乱用薬物の原料物質管理手法に関する研究

文献情報

文献番号
199700036A
報告書区分
総括
研究課題名
乱用薬物の原料物質管理手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 俊三(財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター)
研究分担者(所属機関)
  • 梶川正幸(関東信越地区麻薬取締官事務所)
  • 渡来雅男(東京都衛生局薬務部薬務課)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物乱用の防止のために国内及び国外における薬物密造に使用され、また、使用されうる原料物質を特定し、その製造、流通及び利用の実態を調査し、これらの原料物質が不正薬物に転用されることを防止するための必要な管理手法等を研究するものである。
研究方法
UNDCP(国連麻薬統制計画)のレポート、INCB(国際麻薬統制委員会)の報告書、「世界の覚せい剤事情」、「麻薬及び向精神薬の密造に用いられる原料物質」国際会議のレポート、UN麻薬特別総会資料等の専門家による翻訳作業を行い、これらの資料を参考に調査、研究、考察を行った。各分担研究者がそれぞれ海外出張において、調査、研究を行い、研究班全員で原料物質を製造している工場を視察調査した。
結果と考察
各種の資料を基礎として、考察と検索を実施し、現状での薬物乱用問題の実態を解明することが可能になったとともに、世界的な薬物乱用状況の密造及び密売の多種多様な動向とその傾向を把握することが出来たが、密売組織の地下組織(犯罪組織)の実態解明には、まだ一層の世界的連携が必要とされる状況にある。しかし、米国をはじめEC各国では、国際的な連携による法規制の整備とネットワークづくりを実施している状況を踏まえて、UNDCPのもとに厳重な監視国際システムが必要である。
世界の原料物質不正流通は、製造国から直接密造国へ輸出されているわけではなく、無規制かまたは規制の緩いロシアやアフリカなどの諸国を中継地として利用する方法、偽造した輸出証明書を利用する方法、複雑な経路を利用する方法などの巧妙な手段により行われている。また、不正薬物の密造には、次々に新たな原料物質を不正に確保して製造する事例が明らかにされている。タイミング良く密造工場を急襲し、密造工場の痕跡から使用されている原料物質が特定されることがあり、その中には、国際規制を受けてない物質がある。例えばフェニルプロパノールアミン(以下PPAという)が挙げられるが、米国を中心に、覚せい剤を密造するのに使用されている物質であり、国際規制の強化が強く求められているところである。わが国においても、徹底的な取締りによって国内規制物質の需要削減を図ると共にわが国から輸出される原料物質が規制物質の密造に利用されることのないように、現在実施している新条約の付表1に掲載されている物質の事前通告の完全実施を継続すると共にコカインの精製に不可欠な過マンガン酸カリウムやヘロインの密造に不可欠な無水酢酸などの付表2の物質についても事前通告制度の採用検討を行う必要があると考えられる。また、原料物質の製造工場における管理業務日誌の定期的な提出義務と定期的に検査と管理システムの強化を怠らないように指導監督する必要があるとともに、輸送手段と盗難防止に掛かる指導徹底が必要である。
また、わが国から輸出される原料物質についての横流し事例は今まで報告されていないが、何時わが国から輸出された原料物質が規制薬物の密造に使用されるか分からない状況にあることから、原料物質の最終使用までをモニターできる各国との協力関係を構築していくことが必要である。そして、乱用薬物の根絶には、各国共通して緊急に取り組まなければならない課題として、薬物乱用防止教育の徹底を挙げている。薬物乱用問題の正しい知識を普及し、啓発活動を行うことがまず実施しなければならない課題である。どちらかと言えば、原料物質の製造工場で従事している労働者、工場関係者の中には、全く薬物乱用問題には関係ないことと捉えている者のほうが多い。もちろん学校教育で薬物乱用防止教育を積極的に推進すべきであるが、薬物乱用問題に関する対策は、総合的な取組が必要であると考えられる。
結論
今日の薬物乱用問題は、人類が抱える最も深刻な社会問題の一つであり、その撲滅には、世界の国々が一丸となって取り組まなくてはならない。薬物乱用問題の解決には、薬物の乱用者をなくすことと同時に、不正薬物の密造防止と供給の遮断も大変重要である。とくに、世界中で問題化している先駆物質や必須化学薬品などの原料物質規制が将来的には供給削減に繋がることは明白である。原料物質の取引は国際間で煩雑に行っており、その横流し防止には、世界各国の情報交換などの協力や統一した原料物質の規制が必要である。そこで、わが国としても国際協力の一環として、早急に、取り組む必要がある。まず、新条約の付表には記載されていないが米国およびメキシコにおいてアンフェタミンの密造に使用されているPPAについては、覚せい剤原料として政令指定し、流通監視体制を確立する必要がある。新条約付表2に掲載されている物質、特に過マンガン酸カリウムや無水酢酸については、付表1物質同様に輸出に先駆けて輸入国に対して事前通告を行うと共に各国との協力で最終使用されるまでの原料物質の監視体制を確立する必要がある。また、原料物質の疑わしき取引に対する出荷停止や押収を容易にすると共に原料物質に関するコントロールドデリバリーを可能とする法律の改正を実施する必要がある。最後に、各国共通の課題として、薬物乱用問題の解決に欠かせない取り組みとして、緊急に実施する必要があるとされることは、薬物乱用防止教育の徹底であり、薬物乱用問題に対する正しい知識の普及と啓発活動を推進することであると提言したい。

公開日・更新日

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