標によって、死亡状況の地域差はどの年齢階級のどの死因による死亡状況によって決まってくるのかといった点が明らかになるため、今後の生命表の死因分析において積極的に用いていく必要がある。
第2に、特定死因を除去した場合の平均余命の延びは、特定死因を除去した場合の死亡率だけをみても、特定死因による死亡率のみならず、残りの死因による死亡率にも影響されるということのため、死因別死亡確率よりも複雑な要因が絡み合った指標であるということができる。ここで、特定死因を除去した場合の平均余命の延びを年齢階級別に分解した場合、定常人口の増加数が、その年齢階級の定常人口の増加によるものだけでなく、生存数が増加したことによるそれ以降の定常人口の増加によるものとの合計になる。その意味で、特定死因を除去した場合の平均余命の延びを年齢階級別に分解した指標には、年齢階級別の死因別死亡確率より遥かに複雑な要因が折り重なったものと考える必要がある。 第3に、65歳の平均余命と各年齢階級での(全死因による)死亡確率の関係をみると、男性の場合かなり高い相関を有していることがわかった。特に、65歳の平均余命と70歳~74歳の死亡確率の相関係数は92%であり、都道府県別に見た平均余命の地域差の85%は70歳~74歳の死亡確率によって説明される。女性の場合には、死因別死亡確率と平均余命の地域差との相関関係は、前期高齢期では男性ほど強くないが、80歳~84歳では約90%となっており、女性の平均余命の地域差は、80歳以上の後期高齢期の死亡状況を反映したものになっていることが判明した。
第4に、死因別に分析すると、男性の場合、平均余命に影響が大きい死因は、前期高齢期は主に脳血管疾患、後期高齢期は心疾患であることが判明した。行政上の意味合いとしては、たとえば65歳平均余命の相対的な地位が低い地域では、特に70歳前半の脳血管疾患の死亡率を引き下げる努力が必要であろう。5歳階級別の死亡確率と最も相関の高い死因をみると、65歳~74歳では悪性新生物であるが、75歳~84歳では心疾患と、死因の年齢構造の存在が明らかになった。
一方、女性の場合、男性に比べ後期高齢期での脳血管疾患との相関が高くなっている点が注目される。また、年齢階級別に死亡確率と相関の高い死因をみると、65歳~69歳では悪性新生物であるが、70歳~84歳では心疾患となっており、死因の年齢構造の存在が明らかになった。女性の場合に、65歳平均余命と最も相関の高い死亡確率が80歳~84歳のときであることを勘案すれば、この年齢層での心疾患による死亡を低下させていくことが、平均余命の相対的な地位を引き上げるために最も必要なことであるといえよう。
第5に、年齢階級を特定して特定死因の死亡率を除去した場合の平均余命の延びに関しては、平均余命の相関関係を考察することはそれほど意味がない。むしろ特定の年齢階級で特定の死因の死亡率を一定割合低下せしめたときに、平均余命にどの程度の効果があるかを測る指標として活用することの方が意味があると考えられる。
たとえば、平均余命と死亡確率の相関が最も高い70歳~74歳の年齢階級についてみると、悪性新生物による死亡を除去したときの延びが最も高く、この年齢階級で悪性新生物による死亡率を30%低下することができれば、65歳の平均余命を0.31年延ばすことができる。女性の場合、平均余命と死亡確率の相関が最も高い80歳~84歳の年齢階級についてみると、悪性新生物による死亡を除去したときの延びが最も高く、この年齢階級で悪性新生物による死亡率を30%低下することができれば、65歳の平均余命を0.18年延ばすことができる。
結論
以上述べたように、生命表を用いた死因別死亡状況の分析指標として、年齢階級を特定した場合の死因別死亡確率および特定死因を除去した場合の平均余命の延びの2つは、従来のような一定年齢以降の全年齢にわたる死因別死亡確率および特定死因を除去した場合の平均余命の延びでは表しきれない死因の年齢構造に関する詳細な情報を提供することが判明した。たとえば、女性の場合には、80歳以上の後期高齢者の死亡状況の地域差が平均寿命の地域差のほとんどを決定しており、なかでも心疾患と脳血管疾患の死亡率の地域差との関連が深いといった事実や、前期高齢期では悪性新生物による死亡確率と平均余命の関連が大きいが、後期高齢期には心疾患との関連が大きくなるといった事実である。このため、今後は特に年齢階級を特定した死因別死亡確率という分析指標を、生命表の公表に際してあわせて示していくことが有益であると考えられる。
なお、特定死因を除去した場合の平均余命の延びは、その死因のみが平均余命に与える影響を示す指標とは一概に言えない複雑な要因が重なったものであるが、たとえば死因別の死亡率改善の目標としてそれが平均余命に与える効果を算定する場合などにおいて有用な指標になると考えられる。このため、この指標については、なお一層の検討が望まれる。

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